マッポよ。末法の世を生きよ。
★★前回までの裏筋
松野は6人組男性偶像集団美的公団『マッシブ・アクティブ・センシティブ』でドラムを担当している松田の殺害に成功する。
一方その頃。全裸の男が温泉街を駆けまわっているとの通報を受けた保理素舖李公巡査が松野の行方を追っているのであった。
(マッポの仕事も楽じゃねぇぜ)
犯人の外見的特徴や目撃情報を仔細に知るため舖李公は町民から聞き込み調査を行うことにした。
(まずは薄汚い煙草屋のクソババァから話を聞いてみるぜ)
◇◇
「不審者? あー、もしかしてさっき裸でこのあたりをウロチョロ走り回っている男のことかい。鬼クソデカかったよ。アレが。アレって何ですかって? そりゃおめぇ……乙女に何てこと聞いてんだい/// さっさと立ち去れや。このド腐れ公僕めが」
あー縊り殺してぇ。クソ汚ねぇ糞の詰まった腸やら何やら引きずり出してクリスマスツリーのオーナメントみてぇにどっかに飾り付けてやろうかな。舖李公は腹の底から沸々と沸き起こる猟奇的な殺人衝動を必死に抑えながら、煙草屋から立ち去った。懐からメモ帳をヌッと出すと、サッとページ捲り、ピョッとペンを走らせた。
(犯人の特徴はアレがとにかく長くて太い)
舖李公のペンがピタリと止まる。
長くて太い……。ながくて……長久手……。
(五牧・長久手の戦い……)
五牧・長久手の戦いが起きたのは今から数十年前のこと。少年だった頃の舖李公は、このとんでもなくデカくてヤバい合戦に巻き込まれ、この世のものとは思えない酸鼻極まる凄惨な光景の数々を目にしていたのだ。自分の意志とは無関係に過去のトラウマがフラッシュバックのように次々と鮮明に記憶の海から呼び起こされて、舖李公の額に脂汗がじわりと浮かんだ。
(やべぇぜ……あの時のやべぇ光景が目に浮かんでくるようだぜ……)
彼が言うやべぇ光景とは闇よりいでて闇より黒い漆黒の甲冑と、そして黒よりいでて黒より黒い漆黒の外套を身に纏った黒騎士がまだ年端の行かない子供であった舖李公の前に現れた時のことだ。
『尻を撫でさせろ尻を撫でさせろ尻を撫でさせろ尻を撫でさせろ尻を撫でさせろ尻を撫でさせろ尻を舐めさせろ』
黒騎士は黒光りする漆黒の剣先を舖李公に向けながら距離を徐々に詰めてくる。黒騎士のあまりの剣幕に圧倒された幼かった舖李公は悲鳴をあげ、ただひたすらに許しを請うことしかできなかった。
この黒騎士はエリート戦士達を編成した体操隊の一員であり、敵地の若年層(将来的に戦力になりそうな)をなぶり殺し、あるいは性的不能にすることをモットーとしていた。
『ひぃぃぃ!!お助けを~~~。許してつかぁさいぃぃぃ~~』
『尻を舐めさせろ尻を舐めさせろ尻を舐めさせろ尻を舐めさせろ尻を舐めさせろ尻を舐めさせろ尻を舐めさせろ尻を撫でさせろ』
『ひぃぃぃ!!お助けを~~~。許してつかぁさいぃぃぃ~~』
『尻を撫でさせろ尻を撫でさせろ尻を撫でさせろ尻を撫でさせろ尻を撫でさせろ尻を撫でさせろ尻を舐めさせろ』
かくして黒騎士の慰み者にされてしまった舖李公は夜が明けるまでに尻を撫でられたり、舐められ続けた。夜霧が闇夜の中に溶け込んでいくように、彼の人としての尊厳も同時に消えていく。ぴちゃぴちゃという卑猥な水音だけが暗い闇夜の森の中でいつまでも反響した。忘れたくても忘れられにおぞましい過去の記憶に舖李公は長年苦しめられていた。
(落ち着け。落ち着くのだ俺)
心臓の鼓動が早まり、全身が強張っていた。深く息を吸い、自分自身に大丈夫だと必死に言い聞かせていた時、ふと血の臭いが彼の鼻腔をくすぐった。
(なんだこの匂いは!!)
それは血の臭いであった。