表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/34

番外編・王太子エドワードの憂鬱


薔薇の王国と謳われる、聖セプタード王国の王太子エドワードは、朝から胸の痛みを感じていた。


幼い頃からの癖で、精神的に辛い時ほどお互い励まし合っていた、元婚約者の月の女神のような微笑みが目に浮かぶ。


「……リズは元気にしているんだろうか」


「…………殿下。グリサリオ公爵令嬢の件はもう……」


王宮の自室から執務室に向かう渡り廊下を歩きながら、つい呟いてしまった心の声に、側近のラリーが言葉を濁す。


「僕だって分かっているさ。そんな憐れみの目で見るな、元気か案じるぐらい別にいいだろう!

リズだって、エドはどうしているかと、きっと気に掛けてくれているはずだ!」


「ですが殿下……」


途中で言葉を切ったラリーを不審に思い顔を向けると、中庭の綺麗に咲き揃った赤い薔薇のアーチから、黒髪の男がこちらに向かって来ていた。


「…………オリバー」


その男は僕の前まで来て、膝をついて礼を取る。


この漆黒の髪に紺碧色の瞳を持つ男の名前は、オリバー・アプロウズ。


建国より王国を支える巨大な五柱、五大公爵家の一つアプロウズ家の嫡男だ。


…………そして、僕の元婚約者となったリズと、この春に婚約する男………でもある。


(普通、もっと身の置き所がなさそうな顔をしないか……?


こんな時でも、いつもの堂々とした態度で現れるとか……相変わらず嫌なヤツ……)


「王国の麗しき黄金の薔薇、王太子殿下にご挨拶いたします」


「……堅苦しい挨拶はよい」


片手を上げると、頭を上げ姿勢を直したオリバーと目が合う。


「先日、陛下からお聞きしたよ。エリザベス嬢と婚約を結ぶそうだね」


「はい、恐れながら不思議な縁を頂きまして…」


不思議な縁…………。


あれはまさに、青天の霹靂だった。


グリサリオ公爵家からの申し出で、驚く間もなく婚約破棄になり、僕がリズを失ってしまった原因。


何でも亡き公爵夫人が、夢のお告げで王家との婚姻を止めたとか……。


「随分と性急な話なんだな、さすがに驚いた。


………エリザベス嬢は、本来僕の(・・)妃となるはずだった女性だ、大切にするように」


オリバーの表情に、ふと腑に落ちるような感覚があり鎌をかけると、彼は不敵そうに口の端を上げた。


「…………殿下のお言葉は胸に。

必ずや私の(・・)妻となるエリザベス嬢を、生涯幸せにする事を誓います。どうぞご安心ください」


「…………………!」


(やっぱり!やっぱりそうだったのか!

この婚約は政略ではなく、以前からリズを………!


じゃあ、昔から僕に対して、なぜか当たりが強かったのも…横恋慕だったんじゃないか!!)


お互い燃えるような恋とは違ったけれど、それでも二人で歴代の賢王のように、国の礎となろうと誓い合い、支え合ってきた。


今は変な夢で怯えていても、春から入学する王立魔法学院で友人として側にいれば…


いつかきっと、またリズの気持ちも変わる。

そう考えていたのに……!


それをこいつが横から…!!


「殿下、今回のグリサリオとアプロウズの婚姻に、眉をひそめる貴族も一部にはいるようですが……」


そう言って言葉を切り、目の前の男は紺碧の瞳でこちらを見据えてきた。


「……むしろ、この婚姻が成るからこそ、この先の殿下の治世が盤石になったのだと。


その様に、殿下にはお心安くお過ごし頂ければ、五柱の一つとして幸いでございます」


「…………はっ?」


「では、御前失礼致します」


マントを翻し立ち去るオリバーの後ろ姿を、信じられない思いで見送る。


黒髪が赤薔薇の生け垣に溶け込んでいくように消えると、ようやく正気を取り戻した。


「なっ!!ラリー、聞いたか!?

あいつ!……リズを手に入れる為に絶対、王位簒奪考えてたぞ!!」


「……サラリとやっちゃいそうですよね、オリバー殿なら。

本気で、本気でやばかったかと………。

殿下……命拾いしましたね……。

夢のお告げって、もしかして王家を守る為のものだったんじゃ……」


もし、運命が違っていて、アプロウズが反旗を翻す未来があったとしたならば、グリサリオは王家側に付いてくれただろうかと考え始め……止めた。


遠い目をして、魂が抜けたようなラリーを引き摺るようにして、執務室へ足を向ける。


「……リズ、今なにしてる……?

本当に君はあいつでいいのか?」


「殿下、流石にちょっと……。

もう前を向かれたほうが……僕なんて、まだ震えが……」


側近のラリーに泣いて縋られていた僕は、何も気付いてなかった。


婚約者時代には、二人きりの時にお互いを「リズ」「エド」と呼び合っていた事を、オリバー・アプロウズに聞かれていた事に……。


そして、ちょうどその時、元婚約者のエリザベスが、なぜだかゾクッと寒気を感じて、首を傾げながら腕を擦っていた事に……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] オリバー怖い、マジ怖い え?これ小説のエリザベスって本当に毒殺されたの?一時的に仮死状態になる薬とかにすり替えられてて実はオリバーに囲われてたとかないよね? 仮死状態の後遺症で身体が不…
[一言] 面白かったです(*˘︶˘*).。.:*♡ 本編だと殺されたエリザベスの復讐に オリバーが、王家に半旗を!?なんて 展開に? しかし、どっちになろうが、ヒロインは クソですね(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ