第四章
今日は消防点検があるから朝から急いで部屋の掃除をする。そもそも私は普段滅多に掃除をしない人で、だから部屋の中はかなり汚い。
そして必死に掃除していると大きな数冊のノート入りの茶封筒を発見した。そういえば少し前に私の知らない人から送りつけられて、封を開けないまま放置している。私はその数冊のノート入りの茶封筒を何も考えずに引き出しにしまった。
やっぱり怪しい物なのでノートを読むことを今までしたことは無い。いつかやっちゃんにこれらのノートの話をしたら、『白紙かもよ』と言われたけど、やっぱり読む勇気は出ない。
だって誹謗中傷とか知らなくていい残酷な真実とか記されていそうで怖いから。
そして私は掃除を終えると、やっちゃんやあっちゃんと合流して、みんなでれいちゃんの家へと向かう。なんでれいちゃんの家に行くことになったのかというと、れいちゃんがどうしても来て欲しいと言ったからだ。なんだか見てもらいたい物があるらしい。
りょーた先輩やららちゃん先輩も後から来るらしいし。
れいちゃんの家は遠かった。だからつくまでに時間がかなりかかった。
「「「大きい」」」
れいちゃんの家はかなり大きい。とはいってもやっちゃんの家には負けるけど。
「親がお金持ちだからです」
れいちゃんがさりげなく自慢する。まっこんな家に住んでいる人がお金持ちでは無いわけはない。
家の中に入ると、想像以上に広々としていた。そのうえ人気が無い。
「今家には誰もいません。お母さんとお父さんは外出中で、家政婦さんは買い物に出かけています」
家政婦さんがいるって、流石金持ち。まあやっちゃんの家にはいっぱい使用人がいるから、あまり驚かない。
「あっここが私の部屋です」
れいちゃんが私達を部屋に入れてくれる。
「れいちゃんの部屋ってちょっと派手だね」
あっちゃんがつぶやく。
学習机やベッドとかいわゆるどこの部屋にもある家具は派手めにデコってあり、あちこちに男性アイドルのポスターが貼ってある。
「この人は誰?」
あっちゃんがポスターを指さす。とりあえずイケメンで男性アイドルらしいということはよく分かるけど、それ以外は分からない。
なんせこの部には男性アイドルが好きな人はいないから。
「セクシーゾーンの中島健人君です。知らないんですか?」
「いやあまり男性アイドルの話をしないから。確かやっちゃんはAKB好きだけど、男性アイドルには興味ないみたい」
「そうだよ。だってAKBとジャニーズは違うから」
どうやらあっちゃんは興味がなさ過ぎて、男性アイドルと女性アイドルを混同しているみたい。それをやんわりと訂正するやっちゃん。
「ららちゃん先輩はどうなんですか?」
「ららちゃん先輩はクラシックしか聴かない」
「えーセクシーゾーンいいですよ」
れいちゃんが傍目から見ても分かるほど、がっかりする。
「だから部室でセクシーゾーンの曲が流れないんですね。
私の知らない曲はよくかかるんですが」
部室にはよくBGM代わりに音楽がかかっている。月~水が二年生担当で、木~土が三年生担当になっている。しかもBGMのCD代を出すほどこの部は裕福じゃないから当然自腹だ。
その結果月~水はやっちゃんの持っているAKB系のCDか私の持っているセカオワのCDが使われていて、木~土はららちゃん先輩の持っているクラシックのCDかりょーた先輩の持っているロックのCDが使われる。
あれっあっちゃんのCDは使われないのと思う人がいるかもしれない。あっちゃんはCDを持っていないために、参加していない。
どうやらあっちゃんは音楽に全く興味がないらしい。
「知らない曲って何曜日にかかっている曲?
私でも知らない曲が流れているなと思うときがあるもん、そもそもうちは一部の人が勝手に曲決めているしね」
あっちゃんは参加していないからまるで人ごとのように語る。
「ちょっと待ってよ。わざわざ大事なCDを持ってきているのに」
「そうだよ。同じ曲ばかり流れると飽きるかなと思って、アルバムを結構流しているのに」
私とやっちゃんで抗議する。CDは本ほど安くないから買うのは大変で、それをわざわざ毎週持ってきているのに。その大変さを理解していない。
そういえばりす先輩は音楽プレーヤーをつないでいたけど、私達はそんなの持っていないし。
「毎日分からないです」
「えっAKB系はよくかかっているから分かると思うよ」
「えっセカオワ、結構有名だよ」
考えてみたらあまりマイナーな曲はかかっていない。クラシックはクラシック自体知名度が低いから別だけど。
「ジャニーズ系ならよく聴いているから分かります。だけどそれ以外の曲はさっぱり分からないです。
お姉ちゃんはどんな曲でも好きでした。だから色々なCDを持ってました。それこそインディーズからメジャーまで色々持ってました。
でもセクシーゾーンの曲はあまり聴いてなかったみたいで、ライブに誘っても一緒に来てくれませんでした」
どうやら萌さんも男性アイドルにあまり興味が無かったようだ。
するとピンポーンと玄関からチャイムの音がした。れいちゃんは慌てて玄関に行く。
「れいちゃんは普通の女子高生だね。男性アイドルが好きで少女漫画好きな、どこにでもいる女子高生」
「普通であることは悪いことで無いけど、普通で無い私達には合わない」
あっちゃんが言ったことにすかさず同意するやっちゃん。ちょっと待った、いつの間に私達のことを普通じゃない認定しているのだろうか。私達も少しずれているけど、普通だと私は思う。
するとなぜか雰囲気がしんみりとなり、ららちゃん先輩とりょーた先輩が現れた。
「あれっみんなしんみりとしているけど、どうしたの?」
「「「いえっ何でもありません」」」
意図していないのに声がハモった。
全員揃ったので、萌さんが生前使っていたという部屋に行く。
そうそう今日は萌さんが使っていた部屋に行くのが目的であって、決して音楽の話をしに来たわけではない。
「今すごい状態なんです。もちろん何も手をつけてません」
れいちゃんがドアの前で念を押す。
「もしかして部屋の中がものすごい散らかっているとか?」
りょーた先輩がからかう。
「考えようによってはそうかもしれません。それでは開けます」
れいちゃんは静かにドアを開ける。私達は別に何も考えずに部屋の中に入った。
「何も無い」
「この部屋で生活はできないと思う」
驚いたことに部屋の中には何も無かった。あるのはベッドと大きな洋服ダンスと本棚だけ。
「万華鏡みたいです」
やっちゃんが感心して周りを見渡す。そう部屋中鏡張りで、しかも床にはビーズやおはじきがたくさん落ちている。
「きれいです」
やっちゃんは感嘆してあちこち見る。確かに場違いだけど綺麗だ。
「そうなんです。姉の死後に部屋を見たら、すでにこの状況になっていました」
れいちゃんはやや困惑気味だ。そりゃあいきなり部屋がこうなっていたら、誰だって驚く。
そんな中でも冷静なのは、りょーた先輩とあっちゃんだ。残りのメンバーは私を含め、ぽかんとしている。
「恐らく自殺する前に部屋にあった物は全て処分したのでしょうね」
あっちゃんは部屋のあちこちを調べている。
いや普通は自殺する前に部屋の物を全て処分することは無い。だって面倒くさいからね。
「預金通帳に入っていたお金はどうなっていたの?」
りょーた先輩はれいちゃんに質問をしている。
「全て引き出してありました」
なんと華麗な去り際なのか?他人に何一つ譲らず、全て処分してから自殺するとは。
「全て処分するのは無理ですよ。捨てることは結構面倒くさいですよ。
それにこんなにたくさんの物を処分したら、怪しまれます」
そりゃそうだ。それにあっちゃんは基本的に間違ったことを言わないので、とても信用できる。
「そうだよ。それに本棚の大きさから考えると、たくさん本があったはずだよ。どうしたのだろう?」
あっちゃんとりょーた先輩は考えこむ。それに対してららちゃん先輩とやっちゃんは部屋をボーと見渡していて、何を考えているか分からない。れいちゃんも部屋を見渡してボーとしている。
「あっ私は文房具をもらったよ。萌さんが死んだ後に届いたの。今でも使っているよ」
「本当ですか?」
れいちゃんみたいに部屋を見渡していたら、ららちゃん先輩が衝撃発言をする。
「俺はアクセサリーをもらったよ。メンズ用のネックレスとかリングとか。結構高かっただろうな」
りょーた先輩ももらったのか。
「アッアクセサリーなんて、そんなあ」
あっちゃんはそれを聞いて落ち込む。どうやら萌さんがりょーた先輩に対して特別な気持ちを持っていたと想像したみたいだ。
そして部屋を見終わると、私達は帰ることにした。ららちゃん先輩とりょーた先輩はまるで恋人のようにつれそってどこかに行ってしまい、私達三人で帰ることになった。
ちなみにあっちゃんは落ち込んでしまった。どうやら今度はりょーた先輩とららちゃん先輩がただならない関係にあると想像したらしい。
「もしかしたら、他の人も何かもらったかもね」
あっちゃんと一緒にいてご機嫌なやっちゃんはあっちゃんとは対照的に機嫌が良い。
「そうかもね」
OGの方がららちゃん先輩達より親しかっただろうし、可能性は充分ある。それにあれだけの物を処分するより、誰かにあげた方が手っ取り早いだろう。
「そうだったら他の人にも話を聞きたいな」
「そんなことしたら、失礼だと思うけど」
萌さんから物をもらったのはりょーた先輩やららちゃん先輩だけだという可能性があるのに、他の人に聞くとは失礼だと思う。
それに誰にだって思い出したくない記憶だろうし。
「物は試しだよ」
いやいや他人の過去をさぐるなんて悪趣味だから止めようよ。




