緊急ミッション"限定パン争奪戦"
ガンプラ部を設立してから数日後
教室にて
昼休みになり
チャイムが鳴った瞬間、教室のざわめきが一気に熱気へと変わった。
「急げ急げ!今日の限定パンは“ハニーチーズメロン”だってよ!」
「えー、また?この前も一瞬で売り切れてたじゃん!」
クラスメイトたちが一斉に立ち上がり、購買部に向けて駆け出していく。
その様子をツバサは机に弁当箱を置きながら、ぽかんと見つめていた。
「……すごいなぁ」
「おいツバサ!のんびりしてる場合じゃねぇぞ!」
背後から声が飛ぶ。
リュウヤが椅子を蹴るように立ち上がり、目を輝かせていた。
「今日の限定パンはな、月イチでしか出ない幻の逸品なんだ!ガンプラで言えば限定キット級!!」
「えっ……そんなに貴重なの?」
「当たり前だ!ほら行くぞ!」
有無を言わさず腕を引かれ、ツバサは半ば強制的に廊下へ飛び出した。
⸻
「ちょ、ちょっとリュウヤ!僕お弁当持ってきてるし……」
「関係ねぇ!友情ってのは一緒に馬鹿やるもんなんだよ!」
そう言ってニカッと笑うリュウヤに、ツバサは思わず苦笑した。
そこへ、慌てて追いかけてくる足音。
「ま、待ってよ〜!」
振り返ればハルノが小さく息を弾ませながら駆け寄ってきた。
「購買部に行くなら……わ、私も!」
「おっ、いいなハルノ!三人で挑戦だ!」
リュウヤは肩を並べ、まるでバトル前みたいに拳を突き上げた。
⸻
購買部の前にはすでにかなりの人混みが出来ていた
。
「うわぁ……」ツバサは思わずため息を漏らす。
「完全に戦場だな……」リュウヤは真剣な眼差しで列を見据える。
「な、なんかバトルより緊張する……」ハルノは胸を押さえて顔を赤らめていた。
商品は刻一刻と無くなり、しかし数を数えるごとに希望は薄れていく。
「はい、残り一個だよー!」購買部のおばちゃんの声に、列がざわついた。
「よっしゃ!俺の物だぁ!!」
リュウヤが叫び、勢いよく財布を握りしめる。
――が、その直後。
「ラッキー!最後のひとつゲット!」
前の男子生徒がひょいっと袋を取ってしまった。
「な、なにぃぃぃ!?俺の幻のメロンパンがぁぁぁ!!!」
リュウヤはその場で崩れ落ち、両手を天に掲げた。
「くそっ、あと一歩のところで……ッ!」
ツバサは苦笑いしつつ、肩を叩いた。
「ドンマイ、リュウヤ。こればっかりは仕方ないよ」
「ぐぅ……!俺の青春がぁ……!」
その時。
「……あの、実は」
もじもじと小さな袋を取り出すハルノ。
中には、同じ“幻のハニーチーズメロンパン”が一つ。
「私、さっき……運良く買えちゃって……」
照れくさそうに笑いながら差し出す。
「はぁぁ!?マジかよハルノ!神!!女神!!」
リュウヤは涙目でハルノの手をガシッと掴み、ツバサも思わず笑ってしまった。
「でも、一つしかないから……」
「決まってんだろ!三人で分け合おうぜ!」
リュウヤは即答し、ツバサも頷く。
教室に戻り
机を囲んで、三人で小さく切り分けた幻のパンを味わう。
「……おいしい、チーズがほんのり甘くて…メロンの生地がサクサクしてる…」
ハルノがふわりと微笑むと、リュウヤが満足げにうなずいた。
「だろ?やっぱり仲間と分け合うからこそ最高なんだ!」
「……うん」ツバサもその言葉に頷いた。
笑顔の三人を、窓越し太陽の日差しが優しく照らしていた。
⸻
その様子をそっと見つめる影があった。
「……ふふ、楽しそうですね」
職員室へ向かう途中、廊下から覗き込んだユリ先生。
爽やかな風が通り抜ける教室で机を囲んで笑う三人の姿。
「……あの子たちなら、きっと」
優しく微笑んでから、ユリ先生は静かに歩き出した。