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私が、転生するの?!

作者: 睦月はる




楽しんでいただけたら幸いです。








 昨今の日本人は、異世界に転生しすぎではないか?




「あなたは本来この事故で死ぬ運命ではありませんでした。あなたの残りの寿命を使い、望む異世界に転生させましょう」


 今さっき交通事故で死んだ筈の自分は、真っ白な空間で目を覚ました。

 どういう事だと混乱する前に、キラキラと輝く美女が突如現れ、私は魂の管理者だと名乗り、以上の提案をしてきたのだ。


 そっか、いま流行りのアレか。と、死んだ時に脳みそがぶっ飛んだのか、未練も無ければご都合よく速攻で状況を理解し、目の前の美女を見返した。


「それは強制?」


「この空間には只の魂は長く留まれません。あなたはこのまま消滅するか、異世界に転生して新しい人生を歩むか、どちらかを選ぶ必要があります」


 フムと、顎に手をやる。


 事実上選択肢は一つしかない。消滅か新しい命かを選べと言われたら、そりゃあ誰だって後者を選ぶ。


 魂の管理者は自分がどの様に転生するか、迷っていると思ったのだろう。慈愛の微笑みを浮かべて言った。


「あなたの寿命は沢山残っていました。なので希望する世界に転生する事は勿論、地位や環境、魔法やスキル、戦闘能力に種族、あらゆるものを自由に選択可能です。さあ、どの世界に転生しますか?」


 魂の管理者が両手を広げると、周囲に光る球体が幾つも現れ様々に輝き始めた。

 それが転生できる世界なのか。光りながらその世界の様子が映し出されている。


 ケモノ耳の美少女。妖精と戯れるドラゴン。剣と魔法で闘う戦士。海底の超ハイテク国家。天空の酒池肉林。


 自分はその様をぼうっと見つめたあと、ゆっくりと周囲を見渡して、魂の管理者へ視線を定めた。


「自分が、何を選んでも自由?」


「左様です」


「そう。じゃあ、決めたよ」


 魂の管理者が笑みを深め、手を組み合わせると、光の球体が自分と、魂の管理者との間に整然と図形のように展開した。


「では、あなたの望みを仰って下さい。あなたの望む新しい命を授けましょう」


 美しい微笑みだか、その笑みは整い過ぎて機械じみている。その顔をしっかりと見つめて言った。





「魂の管理者、あんたを転生させる」





 へっと、魂の管理者が妙な声を漏らした。


「は…?何を…、私を転生させる??言いましたよね、あなたは転生するか消滅するか、それしか道が無いのです。このままだと、あなたは消滅してしまうんですよ…?」


 心なしか、光る球体も戸惑ったように揺れている。


「それは『只の魂』だからだろ?あんたを転生させて、俺はここに留まるよ。魂の管理者として」


 何言ってんだコイツ。と無言の圧力が空間を漂った。


「…そんな事、今までありませんでした。あり得ません。いえ、あった?私はどうして魂の管理者に…?分からない!分からない!……転生先を言って下さい…!」


 はじめて魂の管理者が感情的になった。

 花顔を歪ませて、理解出来ないと首を振る。

 転生を選べと、苦しそうに何度も繰り返す。


「なあ、あんたは自分を『管理者』って言ったろ?神様みたいな絶対的な存在じゃなくてさ。もっと偉いヤツがいるんじゃないか?で、あんたはその部下、みたいな。あんたをその役目に就けたヤツがいんじゃないの?」


 魂の管理者の目が泳いだ。光の球体も動揺しているのか、整然とした図形を崩す。


「そうだとして、どうして私を転生させる話になるのです。理由は、なんですか…!」


「理由?理由は…、理不尽に死んだ憂さ晴らし?的な?」


「はあ?!」


「一方的に、選択を決められて迫られた意趣返し、的な?」


 愕然と、魂の管理者が言葉を失った。光の球体は怒っている風にそこら中を飛び回り、危うく当たりそうになって体を捻る。


 疑問符だらけの要領を得ない言い方に、魂の管理者が再び口を開きかけた時、頭上から一筋の光が魂の管理者を照らした。


 何処からか分からない、何者かも分からない。でも、ひたすらに神々しい光が。


「そんな…ウソ…?!」


 光の球体が、照らされる魂の管理者の周囲を高速で回り、混乱で何もできない魂の管理者ーーーいや、転生者は助けを求めるかのように俺を見たが、俺はヒラヒラと手を振るだけだ。


 恨むなら、俺を事故死させたヤツと、この転生システムを作ったヤツに言え。


 ああ、あと。俺が事故から助けた筈の彼女そっくりな顔で、そんな生気の無い顔してるのが悪い。

 そんな顔してるヤツに、新しい命なんて貰っても嬉しくねぇんよ。すまんな横暴な元転生者で。


 転生者は泣きそうな、でもどこかほっとしたような、万感の表情を浮かべて光りと共に消えていった。


 すると俺の目の前に、ゲーム画面の様な映像が出てくる。


 『職業 : 魂の管理者 ✕✕✕代目 必要能力・知識インストール中…』


 苦笑する。ゲームかよ。だとしたらとんだクソゲーだ。俺の彼女そっくりなヤツを、生きてる感じがしないヤツを、俺の担当にするんじゃねぇよ。


 しかし✕✕✕代目か。俺みたいのが他にもいたのか、それとも他の理由からか、魂の管理者とは離職率が結構高めらしい。


 ぽーんと、館内放送みたいな音が響く。


 『次の転生者が参りました。魂の管理者は転生の準備をはじめて下さい』


「体感としては、死んで三十分で転生ドロップアウトして、死んだまま転職した感じか」


 まあいっか。


 人間死ぬ気でやれば大抵の事は出来るようになるが、俺はとっくに死んでいる。出来ない事などないだろう。

 また俺みたいな変なヤツとチェンジするか、神様的なヤツに消されるのが先か。




 それまでは。




 転生しなかった転生者の話があっても、たまにはいいだろ?







   おわり




読んで下さってありがとうごさいました。








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