絶望の中で僕は何を得たのか?
暗闇の中少年は必死にある者から逃げていた。
後ろから声が聞こえる……
声と言っても可愛らしいことなどでは決してなく、むしろこの世のものとは思えないほどの叫び声。いや、断末魔の叫びのような声である。
それもそのはず、今少年を追いかけているのはまだ誰も到達した事のない未踏区域に生息するモンスターなのだから......
すぐ後ろで化け物が叫ぶ。「あうッ……」恐怖で体が動かない。なんとか舌を噛んで意識を保つ。
普段なら激痛のはずだが、今はなぜか心地いい。アドレナリンの影響だろうか。
ふとバケモノと目が合う。
体長は3mはあろう巨大に引き締まった筋肉、それを覆うように黒金色の毛が体を覆っている。その頭に生えている二つのは成人男性程の長さもある。
あの角に突かれたり、奴に捕まったら。待っているのは“死”だ。
化け物が棍棒を振り上げた、僕は咄嗟に回避するが避けきれずカスってしまった。幼馴染との模擬戦で鍛えてなかったらきっと僕は死んでいただろう。
壁に叩き付けられ意識が飛びかける。やつが力なさを見せつけるように棍棒を引きずりながら近づいてくる。
『あぁ、僕は死ぬのか....まだ何も成していないのに.....』
そうしている間にも化け物は近づいてくる。あたりに身を隠せるものは何もない。
化け物は気持ちの悪い笑みを浮かべながらのっそり近づいてくる。
『……嫌だッ! 死にたくない』
死に瀕してもなお、僕は死から逃れようと足掻く
僕と化け物の距離は残り数m
「しに....たく......な.....イ」
『死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたく死にたくない死にたくない死にたくない』
待っているのは明確な“死”
薄れゆく意識の中ふとユニークスキルの存在を思い出した。
唯一自分が持っているユニークスキル【無限収納】
化け物までは数歩の距離しかない。
『周りに隠れる所はない、敵は油断しているッ! もしかしたらこの窮地を乗り越えられるかもしれない』
「収納ォォォォォォォォォォォォ!」
全力で叫び奴の足元の土を“収納”した。
『これで、僕にも逃げる隙が......』
そんなに甘くはなかった。
前を見ると化け物は踏ん張っていた。
「嘘だろ......」
思わず声が漏れる。苦し紛れに収納から閃光玉を取り出し、投げつける。
だが、所詮オモチャだ。そんなものが効くはずもない。
僕は死にたくないと心の中で何度も叫びながら、地面を這いつくばりながら逃げる。
『あれ?おかしい……なぜ僕は死んでいないんだ?』
恐る恐る振り返ると、そこには巨大な何かに巻きつかれて、全身をぐちゃぐちゃにされているさっきの化け物が息絶えていた。
何が起きたのか理解できない。
ふと化け物と目が合う。目を逸らしたがもう遅かった。
巨大な生物は僕を叩き殺そうと、尻尾を叩きつけてくる。
必死に転がって、それを避ける。
だが、攻撃の余波までは回避できなかった。
そして、逃げようとして逃げ道がもうないことに気づく。“絶望”という言葉すら生ぬるい感情が僕に襲い掛かる。
僕は壁にむかって泣き叫びながら一心不乱にスキルを使用した。
「収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納ォォォォッ」
土壁に狂ったように収納を使用する。“生き延びてやるッ!”この気持ちが僕を突き動かした。
しばらくして、後ろを見るとさっきの化け物は姿を消していた。
そして、僕は悟ったのだ。
「優しさなんてものは必要ないッ!どんなに優しくしても裏切られる。自分の力こそが全てだッ!」
ギリッっと歯を食いしばり、叫ぶ。
ひとしきり叫んだあと、僕は意識を手放した。