表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/34

11.


「だってエリーは「王家の鳥籠」から外へ出るんだろう?

なら僕のところへおいで」


「宵闇の君」は、その紺碧の海のような瞳をいたずらっぽく煌めかせて、わたくしに言ったのだった。


(まるで一幅の絵画のようだわ…)


あまりの魅惑的な言葉(セリフ)と表情に夢見るような心地になるけれど、しかし何を言われたのかは、さっぱり理解できない。


(おいで…おいでとは?どこに?わたくしが自由な立場になったから、アプロウズ家に遊びにおいでとか…。

それとも何かいま社交界で流行りの比喩とか…かしら?)


「オリバー!お前いきなり何言って…!」


オリバー様は、怒鳴るお兄様には目もくれず席を立つと、優雅な足取りで私の元にいらして、


エリザベス嬢(・・・・・・)、正式な婚約の申し出(プロポーズ)は改めて。

きちんと公爵閣下のお許しを得てからにするよ。でも、エリーに気持ちは伝えておかないとね」


そうして、わたくしの手の甲にキスをした。


(プ、プ、プロポーズ!?)


「エリーを愛称で呼ぶな!そんなすぐに父から許しなど出ない!」


「ほら、どうせそうして過保護な君が囲い込むだろうと、今朝は急いで…」


「少しは段階を踏め!」


(どどど動揺してはだめよ、わたくし公爵令嬢ですもの!)


幼い頃から「将来の王太子妃」だったわたくしは、恋をすることも、殿方から甘い言葉を囁かれることもなかった。


(初めてのことで舞い上がってしまったけれど、お兄様のおっしゃる通りだわ。

そう、お父様からお許しなど出ない(・・・・・・・・)のだもの)


内心の動揺を抑えてお二人に声を掛ける。


「お兄様、わたくし用事を思い出しましたわ。お先に部屋に戻らせていただきますね。オリバー様もごきげんよう」


「「え…………」」


目を瞬くお二人に軽くカーテシーをして、何事も無かったように、颯爽とダイニングルームを後にした。


「えっ、ちょっと?エリザベス嬢!」


背中にオリバー様の追いかける声が聞こえたような気がしたけれど、もう扉は閉まった後だった。

___________


あれほど早く行きたかった公爵邸の図書室には足が向かず、真っ直ぐに部屋へ戻った。


「お嬢様、軽くつまめる物をお持ちしました」


「ありがとう、ラリサ」


「でも、びっくりいたしましたね。まさかアプロウズ家のオリバー様が…」


「そうね、でもグリサリオとアプロウズの婚姻などあり得ないもの。きっとご冗談じゃないかしら」


「それに奥様のお告げもありますものね、お嬢様が公爵家を離れるわけにもいきませんし…」


「…ゴホッ」


一口サイズのサンドイッチが喉につまってしまい、紅茶で流し込む。


(お母様のお告げ、すっかり忘れていたわ!)


「そうは言っても「宵闇の君」から求婚されるなんて!さすがはラリサのお嬢様ですわ!」


「ラリサったら」


(王太子殿下との婚約破棄なんて不敬をしておいて、五大公爵家のうちのグリサリオ家とアプロウズ家の婚姻なんて…。


王家に叛意があると受け取られかねないもの。

きっと、お兄様があの後お断りになっているわね)


何だか熱を持っているような気がして、オリバー様の触れた右手を胸元で握りしめた。


けれど想像に反して、その日からグリサリオ公爵邸には、オリバー様からわたくしへの贈り物が毎日のように届いたのだった。


アプロウズ家のシンボルである「青薔薇」の花束を添えて…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ