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序章【3】

 老人と若者、どちらも体力には限界がある。


 ただ、世の慣例通り、限界に近いのは老人たちの方だった。




 足がもつれる回数が増えてきた。


 上半身だけが先を急ぎ、下半身が置き去りにされている。


 体制を整えようと足を踏ん張る。


 当然、足腰には幾ばくかの負荷がかかる。


 それは疲労として蓄積され、回復する間もなく老人たちの足枷となっていく。




 こんな事なら、予定通りにあの村を発つべきだった、とは老人たちの心の声だ。




 昨晩は羽目を外し、酒を飲み過ぎた。


 隣の町で作っているという酒の味を、2人のうちの片方が大層気に入ってしまったのだ。


 相棒が呆れるほど、彼は何杯もコップを空にした。




 翌朝は当然のように2日酔いとなり、午前中は寝床から起き上がれなかった。


 それだけならまだしも、この先の道中でも飲みたいと、彼は隣の町へあの酒を買いに行こうと言い出したのだ。


 昨晩酒を飲んだ店の主人によれば、町ではその酒を瓶詰めで売っているとの事だった。




 昼過ぎには、目的地とは方角違いの町へと村を後にし、夕刻前には所望の酒を手に入れていた。


 持てるだけの酒瓶を袋に詰め込み、ご満悦の彼を前にし、相棒は仕方のない奴だと苦笑していた。




 しかし、これが運の尽きだった。


 どうせ急ぐ旅ではないと、もはや我々を追ってくる者などいないだろうと油断した。


 違っていた。


 彼らに大急ぎで迫り来る若者たちがいたのだ。




 今からこの町を出ても大して先には進めないだろうと、今夜の宿を探すことにした。


 できるだけ安い宿を探すうちに、彼らは町の南の端まで来ていた。




 料理は不味いが愛想のいい中年の女が営む宿がこの辺りだと、町人に聞いていた。


 人通りがまばらになっていたが、目印の赤い看板をようやく見つけ、ホッとしたのも束の間、老人たちは不穏な気配を肌で感じ取った。




 その安宿の出入口となる扉が不意に開き、中から若い男が3人出てきたのだ。


 考える間もなく、老人たちは踵を返す。




 するとそこには、もう1人若い男がこちらへ向けて歩いてくる姿があった。


 前後で挟まれた。


 次の瞬間、老人の1人が大きく腕を振った。


 彼の手から放たれたれのは、あの酒瓶で、それは老人たちの背後にいた1人の若者の方へ弧を描いて飛んで行く。


 あっ、と思った若者は咄嗟に横へ跳ね、すんでの所で酒瓶をかわした。


 地面に落ちた酒瓶は割れ、中の酒が飛び散る。




 3人の若者の方の1人が何かを叫んでいる。


 老人たちは既に逃走していた。


 慌てて3人の若者たちも追いかける。




 酒瓶を投げつけられた方の若者は、懐から白い球と2本の木の棒を素早く取り出す。


 木の棒同士を擦り合わすと小さな火が生まれ、それを玉から伸びる短い紐に着ける。




 若者は白い玉を空中へ向けて投げ上げた。


 玉は高く高く舞い上がり。


 火は紐を燃やしながら玉の中へ吸い込まれた。


 途端に白い玉は弾け飛び、ぱぁん、ぱぁん、ぱぁん、と乾いた大きな音を響かせた。


 町の中ならどこにいても聞こえるような大きな音だった。

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