チョロい私は関西弁男子に落ちました
関西弁とは言っても色々。
今回の場合は大阪近郊の方言だと思っていただければ。
関東で標準語と呼ばれる言葉が飛び交う中で過ごしていると、方言を話しているだけで好きになるというか好感度が高い。
いや、別に標準語が嫌いなわけじゃねくて。
聞き慣れた「〜だよね。」という言葉よりも「〜やけん。」とか「〜やん。」とか言われた方がなんかこう……グッとくる。グッと。
心臓が鷲掴みにされた感じというか、なんというか……。
前、大学で友達になった大阪出身の子は「東京という大都会に憧れる!」とか、「標準語が普通に可愛い!」とか言ってくれたけど、私からすれば「今日バイトやねん…また今度誘って!」って言われた方が嬉しい。
というか、可愛い。
「何よ、また今度って!本当に可愛い!!何アレ、反則じゃない!?」
「気持ちはすごくわかる。やっぱりイントネーションが違うから、あ、この子地方から来た子だなってわかるし可愛い。」
「だよね、だよね!!わかるよね!?」
「うんうん。」
学校も就職も東京で済ませた私。
物価かは高いけど、実家が近い分気持ちがラクで迷わず決めた。
「こうして私達がお茶してる時も飛び交うのは標準語ばかり。」
「恋しいよね、方言が。」
「そうよね……。」
ため息混じりに語り合って居ると、三人ほどの団体が目について。
「どうしたの?」
「なんか、不思議な組み合わせじゃない?」
「ん?あー、本当だ。陽キャ二人に陰キャ一人って感じ。でも、男子ってさよくわかんない繋がり多くない?」
「漫画とかゲームで盛り上がってるよね。」
「そーそー。やっぱ陰キャはそういうの強いよね。」
「偏見。私もゲームするし、そこそこ強いよ?」
「それもそっか。じゃあアンタも陰キャ?」
「どっちでも良いよ、面倒だし。」
「そういうとこだぞ、振られるの。」
「傷口えぐらないで!!」
振られるとは言っても、もう何ヶ月も前の話だ。
彼が浮気をしてるのには結構早い段階で気づいてた。
バカだよね、バレないと思ってるあたり。
相手の女の子はそれっぽい証拠をあちこちに置いていたし、そんなことされる前から彼の服装や持ち物に変化がついたことくらい気づいてた。
気づいてて、無視してた。
「なんだっけ、冷徹って言われたんだっけ。」
「暴言吐きまくりよ。ひどくない?浮気してたんだって二人揃って報告に来た時に、普通にパックジュース飲みながら片手でスマホゲームしてただけじゃん。」
「いや、だけってレベルじゃないでしょ。」
「アポ無しで知らない女連れて家にやってきた男を歓迎する女が居るならぜひとも顔を拝みたい。」
「それはそうだろうけど…………。」
そうでしょう。
インターフォンも鳴らさずにガチャリと扉を開いたかと思えば、浮気相手と堂々と家にやってきて。
「そういうところが気に食わないから出て行けとか言い出したのよ、アイツ。本当、呆れてビックリしたわ。」
「アイツ、アンタの家に入り浸ってただけじゃないの?」
「そーよ。だから忘れてたんじゃない?あそこが自分の家だって言い出してさぁ、マジで表情抜け落ちたわ。バカじゃないのって。」
「そりゃそうでしょ。それでどうしたの?」
「アイツが浮気してるってわかった時点でアイツの使ってた道具は全部着払でちゃんと送ってあげたの、優しいから。勝手には捨ててないのよ、私。勝手に捨てると彼、怒るから。」
「え、ソレで何も言われなかったの?」
「言われなかったよ。知らないんじゃない?まさか私がアイツの実家に着払いで全部送ってるなんてさ。というか、私の家からアイツの物がなくなってることに気づいてなかったと思う。」
「うわ…………。」
「バカでしょ?」
「バカっつうか間抜けだね。」
「でしょ。あとちゃんとアンタの家は別にあるでしょ、ココは私名義だからってちゃんと伝えたわ。なんなら不動産にも連絡して証拠とったし。」
「賃貸だっけ?」
「違うよ。」
頑張って貯金して、私は賃貸ではないマンションを手に入れた。
よくCMにもなっていたそこそこ高級マンション。
高層階にはさすがに住めなかったけど、そこそこの高さには住ませて頂いた。
「まぁ、あのマンションが自分の物だと思ってたんなら、相当ショックだったでしょうね。」
「そうね。まぁ、今頃は快適に過ごしてるんじゃない?」
「え…………?アンタまさか…………!!あの部屋明け渡したの!?」
「うん。」
「え、なんで!?」
「いや、なんか気持ち悪かったし。しつこかったから。私も別のマンション下見して仮契約結んでたし。」
「うっわ…………。それで?前は四十七階建の二十七階に住んでたアンタが今度はどこに住んでるの?」
「六十八階建ての五十六階。」
「は!?」
「良いでしょ?景色すごくキレイだよ。今度遊びに来る?」
結露で少し濡れているグラスを拭き、ストローに口をつける。
暑い中で飲むクリームソーダは格別だわ。
「は!?嘘でしょ!?アンタ、高給取りだっけ!?」
「違うよ。普通の一般家庭で育った普通の一般人。」
「そんな一般人は高層階に住めないのよ!!」
「んー、まぁ縁が良かったということで。」
「マジでか。というか、そうなるとローンの返済とかバカみたいな金額なんじゃ…………。」
友人が口元をビクつかせ、こちらを見てくる。
確かに、家計を逼迫してくれるような値段だけど、あの家に住み続けるよりよっぽど良い。
「えー、マジかよ!じゃあ、あのステージは過去のフラグ回収してねーと開かねぇの!?」
「はい、そうですね。」
「わー、マジかー。俺結構課金したのになぁ。」
「俺も。今月ピンチなのに…………。はぁ、もっと早く聞いておくんだったぜ。」
「課金のしすぎは身を滅ぼしますよ。僕は無課金勢なので、あまり強くは言えないのですが。」
「は!?お前、無課金なのかよ!」
「それであの装備集めてんの!?どんだけだよ!!」
あ、さっきの三人組。
「やっぱりゲーム繋がりね。」
「だね。」
「あの陰キャ、あのメガネあってないんじゃない?どう思う?」
「アレはゲーム用のメガネだね。度なしだよ。良いなぁ。ゲーミンググラス。アレ人気超高くて手に入らなかったんだよねぇ。それに値段がお高い。」
「アンタなら買えたんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ。ゲーミンググラスを買わなかったからマンションできただけ。アレ買ってたらアイツに明け渡してなんかないわ。」
「へぇ……。」
そういやアイツ、自分の住んでた方のアパート解約したんだろうか。
そのままなんだろなぁ、アイツのことだから。
まぁ、私には関係ないけど。
「ね、お姉さん。二人?良かったら相席しない?」
さっきの三人組のうち二人がニコニコと声をかけてくる。
それに慣れた様子の友人は笑顔でどうぞと促していて。
何勝手に決めてんのと視線を送れば、イケメン捕獲……!と、ガチな目で訴えられた。
イケメン二人が左右に座って嬉しそうな友人にため息をつきつつ、隣に座ったメガネくんを見る。
この人、めちゃくちゃ肌キレイ。
「ね、肌の手入れって何してるの?」
「え?あ、いえ……特には…………。」
「特にか…………。男の子は肌キレイな人が多いなぁ……羨ましい。」
女の子が死ぬほど努力してても、何もしてない男の子の方が肌綺麗とか世の中どうなってるのって思う。
「充分キレイやと思うけどなぁ。」
「え?」
今、もしかして…………。
「わ、ち、ちゃう!ちゃうねん!僕別に…………!!」
慌てたように首を左右に振る彼を唖然と見ていれば、彼の友人二人がケラケラと笑って。
「出てるぞ、方言。」
「僕は敬語キャラに転身する〜とか言ってたクセに、意味なかったな。」
「へぇ。貴方、関西出身なんだ?」
「方言嫌なの?」
「イヤやいうか…………目立つやん…………?」
困った顔をして笑うから、思わずキュンとしてしまう。
え、何この子。
めちゃくちゃ可愛いんだけど。
「方言良いじゃん。すごく可愛いし。」
「可愛い?方言が?」
「うん。」
「キツく聞こえるって言われることは多いんやけど……可愛いは初めて言われたわ。」
「え、可愛いって、絶対。断言できる。」
なんなら方言の良さについて数時間語って聞かせてあげようか。
なんちゃって関西弁なら、あちこち飛び交ってるけど本物は少ないということも含めて。
「ふ〜ん?お姉さんは方言好きなん?」
「好き。すごく好き。」
「良かったなぁ、コレで敬語キャラに転身しなくて良いんじゃね?」
「良かったなぁ、優しいお姉さんで。」
「せやな。」
わ、わぁ……!!
本物!!本物の関西方言!!
そうだねって言わない!
そうだよねとか言わない!
ひゃー!もう、好き!!
「…………。」
「…………え、何?」
何か変な顔してただろうか。
締まりの無い顔はしてたかもしれないけど。
「ん?いや、普通にわかりやすいくらい表情に出やすいなぁ思うて。かわええね、そういうの。」
「かわ……!?」
そういう直球に最近耐性ないから……!!
「そういや、俺たち今さ、このスマホゲームハマってるんだけど、お姉さんたち知ってる?」
「良かったら一緒にしない?」
「へぇ、どんなゲームなの?」
「これはね…………。」
友人が軽いレクチャーを受けてるのを見つつ、スマホを取り出す。
彼らがハマってるゲーム、インストールしてたなぁ確か。
「あ、お姉さんはやってるんや。」
「う、うん。あんまり進めてないけど。」
「なら、これも何かの縁やし、フレンドならへん?」
「え?」
その申し出に目を瞬いていれば、ニコリと笑って。
「フレンドおる方が進めやすいゲームやし、コレやったら、フレンド削除もしやすいやろ?」
「それは、そうだけど…………。」
「気が向いたらチャットして?」
彼からの友達申請を、受理する。
「僕、緊張しいやからコレが精一杯。」
「精一杯って…………。」
「キモい思うたら削除してくれてええから。あとは、お姉さんに任せるわ。」
彼のフレンド欄にある私のユーザー名が、お気に入り登録される。
「僕が消すことはないから。ソレだけは、覚えとって?」
あぁ、やばい。
何がやばいって?
「仲良うしてな、お姉さん。」
うまく説明できないけど。
「…………なんかもう、ずるい…っ!!」
方言とか関係なしに、見た目に反して積極的な貴方にすでにドキドキしてしまってるので。
おそらく私も、家に帰る頃にはお気に入り登録してるかもしれないとは思った。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝