#6 ジャンボ・ザ・ビッグ
リングバトルが始まると、まずマップ外の無敵エリアからスタートする。
そこからプレイヤーたちは100mの【ダッシュパネル】の上を走ることによって助走をつけ、バトルフィールド内へと飛び立っていく。
ダッシュパネルの上は通常の2.5倍のスピードで走ることができ、一種のカタパルト装置のような役割を果たしている。
一度デスしたプレイヤーはデスペナルティを受けてからリスポーンして、最初の無敵エリアから再出発する仕組みだ。
なぜスタート地点がこんな形式になっているのかというと、それは【リスキル】対策のためである。
リスキルとはリスポーン・キルの略で、復活した敵をその瞬間に再びキルするというもの。
これをやられると試合が一方的なものになってしまい一気につまらなくなる。
まぁ勝つための戦術としては正しいのかもしれないんだけどね……。
『両チームとも合意とみてよろしいかな~?』
くるくるくる~――シュタッ!
何者かがいきなり空中から回転しながら現れる。
『どうも皆さん! 私は実況兼、解説兼、レフェリー兼、ガヤ担当のジャンボ・ザ・ビッグと申します~! 以後お見知りおきを!』
いや兼ねすぎだろ……。一人でどんだけやるんだよ。
彼はSBSの会場ならどこにでもいる存在。
なんなら本当に観客席にちらほらいて、本当にガヤをやっているまである。
みんな同じ顔をしている黒服サングラスのアフロが会場に何体もいるのだ。
普通は不気味で気持ち悪いと思うだろう……。
しかし、どうやらほとんどのプレイヤーはもう慣れてしまったみたいだ。
むしろ仲良くなったプレイヤーは普通にジャンボと会話してるし、分からないことを質問した時には懇切丁寧に教えてくれたりするらしい……。
「ジャンボさん。最近、彼の様子がおかしいんです……」
ぐすん……と涙ながらに話し出す女性。
「あぁ、彼なら最近火山エリアのダンジョンで見かけましたよ? あそこは確かレアなアクセサリーがドロップするみたいですね~」
「嘘……それって私が欲しがってた【聖なる指輪】じゃ……。私はレベルが足りなくて手に入れられなかったんですけど……」
「なるほど。それじゃ彼は貴方のために頑張っていたのかもしれませんね~」
ハッ……そうだったのね! と言わんばかりにジャンボの言葉で気づく女性。
「……何をしているの私。早く彼の元へ行かなきゃ!」
ははは――と笑いながら、手を振って女性を見送るジャンボ。
……なんか観客席で変なドラマが発生してるんですけど。
っていうかダンジョンにも出没してるんかい! アンタは……。
『あの~準備の方はよろしいですか? 私がコールしたら試合始まっちゃいますよ?』
……え? あぁ、そういえばこっちにもいたわ……ジャンボ。
「しっかりしてくださいカケル! 今日で私もマスターにいけるかもしれないんですから!」
「ごめんピィちゃん。ぼーっとしてた……」
いかんいかん。集中力を取り戻さないと……。
こういう時は落ち着いて深呼吸だ。
すーはー。すーはー。……うんよし。
「ジャンボさんも待たせてごめん。もう大丈夫、始めてくれ」
『わかりました。それでは両チームの皆さん! スタートの準備をお願いします』
各プレイヤーはそれぞれのダッシュパネルの上に立つ。
『大変お待たせ致しました~! これよりチームマッチによるリングバトルを開始いたします!』
言いながらジャンボ・ザ・ビッグが実況席へと戻る。
そこにはかなり目立つ大きな砂時計が置いてあり、それが試合時間を表すタイマーの役割を果たしている。
ジャンボがコールをしたと同時に、その砂時計をひっくり返したら試合開始となる。
『それでは参りますよ~。3……2……1……試合開始ィ!』