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第六章

 そんなかんだで最近部室にれいちゃんは来ない。何をしているのかはさっぱり分からない、そもそも同じ学年ののーくんでさえ、クラスが違うから滅多に会わないらしい。


 だから少しの間、萌さんに関する話題は部ではしなかった。ある意味れいちゃんが来る前の部に戻ったってことだ。


 休日、やっちゃんが珍しく私の家にやって来た。


 そして謎のノートを読もうとするやっちゃんを制して、ノートを片付ける。


「読んでみなければ分からないのだよ」


「だーめ」


 どうやらやっちゃんは謎のノートを読みに来たらしい。読めなくてふくれっ面になる。


「萌さんについてもっと調べようよ」


 少し落ち着いたのかいきなりやっちゃんはそんなことを言い出した。


「このままにしたらいけないよー。れいちゃんは来なくなり部活を辞めちゃうかもしれないし」


「それは困る」


 貴重な部員なのに。どうしよう。


「ここは萌さんがよく行っていた場所に行けば良いと思う」


「その発想はどこから来たの?」


 いきなりすぎてついていけない。


「私達は残念ながら考えるだけで、全てが分かるほど頭が良くない。

 だから私達は行動するのだ。

 それにこのままだとれいちゃんは来ないし、のーくんは落ち込んだままだし」


 確かにのーくんはれいちゃんがいないから、落ち込み気味だ。


 そしてりょーた先輩やららちゃん先輩は、のーくんがれいちゃんのことが好きだと決めつけているようで、いつもからかっている。


 考えてみればこんな雰囲気は危ないかもしれない。さっさと解消しなければ。


「そうだね。実際に行ってみたら何か分かるかもしれないし」


 それに行動した方が、気が紛れるだろう。のーくんも誘おうか、あちこち連れ回せば明るくなるかもしれない。


 ということで私達は萌さんが生前よく行っていた場所に向かうことにした。






 だけどこの前聞いただけでは具体的な場所が分からなかったので、私がともちゃん先輩に聞いた。


 そのうえ行く順番まで私が決めた。いや私はツアーガイドじゃないのに、なんでこんなことをしないといけないのだろうか?


 それにしても場所がかなりバラバラだった。


 図書館は私とやっちゃんが住んでいる市ので、地域コミュニティFMのラジオ局はその隣の市にある。


 そして『コリナラ』がライブしていた場所かつ萌さんが行っていたと推測できる場所は、その図書館近くしか無い。


 考えてみたら私とやっちゃんが住んでいる市と萌さんが住んでいる市はかなり離れている。


 そもそも高校のある市さえ萌さんの住んでいる市と離れている。


 何でこんなに遠い高校に通っていたのか、そして高校より更に離れた場所で何をしていたのだろう?


 それに萌さんが住んでいた市では、地域コミュニティFMは本来聴けない。なぜなら県内には二つ局があるけど、両方とも萌さんが住んでいた市では聴けない。


 でもケーブルテレビで再配信している局が一つあって、たぶんケーブルをつないで聴いていたと思う。最近はその局ではネット配信をしているけど、それじゃあラジオは不要になるし。


 そのラジオ局のスタジオがある場所は私とやっちゃんが住んでいる市とついでに高校がある市の隣だ。


 どう考えても萌さんが頻繁に行っていたと考えられないほど遠い。


 少し考えていたけど、理由は思いつかない。


 そうなので考えるのをやめることにした。やっぱり私には頭脳労働は向いていないみたい。







 高校の最寄り駅で待ち合わせをして、私、やっちゃん、あっちゃん、のーくんの四人でまずはラジオ局に向かう。


 ただでさえラジオ局のスタジオは迷子になりやすい場所にあるから行ったことない四人で大丈夫かなと思ったけど、のーくんがうまく誘導してくれたので迷わずにつけた。


 なんでのーくんがここまで詳しいのか分からないけど迷子になることだけは避けられたから良かったとしよう。


 ラジオ局はこぢんまりとして古い建物で茶房やバーがついているらしい。


 ちょうど何かの番組の放送をしているのか外から見えるスタジオで話している人がいる。私達はラジオ局のプレスをもらって、他のスタジオに向かうことにする。


「流石観光地だよね・・・・・・」


 やっちゃんが興味深そうに周りを見る。そうここは世界遺産もあり、立派な観光地。お土産が売っていたり観光客がぞろぞろと歩いていたりするわけ。


「本当だー」


 あっちゃんも興味深そうに見ている。


「あまりここに行かないから、新鮮な気分がする」


 もう一つのスタジオに行くためには一度駅に戻って、そこから別の出口を出た。こうした方が早く着く。


「外だ」


 もう一つのスタジオはガラスの大きな窓があり外から丸見えで、今は何も使っていないために布がかかっている。


「ここに何度か来たことがあります。ここでよくイベントをしているのです」


 のーくんは自慢げに聞いても無いのにイベントの話をしてくる。でものーくんが元気になっただけでも良かった。


「そういうイベントにはどーいう人が参加しているの?」


 近くにあるワッフルが美味しいお店に移動した後に、やっちゃんが質問する。


「やっぱり老人が多いですよ。でもたまーに年が近い人が参加しています。

 イベント以外にもこのスタジオでラジオを放送しているときは、リスナーさんとよく会います。

 二年前の冬休みのある日、ここで会った高校生リスナーさんにこの高校の創作クラブの部誌をもらったのです。

 それを読んでこの高校でしかも創作クラブに入部したいと思ったのです。

 そういえば以前は部誌の名前が違いました。『ギモーヴ』という名前でしたよ」


 のーくんが入試の面接みたいに答える。二年前の部誌ねえ、私達は見たことない。部室になかったし。


 それにしても『ギモーヴ』という名前だったのか、何か今の名前とは雰囲気が違う。


「部誌をもらったのは十二月かな?」


「そうです。十二月です。創刊してからの十二月号まで全てのバックナンバーがありました」


 全部?熱狂的なうちのファンかな。


「どんな人からもらったの?」


「黒髪の美人です。確か高三でしたよ」


 あっちゃんはのーくんを質問攻めにして考え込む。


「もしかしてその人は萌さんかもしれない。

 だって何冊もある部誌を持って行ってわざわざ他人にあげることは無いよ。まず全部集める人はいないし、いたとしてもそんな簡単に手放すかな?

 それにその辺の人にあげないと思うし、死ぬ前に色々物を配りまくっていた萌さんに違いない」


 あっちゃんが決めつける。


「そうかもしれません」


 のーくんは少し考えて同意する。でも本当にそうなのかな、確証は全くない。





 そして次はコリナラがよく路上ライブをしていてかつ萌さんがよく行っていた場所へと向かう。


 そこもかなり分かりにくい場所だけど、何とかたどりつく。


 そこは公園で少し狭くて遊具が何個もある。しかも大きな道が近くにあるからお客さんが来やすい場所だ。


「路上ライブ行ったことある?」


「ありますあります。色々なとこに行きました。俺インディーズが好きなので」


 のーくんが元気そうに答える。そういえばのーくんはインディーズアーティストが好きでよくクラブハウスや路上ライブに行っているらしい。


「私は無い」


「コリナラの路上ライブならあるよ。コリナラの路上ライブって面白かったよ。

 五曲歌って、最初の一曲はカヴァー曲で最後は『恋歌(こいうた)』って決まっている。まあライブとは違って楽器を使わないで、CD音源なのが残念なとこかな」


「詳しいね」


「そりゃあよく行っていたから」


 意外だ。やっちゃんは私が知らないだけでよくコリナラの路上ライブに行っていたらしい。


「知らなかったよ。やっちゃんが路上ライブによく行っていたなんて」


「キーナはそういうの興味なさそうだから言わなかっただけ。

 実はかなり行っていたよ。たまにクラブハウスにも行ったし」


「やっちゃんってAKB命だと思っていた」


「いや私はコリナラの方が好きだよ」


 こんな風にとりとめの無い会話をする。


「何か物をもらったことはありますか?」


 のーくんがいきなりやっちゃんに質問する。いやいやさっきはさっき、今は今だ。二回連続で同じ事は無いって。


「あったよ。私が中三の時の冬休みにあった路上ライブで、たまたま路上ライブに来ていた高校生らしき人が色々な物を配っていたよ。

 鞄が多かったかな。ブランド品からノーブランド品まで。ちなみに私はノートパソコンをもらって今も使っている」


「その人って黒髪の美人?」


 あっちゃんがしっかり便乗して質問する。いやいや別に黒髪の美人はたくさんいるから、その人が萌さんだという確信は持てないよ。


「そうだった」


 やっちゃんは迷い無く答えた。でもその人が萌さんだったという確証は無いけどね。






 そして最後に図書館に行こうと思ったけど、その図書館はすでに閉館していた。いや移転していた。


 萌さんが使っていた時期は学校の図書室並みだったけど、移転してからはかなり大きくて充実した図書館になっている。


 今はそこそこ立派な図書館となり、駅前という便利さもあってたくさんの人が利用している。


 前とは大違いだ。


「あー図書館無くなったのか、残念だな」


 なぜかあっちゃんが残念そうにしている。


「えーあっちゃん、この図書館利用していたの?」


 あっちゃんは私とやっちゃんが住んでいる市の隣町に住んでいる。だからこの図書館は使えない。そもそも市民以外は利用できない。


 そういえば萌さんもだけど、どうしていたのだろうか?いやなぜ使えない図書館を利用していたのかな?


「中学の時にこの辺の塾に通っていたから図書室もついでに行っていたの。だから帰りによく行っていたわけ。

 特に日曜日は早く終わるから、よく行っていたよ」


 へーそうなのか。真面目なあっちゃんらしい。


「で何か黒髪の美人からもらったの?」


 やっちゃんがさっきもあった質問をする。いやいや二度あることは三度も無いから。


「そういえばこの図書室でそういう人と遭遇したよ。

 高校受験前の冬休みに、なぜか分からないけど少女小説の雑誌の付録をもらったよ」


「その人は萌さんかな?」


「そうかもしれない」


 あっちゃんとやっちゃんは呑気に会話している。いやいやだから『黒髪の美人』=『萌さん』ってわけじゃないって。


 だからのーくんとやっちゃんとあっちゃんが生前の萌さんと会っていたという確証は無いよ。


 でも今日行った場所は全部生前萌さんがよく行っていた場所だ。だから偶然では無いのかもしれない。


 それに萌さんはたくさんの物をばらまいているみたいだったし、そのうちこの部の人がいてもおかしくは無いかもしれない。


 だけど一つ質問する。


「そういえば、その会った『黒髪の美人』ってこの高校の制服を着ていた?」


「着ていましたよ」


「コートを着ていたし暗かったから分かりにくいけど、着ていたよ。

 スカートは指定品だったよ」


「そうそうあまりいないようなきちっとした制服姿だった」


 この高校の制服はボトムが自由で、一応指定品はあるけどほとんど着ている人はいない。

 

この部では私とららちゃん先輩だけ指定品を常用している。


 だから萌さんが常に指定品を使っていたとしたら、その人は萌さんだと分かるわけだ。後で確認しておこうかな。


ここに登場しているラジオ局ことならどっとFMはスタジオを移転して、今は餅飯殿商店街にある絵図屋で放送を見ることが出来ます。もし良かったら行ってみてください。

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