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与太者 ~YOTAMONO~

 その時、松野から向かって前方左側に位置する自閉式機能の付いた引戸が荒々しい音を立てながら開け放たれ、20代前半ほどの5人の若者がドタドタと大浴場に駆けこんできた。


「貴様が松野隆雄だな?」


「何だね。君たちは。まだ湯浴みが終わっていないでしょうがぁ!」


「問答無用!!お命頂戴仕るッ!!てゐ~」


 リーダー格と思われる男が30センチ程度の中空の筒を咥え、群れの中から一歩前に進み寄った。筒の中で毒矢の先端が湯船の中で座禅を組んでいた松野へ向けられている。松野のホットスプリング・センスが危機を察知した。ホットスプリングセンスとは松野が温泉入浴することで得る一時的な第六感のことである。


「南無三ッ!!」


 男が筒に息を思い切り吹き込むことで放たれた毒矢を松野は大股を開いてその場で勢いよく飛びあがることで躱した。跳躍が僅かにでも遅れでもしていたら今頃、彼の股座でぶらつくモノはその矢で射貫かれていたことだろう。5人の若者は松野の身体能力に目を丸くし、呆気に取られているようであった。その隙に松野は湯舟を飛び出し露天風呂(坪庭を眺めながら入浴できる)へと続く引き戸を乱暴にこじ開ける。


「おい待て!」 


 刺客のうちの一人、3枚のシャンプーハットを被った男が松野の後を追いかけながらハットの縁に触れた。


 キュイイイイイイイインッ!!


 シャンプーハットが超高速で回転し頭上に浮揚。勢い、虚空に漂うそれを男は人差し指で見事に捉え、手首の振りを加えて松野へと放った。引き戸の僅かの隙間を縫って投擲されたシャンプーハットは松野の首をつけ狙う。


「南無三ッ!!」


 身を捩り、シャンプーハットを叩き落とした松野はそのままの勢いで坪庭の塀をよじ登り、『かじかの湯』から脱出。軽やかな身のこなしは日頃の鍛錬の賜物である。


 与太者から何とか逃げおおせることに成功した松野はだらりと垂れ下がったイチモツを太腿にべしべしと当たるのも厭わず裸で温泉街を駆け抜けた。


(あー暇だな)


 道沿いに露店を出している死んだ目をした的屋のあんちゃんが客の少なさに嘆いていると突如、全裸の男(松野)が猛烈な速度で店の前を横切った。


(なんだあのでっかいモノ♡♡♡)


 松野の巨大なイチモツに目を奪われた『てつはう屋』のあんちゃんは、目をハートに輝かせ咥えていた煙草をぽろりと地面に落とした。松野はそんなあんちゃんの様子をちらと横目で見た後、視線を自分のイチモツを移す。


(うぅむ。こちらもぽろりであるな……彼には見苦しいものを見せてしまった。かたじけない)


 そこには放熱中のため、だるんだるんに垂れ下がった玉袋が振り子時計のように規則的に揺れるイチモツの姿があった。

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