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13.


玄関ホールには、美しい青薔薇の花束と、薄い金色の包装紙に綺麗な青色のオーガンジーのリボンを纏った箱が、いくつも積み上げられている。


「エリック、これは?わたくし、てっきりお兄様がオリバー様へお断りをして下さったとばかり…」


「こちら、メッセージカードも添えられてございます。それからオリバー・アプロウズ様ですが、いま…」


気まずそうにしている家令のエリックから、カードを受け取って開く。


「ちょっと待って。ええと、…鳥籠から出た小鳥の羽休めは、貴方を愛する青薔薇の梢に…」


「ごきげんよう、エリー。さすがの僕も君の愛らしい声で読み上げられると気恥ずかしいな」


(えっ!?)


積み上がった箱の横から、とても恥ずかしがっているとは思えない堂々とした姿のオリバー様が現れた。


「オリバー様!どうして…?」


「どうしてって、毎日自分で届けているからね」


「はっ?」


予想外なことを言われ、つい公爵令嬢にあるまじき間抜けな声が出てしまう。


(ご自分で!?アプロウズ公爵家の嫡男であるオリバー様が!?)


「あ、あの、オリバー様ごきげんよう。あっ!?」


とりあえずご挨拶と贈り物のお礼をしなければと、軽くカーテシーをしようとして、ドレスを着ていないことを思い出す。


「平民風のワンピースなんて着てどこに行くの?」


「あの…こちらは気分転換にただ着てみたというか…」


「気分転換に下町にでも行くの?」


「いいえ、そのようなことは…」


「グリサリオの紋章の付いていない馬車が止まってたけど、あれに乗るんでしょ?」


「…………」


「先程エリックが公爵閣下もジョージも留守だと言ってたけど、内緒なら僕が一緒に行くね」


「いいよね?」


(ひっ!はははははいぃぃぃ!)


優しい声音だけれど、あの日のお兄様を彷彿とさせる有無を言わせぬ圧に、声も出せずただ頷いたのだった。


____________


そして、わが聖セプタード王国の繁栄の証でもある、整備された石畳の上を走る馬車の中。


お互い窓から外の景色を眺めるでもなく、揉めていた…。


「その、隣にお座りになるのは困りますわ」


長い脚を持て余すように組んで、当然のように隣で微笑んでいるオリバー様に、こればかりは譲れないと伝えた。


「なぜ?いずれエリーとは夫婦になるんだし」


「愛称呼びも控えて頂けると…。それに残念ですが、夫婦にはなれませんわ」


「なれないとエリーは残念なんだね、良かった」


「社交辞令ですわっ!!…あら」


「ぷはっ、あはははは」


その「宵闇の君」の呼び名に相応しい美しく青い瞳を瞬かせ、オリバー様は嬉しそうに破顔した。


(いやだわ、調子が狂って淑女の仮面が外れてばっかり!幼い頃からずっと、将来の王太子妃として教育されてきたのに…どうして?)


まだ声を出して笑い続けているオリバー様に、顔が赤くなるのが抑えられない。


(頬が熱い…。何だか前世を思い出してからずっと、出鼻をくじかれてる気がするわ…)


前世の記憶を思い出して、ここがベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐ」の世界だと気付いてから、とにかく自分の悲惨な未来から逃げる事だけ考えてきた。


(わたくしの命がかかっているのよって、息巻いていたけれど…。婚約破棄ができて冷静になってみると、そのせいで公爵家に大きな損失なんて…)


「怒ったの?」


「…いいえ」


「ごめんね。君と殿下の婚約が無くなって、僕はかなり浮かれているんだ」


「…………」


「お詫びに行きたい所へ連れて行ってあげる、エリーはどこへ行きたい?」


少しも悪いと思ってなさそうだけれど、眉を下げて少し甘えるような瞳を向けるオリバー様に、勝てそうもなかった。


「わたくし、パン屋に行ってみたいわ」


「パン屋?」


「はい、いくつか探して回りたくて…」


不思議そうに首を傾げるオリバー様にそう言って、窓の外に視線を向ける。


(そう、本当に王都にエマがいるのか探したい…。本当に婚約破棄が正しかったのか…)


「悠久の麗しき薔薇に捧ぐ」のヒロイン・エマは孤児院育ちだ。


孤児院を出た後、仕事が見つからず困っていたエマを、そのひたむきさに心打たれた下町のパン屋の女主人が助けてくれて、住み込みをしながら看板娘として働くことに…。


(物語では、まだコトレー男爵に引き取られる前のはず。お兄様は信じて下さったけれど、本当にここが物語の世界なのか、婚約者探しの前に確かめたい…!)


その時、真っ赤に燃える薔薇のような赤髪が、視界に飛び込んできた。


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