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16.



「赤毛の看板娘…ああ!エマって娘のいるパン屋かい!?」


「そうです、そこですわ!エマです!!」


エマの名前が出た途端叫んでいた。


(いるんだ!やっぱりエマはこの世界にいるんだわ…!!間違いなく本当に「うる薔薇」の物語の通りってことよね!?)


隣のオリバー様が訝しげに見てくるが、気が付かない振りをした。


オリバー様は色々と聞きたいことがあるだろうに、何も言わずに付き添ってくれている。


(ごめんなさい…!でもいま問い詰められても、理由なんて話せないもの。とにかくエマを見つけないと…)


「あの、そのお店はどちらにありますの!…いえ、ええと、…どこですか!」


「お、おう。そこの角を左に曲がって2つ目の十字路を…」


花屋の店主はわたくしの勢いに気圧されながらも、親切に教えてくれた。


「ありがとうございます!」


「エリー、見つかって良かったね」


「ええ!」


(エマがいたら…。やっぱり婚約破棄は間違って無かったって思えるわ!


自分の命のために仕方なかったんだって…。


そうしたら、そうしたらわたくし、これ以上公爵家に迷惑を掛けないような、そんな新しい婚約者を探して、そして…)


そう考えて、あれほど意気込んでいた婚約者探しに、なぜだか少し胸が痛んだ。


(これが最後かもしれないわね。新しい婚約者が決まれば、オリバー様とこうして手を繋ぐことも…)


ずっと繋がれたままの左手に目をやると、心に風が吹き込んでくるような気持ちがしたけれど、それを振り払うように、首を横にふった。


「いまから行ってみますね。わたくしご店主のご親切はきっと忘れませんわ」


「うーん、だがよ。あんまり貴族のお嬢ちゃんにオススメ出来ねぇって言うか…

何で探してるか知らねぇが、近づかねぇほうがいいと思うぜ」


そう言って、気まずそうに顎ひげをポリポリと掻いて、人の良さそうな顔を歪めた。


「……?この辺りで評判のパン屋、ですわよね?」


「とんでもねぇ、あそこは赤毛の娘に乗っ取られちまって。気のいい女店主がうまいパンを焼いてくれてたんだがなぁ…」


「えっ、なんて?」


(乗っ取り?誰が…)


「ずいぶん不穏だね」


「そ、そんなわけは…。あの、気立ての良い綺麗な娘さんがいて、繁盛してるのでは…?」


「とんでもねぇ!パンはすっかり不味くなっちまうし、目付きの悪い奴らが出入りするようになってな」


「…そうなんですのね」


「悪いことは言わねぇ、俺が最高の花束作っとくから、行くならさっさと用事済ませてくるんだぜ」


花屋の店主が店内に戻っていくのを見送ると、隣のオリバー様を窺った。


「あの、これからパン屋に…」


「エリーにどんな用があるのかは知らないけど…。今日はやめておこうか?後で手の者に調べさせてからの方が良さそうだよ」


「わたくし、どうしても行きたいんです!せめて様子を見るだけでも…お願いします」


「さすがに不安要素のある場所には連れて行ってあげられないよ」


「そんな、せっかくここまできたのに…」


「うーん、エリーがプロポーズを受けてくれるならお願いを聞いてあげても…」


オリバー様はその漆黒の闇色の髪をかきあげながら、おどけたように瞳を艶めかせた。


「結婚はできませんわ」


「はっきり言うなぁ。諦める気は無いけど、やっぱり傷付くよね」


「…………だって本当に無理だもの」


「どうして無理だと思うの?まあ、そうやってエリーの素が見られるのは嬉しいけどね」

 

(わたくしの素?…確かに王太子殿下とは、こんな風にやり取りをした事なんて無かったわ……)


何て返していいのか分からず俯いていると、オリバー様が手を強く握り直した。


「そんな顔されると弱いな…。本当に様子を見るだけだよ?」


「……!ありがとうございます!!」


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