4.聖なる獣
ミラー様に全属性とは何か聞くと、目ん玉が飛び出るのではないかと思うくらい目が大きく開き、口は顎が外れるんじゃないかというくらい開いて、見た目の通り驚いていた。
とりあえず、使う魔力を少し増やして『オープンステータス』と唱えて、ミラー様に見せた。
すぐさま、何かの紙にメモをして、
「今日の講義はここまでだ。
後日、魔法の種類について教える。」
と言って、出て行ってしまった。
自分でも”全属性”というのは異常だと分かっているので、呼び止めはしない。
それにしても、全属性ってどんなのがあるんだろ?
私の知っている異世界アニメでは、火、水、氷、土、金、風、雷、闇、聖、の9種類くらいだった気がするけど、ミラー様のステータスには”時属性”とか見えた気もするし…。
当然のことだけど、アニメとは違うはずだ。
どんな魔法があるのかは、楽しみだけど…。
ただ、私は【守護者】ではない。
ステータスには【聖女】と書いてあった…。
次の日、楽しみな気持ちと複雑な気持ちのせいで昨夜はよく眠れなかったが、講義をすっぽかすわけにもいかないので、持ち前と言われていたポーカーフェイスで気持ちを周りに悟られないようにしながら研究棟へと向かった。
王宮を出たときは分厚い雲に覆われていた空は、研究棟につく頃には小雨に代わっていた。
第1騎士団の人が、魔法を唱えて傘のようなバリアを張ってくれたようで濡れずに済んだ。
魔法ってすごい。
私もいつかは、ありとあらゆる魔法を酷使してみたい。
そうこうしているうちに講義室につき、ミラー様の到着を待つ。
しばらく待っていると到着し、昨日の出来事が何もなかった可能に講義を始めた。
「まず、今後の予定について話す。
今日からはしばらく、属性などについて話し、確認テストを行い、合格した場合は実技に移ってもらう。
実技の詳しい内容はまた改めて語るとして、確認テストにつて話す。
確認テストは、魔法学を学ぶものはすべて受けるもので、通常は学園に入学し、魔法の基礎について学んだ時に受けてもらうものだ。
これに受からなくては、上の学年に行くどころか魔法を使うことができない。【聖女】だからと言って特別なわけでもなんでもなく、通常通り厳しく採点する。
次に、昨日の質問についてだが、全属性については、火、水、氷、土、金、風、雷、闇、聖、時、が存在することになってるが、いまだにどのような属性が存在するのかは完全にわかっていない。
最後に、変な探りをしてくるやつもいるだろうから、セナ自体のステータスについては、セナと俺、そして国王一家のみの極秘情報となる。漏らすことの無いよう、肝に銘じるように、と国王陛下からお言葉を預かっている。
何か質問はあるか?」
「まず、陛下からのお言葉、必ずやお守りいたします。
質問はありませんので、講義を進めていただいても大丈夫です。」
「分かった。
セナを疑っているわけではないが、契約を結んでもらう。
この紙に、名前―――苗字も含めて、書いてくれ。
これは契約魔法が付与された紙で、今回の場合、誰かにステータスの内容を言おうとすると、口が動かなくなる契約になっている。他にも、魔力を持つ人全員が契約するものにも講義が終わり次第サインしてもらう。
その契約は、今後のセナの能力などによっても内容が変わるから具体的な内容は言えないが、主には、人に危害が加えられないようにするものだ。
それでは、本日の講義を始める。」
【守護者】については怖くて聞けなかったが、それからの日々は、楽しくも忙しい日々だった。
魔法は、ずいぶん前から発達しており、魔法―――魔力なしでは生きていけい世界だと認識した。
属性魔法は、その属性の物質、例えば水なら水を操れるし、生み出すことができる。
物理的でない属性でも、治癒や時間の操作(これは、かなりなレベルや魔力がないとできないそうだが)などができるそうだ。
さらに、魔力を他の物に付与することもレベルや魔力によっては可能だそうだ。
そして、1年、ではなく、1カ月たった時、確認テストを行った。
なに?早すぎるって?
もともと暗記は苦手だったけど、何せ、魔法の講義しか受けてないし(暇だし)、面白いから、すぐに覚えられて、気づいたら1カ月で講義内容が終わってたのよ。
そもそも、このテストは、12歳ころの子供が受けるものだからね。難易度はそれほどって感じだったわ。
もちろん結果は合格。
例のものにサインするのかと思ったら、実技も含めて、すべて終わったらだそうだ。
実技は、体内で魔力を移動させてスムーズに外へ出せるか、それぞれの属性の切り替えや生活に必要な魔力操作、さらには、攻撃魔法についても学んだ。
攻撃魔法は、いつどこで魔物に合うかわからないので属性を持っているならやりたいと、わがままを言い、教えてもらった。
余談だが、実技は2年かけて習得するそうだが、これも1カ月で終わってしまった。
そして、魔法の講義最終日。
目の前には紙―――ではなく、銀に輝く縦長の笛が置かれていた。
しばらくそれを見つめていると、
「それは、魔笛だ。
それに、前教えたようにセナの本来の魔力を付与するんだ。やり方は覚えているな。」
魔笛、それは、魔獣を操る笛。
この世界では、一人に魔獣一体必ずいる。
魔獣とは、魔物とは違い、人を守る役目の獣だ。
人によって魔獣は異なり、その人と魔力を高めあう獣が魔力のともった笛の音色につられてやってくる。
その魔獣は、人が死ぬまで年は取らず、一生そばにいて、主が死ぬと野生に帰り元の生活を送るそうだ。
ちなみに、ミラー様の魔獣はリスのようなもので、かわいらしい魔獣だった。
人って見かけによらないものと改めて感じた。
「はい。やってみます。」
掌で魔笛を包み、何の属性も使わずに魔力を流す。
流れ始めると熱くなり、次第に落ち着く。
「『鑑定』」
鑑定魔法は様々なものを鑑定でき、今回は、『付与成功』と出てきた。
ちなみに、植物などにすると辞書のような感じで出てくる。
鑑定魔法で、魔力が完全に入ったかを確認し、ミラー様に無言でうなずく。
「それでは、丘の上に移動する。
『空間移動』やってみるか?」
と意地悪そうに言った。
ミラー様の言葉に思いっきり首を横に振ってしまう。
なにせ、私は方向音痴で、その特性はこっちでも通用するらしく変な場所に何度も行ってしまい、ミラー様を何度も困らせた。
しまいには、「それも一種の才能だ」と言われてしまった。
丘の上は王宮から少し離れたところにあり、王宮全体を見渡すことができる場所だ。
もちろん私が無事にたどり着けるはずもない。
完全にわざと「やってみるか?」と言ったはずだ。
ミラー様、この恨み忘れませんよ。
私が、睨んでいるのも構わず、
「まぁ、陛下がいる前で行わなくてはいけないから、まずは、陛下のいるところまで『空間移動』でいくか」
と、肝が冷えることを言う。
「っちょ、それは失礼です。せめて、王宮の門までにしてください!」
慌てて、ミラー様に説得する。
結構思い切った(近くにいる人の肝を冷やす)行動をする人ということが、今までの講義からわかった。
そして丘の上。
二人から離れた所に立ち、笛を構える。
風が吹いていて、胸元くらいまで伸びた髪の毛を乱す。
太陽が真上から私を照らし、スポットライトのようだ。
目の前には王宮と、それを守るかのように広がる木々が見える。
王宮自体も町から少し離れた小さな山の上に立っている。
こうして丘の上から見ても、王宮の広さはなかなかで、作り物のように見える。
ようやく風が収まり、二人にうなずいてから息を吸い、笛を鳴らした。
「―――――」
音が鳴らなく、驚きながらも、長く鳴らす。
耳に多少の違和感があるので、聞き取れない周波数なのだろう。
後で、音が聞こえずに驚いている二人に説明しなくてはいけない。
限界が近づいたので、吹くのをやめ、二人のもとへ行く。
説明をするも周波数を知らないようで、説明に手間取った。
説明をし、改めて二人から離れたところに移動し、魔獣を待つ。
どんな魔獣か、ワクワクしながら待っていると一面に影が落ちた。
今日は快晴で、雲一つなかったはずで不審に思いながらも見上げる。
見上げると羽の生えたものが上空を待っていた。
驚きで固まっているとみるみる下降してきて、私の目の前に降りてくる。
ライオンのようなものに羽が生えている。
それは、【守護者】の魔獣にしかならないといわれている伝説の魔獣「聖獣」だった。
驚きが覚めぬまま、固まっていると、お辞儀のような格好になった。
これは、私の魔獣になった証のようなもので、お辞儀をされたら、それにならい私もしなくてはいけない。
その後は色々大変だった。
陛下とミラー様は、驚きのあまりしばらく動かず、焦った。
落ち着いてから、魔獣認定を行い、後日、私と共に紹介するそうだ。
やっぱり、このことは隠すわけにはいかないらしい。
ステータスの件は、内容を控えめにしながら紹介するそうだ。
そうして魔獣の儀(私が勝手にこう名付けた)は無事に終わり、例のものにサインを―――しなかった。
聖獣が魔獣となったものは、基本契約をしなくても大丈夫な人の証だそうだ。
なにせ聖獣は、人を殺すような人の魔獣になるはずはないとされているらしい。
そもそも、聖獣が魔獣となる人物の魔力は多すぎて、契約ができないと伝えられているらしい。
…なんかものすごく適当な考えのような気もするが、そういわれたからには従うしかない。
そんなこんなで、無事に(?)魔法の講義も終わらせ、別の講義達が始まった…。
更新遅くなりました
すみません……
定期試験にバイトにいろいろ忙しかったんです
(完全に言い訳なのはわかっています………)