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新たな雛鳥



放課後。

 ガンプラ同好会の仮拠点となった一室には、今日もプロトタイプを並べて模擬戦の準備をするツバサとリュウヤの姿があった。


『よし、今日こそ俺のシャイタンで完全勝利だ!』

 リュウヤが意気揚々と拳を握る。


『そう簡単にはいかないよ。昨日の反省を活かして、今日は僕も仕掛けを増やしてみたんだから』

 ツバサも自分のアブファールトを抱えて笑みを返す。


 緊張と期待の混じった空気が部屋を満たす中——窓の向こうから小さな物音がした。


 窓の外。

そこからそっと覗き込んでいたのは、転校してきたばかりの少女・カグラザカ ハルノだった。


(あれが……ガンプラバトル……)


 クラスに馴染めず、昼休みも静かに過ごしていた彼女。だが心の奥では、ずっと「ガンプラ」という言葉に興味を抱いていた。

翼を広げ、拳を振るうプラスチックの機体たち。

その迫力に目を奪われていると——


『……そこにいるの、誰?』

 ツバサの声が部屋の中から飛んできた。


『っ……!』

 驚いたハルノは反射的に後ずさったが、すぐに窓が開いてリュウヤが顔を出した。


『おー?なんだ、覗き見か?』

『ご、ごめんなさいっ!そんなつもりじゃなくて……』

 慌てて頭を下げるハルノ。その仕草に、ツバサが慌ててフォローした。


『待って、誤解しないで!見てただけなんだよね?』

『……うん。ただ……気になって』

 少し俯きながらも、正直に答える。


『ふーん、そういうことか!』

リュウヤは、にかっと笑顔を見せた。

『だったらさ、一緒に見ていけよ!模擬戦!』


『えっ……でも……』

『大丈夫だよ』ツバサが柔らかく微笑む。

『興味があるなら、まずは見てほしいんだ』


『あっと!そうだ自己紹介しなきゃだね、僕はミサキツバサ!よろしくね!』


『俺はタチバナリュウヤだ!よろしくな!!リュウヤって呼んでくれよな!!で?お前は?』


『あっ、あの…わたしは…カグラザカ……カグラザカハルノ…です…よ、よろしくね、ツバサくん、リュウヤくん』


『うん!よろしくね、ハルノちゃん』

『おう!よろしくな!』


互いに自己紹介も済み

 促されるまま、ハルノは教室の片隅に座り、彼らの模擬戦を最後まで見届けた。

 白熱する攻防、プラスチックの機体が織りなす戦い。胸の奥が熱くなり、気づけば手をぎゅっと握りしめていた。


『……すごい』

 思わず零れたその言葉に、ツバサとリュウヤが顔を見合わせる。


『なぁ、ハルノ。お前もやってみたくなったんじゃねぇの?』

『……っ!』

 唐突に問いかけられ、ハルノは目を見開いた。


『え、えっと……わ、私なんかにできるのかな……』

『できるさ!』リュウヤが豪快に笑う。

『最初から完璧に作れるやつなんていねぇ。ツバサだってこの前デビューしたばっかだ』


『そうだよ。僕もリュウヤに誘われて作ってみたら、すごく楽しかったんだ。だから……やってみない?』

 ツバサの声は優しく、自然と心に届く。


 少しの沈黙の後、ハルノは小さく頷いた。

『……うん。作ってみたい』


『決まりだな!』リュウヤがガッと親指を立てた。

『じゃあ明日、ガンプラショップに行こうぜ!』



 翌日。放課後。

 三人で訪れたガンプラショップは、壁一面に並ぶ無数の箱で埋め尽くされていた。


『わぁ……すごい……』

 初めて目にする光景に、ハルノは思わず感嘆の声を漏らす。


『な?圧巻だろ』リュウヤが胸を張る。

『ここから好きなの選んでいいんだぜ』


だが、どれも煌びやかで、どれも格好良くて、選ぶのは簡単ではなかった。

そんな中——ふと、ある箱の前で足を止める。


『……この子……』

箱に描かれていたのは【ガンダムナドレ】。

紅い髪のように広がるコードをのついた、美しいガンダム。


ツバサとリュウヤが後ろから覗き込む。

『ナドレか。珍しいところに目をつけたな』

『強そう、でも可愛い……ってわけでもないよな、なんでそれに?』


ハルノは胸に手を当て、静かに答えた。

『……《綺麗》だと思ったの』


その言葉に、ツバサは少し驚き、そして笑みを浮かべた。

『綺麗、か……うん、ハルノちゃんらしいね』


『おう、いいじゃねぇか!なら決まりだな!』

リュウヤが背中をドンと押し、ハルノは少し恥ずかしそうに笑った。


『……うん』


こうして、

ハルノの最初のガンプラは——ナドレに決まった。

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