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第三章

 さてさてあの入学式の騒動から数日がたちました。始業式があったり新入生歓迎会があったりして、うちにも二人の新入部員が入ることになった。


 一人目は入学式の日にやって来た萌さんの妹ことれいちゃん。漫画を描いているらしく、部誌には漫画を載せるつもりらしい。


 もう一人はのーくん。知的なメガネ男子。でも書いているのはラブコメばっかりという、見た目とは違ってライトな作風だ。


 新入部員が入ってから部の雰囲気が変わった。一番変わったことは萌さんの話題がよく出るようになったことだ。


 れいちゃんは萌さんのことを探るためにこの高校に入学したとあちこちで言い、あちこちで調べ物をしている。先生に話を聞いたり萌さんが生前よく行っていた場所に行ったりとかなり積極的だ。


 そのことをりょーた先輩やららちゃん先輩は表にはしないけど、少し嫌がっているみたい。あまり萌さんの話をしないようにしたり他の人が振ってきたとしても話を変えたりしてごまかしている。


 りょーた先輩とららちゃん先輩は萌さんの話題を避けている、いや逃げているといった方が正しいかもしれない。


「それにしてもりょーた先輩達にとって萌さんの話題は禁忌だね」


「一生禁忌かもしれないよ」


 りょーた先輩やららちゃん先輩がいない部室でプリッツを食べながら、そんな会話をしている。


「りょーた先輩達の心情をおもんばかると仕方無いと思うよ。だって萌さんは自殺したのだから」


 あっちゃんがりょーた先輩達を擁護する。


「でも一生このままってわけには行かないと思います。お姉ちゃんは確かに生きていたんですから、簡単に忘れられたら困ります」


 れいちゃんはやけ食いしているかのようにプリッツを食べる。


「そうですよ。それにりょーた先輩達は来年卒業しますから、このまま放置しておくことは一生放置しておくことになりますよ」


 のーくんがプリッツを持って力説する。手に持っているのがプリッツで無ければかっこよかったのに。


 そういえばりょーた先輩とららちゃん先輩は三年生。すなわちもうすぐ部活を辞めて、受験勉強に専念しないといけない。だから萌さんについて考えたくないのだろう、時間の無駄だし、いくら考えても分からないから。


「そもそも何でれいちゃんは萌さんのことを知りたいと思ったの?」


 私はふと気になったので聞いてみた。


「私はあまりお姉ちゃんのことを知らないんです。趣味が合わなかったんで、あまり一緒に遊ぶことも無かったです。

 だからお姉ちゃんがどういう人だったのかよく分からないまま会えなくなっちゃって、最初はとても悲しかったです。

 だから私はお姉ちゃんがいた高校に入学して、お姉ちゃんのことを知ろうと思ったんです」


 私達は黙った。自殺者が最近多いとはいえ、身近に自殺者がいる人は少ないと思う。そうなのに私より年下であるれいちゃんは姉が自殺したという現実と毎日向き合っている。


 そう考えるとりょーた先輩やららちゃん先輩は少し弱いかもしれない。部活の先輩が自殺したという事実から目をそらして忘れようとしている。


「そういえば今日はりょーた先輩達は来るかな?」


 時計をあっちゃんは見る。あっちゃんはストーカーみたくりょーた先輩の行動をチェックしているので、私達とは違って来る時間とかなぜか分かる。


「本当だ。来ていない」


 やっちゃんがすかさず同意する。やっちゃんは基本あっちゃんの同意しかしないから、本意かどうかは分からないけど。


「まさか部活サボって帰ったとかね」


「そんなわけないって」


 あっちゃんが私が言ったことに対して勢いよく反論する。


「そうかもねー。だって今日は特にすることが無いし」


 考えてみたらすることがないからみんなでプリッツを食べながらだべっているわけだし。することがたくさんあったらプリッツなんか食べていないで、色々と作業しているはず。


「そもそも毎日来る必要も無いしね」


「そうそう最近は三笠の発行とかで忙しかったし。それでみんな毎日来ていたからねー」


 やっちゃんも同意する。


「もしかして私のせいですかね?」


 れいちゃんがいきなりそんなことを言い出した。


「私が毎日質問するから、それが嫌になったとか」


「それは無い無い。りょーた先輩とららちゃん先輩は基本優しいから、そんな冷たいことをしないと思うよ」


「私もそう思う」


 確かにりょーた先輩とららちゃん先輩は迷惑なら迷惑というタイプ・・・・・・だったっけ?確信できないけどあっちゃんに同意する。


「もうそろそろ帰ろうか、りょーた先輩達は来ないだろうし」


 あっちゃんが言い切って、私達は帰ることにした。帰り道はどうでもいい話をいっぱいして、萌さんのことは考えなかった。


 そんなかんだで私達は徐々に萌さんに対して興味を持ち始めた。私達とは決して会うことができなかった萌さん。顔すら分からないけどどんな人だったかなと最近思っている。


 そんなある日、打ち合わせで全員揃った。


「そういえばれいちゃんって萌さんと似ていないよね」


「そうなのですか?」


 ららちゃん先輩の何気ない発言に対して、あっちゃんがすかさず質問する。


「萌さんはキーナ似の黒髪の美人だったよ。でもれいちゃんはどっちかというとやっちゃん似のかわいい系だから、全く似ていないような」


 どうやら萌さんは私と似ていたらしい。そもそもこの部には茶髪率が高くて、私のような黒髪が少ないから必然的に私と似ているように記憶しているのかもしれない。


「そりゃそうです。私とお姉ちゃんは血がつながってないから」


「えっどういうこと?」


 それは大変なことだ。だって血縁関係が無いってことは、家族じゃないということもありえる。


「お姉ちゃんは特別養子でした。お母さんのお兄さんの結婚相手の弟の娘がお姉ちゃんで、そこで育てれないから養子になったそうです。

 だからなのかよく似てないと言われました」


 特別養子とは確か法律上は養親の実子扱いにするという、法律上は家族だけど血縁上は家族じゃないという不思議な状況の子のことだ。確かうーんと小さい子にしかできない。


「そもそもお母さんは後妻なんです。しかもお父さんには前妻との間にお母さんより年上の息子がいるんです。

 だからお母さんは子供ができないと思って、養子をもらったらしいです」


 なるほど・・・・・・。れいちゃんのお母さんとお父さんはかなり年が離れているのか。それにしてもこんなどろどろとした家族の事情をれいちゃんはどこで知ったのだろうか?


「いつ知ったの?」


「お姉ちゃんが自殺してからです。お葬式の時に色々な人がこの話をしてました」


 あっちゃんの質問に冷静に答えるれいちゃん。それにしてもひどい。お葬式なのだからそんな噂話しないで故人を悼めばいいのに。


 思い当たることがあったのか、ららちゃん先輩とりょーた先輩は黙った。私達も場の雰囲気に合わせて黙る。


「そこまで深刻な話じゃないです。私とお姉ちゃんはもちろんお兄ちゃんとも似てませんから。

 私はお母さん似なので、他の人とはあまり似ていないんです」


 私は一人っ子だから兄弟姉妹と比較されたことは無い。特に誰似とか言われたこと無い。だからそういう心情がいまいち理解できない。


「そういえばお兄ちゃんはお姉ちゃんと似てました。

 血縁が無いのに似てるなんてずるいです」


 どうやられいちゃんは萌さんと似ていないことをかなり気にしているみたい。


「私には妹がいるけど全く似てないよ」


「そうだね。皐月はやっちゃんとは正反対の容姿だね」


 やっちゃんの妹、皐月はやっちゃんとは違い見た目が凜々しくてかっこいい。おまけに頭も良い。


 一部では皐月がやっちゃんの兄じゃないかと言われているほどだ。似ている点はほとんど無い。


「そう必ず兄弟が似ていないというきまりは無いからね」


 あっちゃんがやっちゃんを擁護する。あっちゃんに兄弟姉妹はいなかったような気がする。あまりあっちゃんのことを知らないから、もしかしたらいるかもしれない。


「萌さんは典型的な黒髪美人だから結構似ている人はいると思う。

 だって赤の他人であるキーナとかなり似ていたし」


 私と似ている・・・・・・ね。私は黒髪だけどそこまで美人では無いのになんで萌さんと私が似ているとららちゃん先輩は断言するのかな?そこがよく分からない。


「そう考えたらりょーたも似ていたような気がする。髪色とかさ。

 だから萌さんがお兄さんと似ていたのは偶然だよ」


「そうなんですか?」


 れいちゃんがららちゃん先輩を尊敬のまなざしで見つめる。


「そうだよ」


 この後はこの人はあの人に似ているとかいう、似ている議論で盛り上がった。


 でも考えてみたらのーくんやともちゃん先輩も黒髪だ。そうなのになんで萌さんと似ているとららちゃん先輩は言わなかったのだろうか?少し気になる。

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