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鳳進高校ガンプラ部




翌日――放課後の職員室前。

廊下に差し込む夕陽が、三人の影を長く伸ばしていた。


「よっし……ついに来たな!」

リュウヤは胸を張り、勢いよく腕を組んだ。

その背中は戦場に挑む武士のように頼もしいが、ツバサからするとちょっと大げさに見えて仕方がない。


「そんなに力むことじゃないと思うけど……」

苦笑しながらも、ツバサの胸は早鐘のように高鳴っていた。昨日まで“仮”の同好会だったものが、今日から“正式な部”になる。たった一枚の申請用紙で変わる肩書き――それでも、自分たちにとっては大きな一歩だ。


「だ、大丈夫かな……私なんかが一緒で……」

ハルノが少し不安げに声を漏らす。両手でスカートの裾をぎゅっと握りしめ、視線を落としたまま。


ツバサは振り返り、柔らかな笑みを浮かべた。

「もちろんだよ。ハルノちゃんがいてくれるから、僕たちは三人になれたんだ」


リュウヤも白い歯を見せて笑い、力強く親指を立てる。

「おう!これで正式に“俺たちのガンプラ部”だ!胸張っていこうぜ!」


その言葉に背中を押され、ハルノも小さく「……うん」と頷いた。


ツバサが深呼吸をひとつしてから、職員室の扉を軽くノックする。

「失礼します」


「どうぞ~?」

中から聞こえたのは、おっとりしたユリ先生の声だった。


ドアを開けると、職員室の奥でユリ先生が机に向かって書類を整理しているのが見えた。ふんわりとした微笑みを浮かべ、三人を迎える。


「まぁ、タチバナくんにミサキくん、それにカグラザカさんも……どうしたのかしら?」


リュウヤが勢いよく前へ出た。

「ユリちゃーん!俺たち、ガンプラ部を作りたいんだ!」


「ユリちゃんじゃなくて、先生と呼びなさい」

ユリ先生は困ったように微笑む。だが、その目は叱っているというよりも優しく見守っているように感じられた。


「わかったって、ユリちゃ……先生!」

リュウヤは照れ笑いを浮かべて頭をかく。


そんなやりとりにハルノは思わず笑ってしまい、ツバサも緊張が少し和らぐ。


ツバサは一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。

「先生、僕たち三人で“ガンプラ部”を作りたいんです。申請のために、お願いします」


その真剣な眼差しに、ユリ先生はふわりと微笑み、書類の束をそっと机に置いた。

「ふふ……わかりました。あなたたちの気持ち、受け取りましたよ」

___________________


その瞬間、リュウヤが机にぐっと身を乗り出した。

「なぁユリちゃん!いや、ユリ先生!せっかくなら、このまま先生が顧問やってくれよ!」


「えっ……?」

ユリ先生は目を瞬かせ、小首をかしげた。


「だって先生、俺たちのこと気にかけてくれてるだろ?だったら、一緒に盛り上げてほしいんだ!」

リュウヤは拳を握りしめ、勢いに任せてまっすぐに訴える。


「……でも、私はガンプラは………その…詳しいわけじゃないし……。顧問というのは責任も大きいのですよ?」

ユリ先生は困ったように笑い、目を伏せた。


すかさずツバサが一歩前へ出る。

「先生。僕たちもまだまだ初心者です。だから、ガンプラに詳しいかどうかじゃなくて……僕たちの活動を見守ってくれるだけでいいんです。先生がいてくれるだけで、きっと安心できます」

その真剣な声色に、ユリ先生は顔を上げた。


「……ミサキくん……」


さらに横でハルノが両手を胸の前でぎゅっと握り、小さく瞳を潤ませる。

「わ、私……ひとりじゃ勇気を出せなかったけど……。ツバサくんとリュウヤくん、そして先生もいてくれたら……頑張ろうって思えるんです。だから……お願いです、ユリ先生……!」


ユリ先生は三人を見渡す。

リュウヤの真っ直ぐすぎる熱、ツバサの誠実な眼差し、そしてハルノの潤んだ瞳。

その全部を受け止めると、ふぅ、と優しいため息をこぼした。


「……もう、本当にあなたたちには敵わないわね」

やがて花がほころぶように笑みを浮かべる。

「わかりました。では“仮”という形で、私が顧問を引き受けましょう。

ただし――本当に部として続ける覚悟があるなら、その時は改めて正式に引き受けます。

でももしも中途半端に活動するようなら……先生は顧問から外れますからね?」


「よっしゃぁぁぁ!!」

リュウヤがその場でガッツポーズ。


ツバサは深く頭を下げ、真剣に答える。

「はい。必ず胸を張って、正式な部にしてみせます」


「……っ!ありがとうございます、先生!」

ハルノは頬を染めながらも満面の笑みを見せた。


夕陽が差し込む職員室で、三人の声が重なり合い――

小さな“同好会”は、ついに“部活”への第一歩を踏み出したのだった。

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