序章【2】
若者たちは老人2人を取り囲もうとしている。
そうされては困るとばかりに、必死の抵抗を試みる。
老人2人は時折剣を振り回し、若者たちがそれをかわした際に生まれた隙間から、松明の円の外へ抜け出す。
若者たちも各々の武器を振りかざすが、決して老人たちに刃を当てようとはしなかった。
彼らの目的が、もう少し分かるようになる。老人たちを傷つけようとしているのではなく、捕らえようとしているのだ。
今宵の森は静寂を保っている。
風も無く、枝葉が擦れ合う音も無い。
動物たちだけではなく、この森全体も、人間が持つ炎や刃物を恐れ、息をひそめているようだ。
当然、人間たちが仲良く戯れあっているなどとは思えない。
下手をすれば、自分たちにも危害が及ぶかもしれない。
森には、森ごとの意思がある。
この森は争い事から目を逸らし、ただそれらが行き過ぎるのを待つ。
この森は、そういう森だ。
老人たちは、この森から抜け出したいと思っていた。
元々は身を隠しやすいと、自ら逃げ込んだのだが、こうやって追いつかれてしまっては、何ともならない。
かくれんぼには持ってこいたが、鬼ごっこでは逃げる方に不利がある。
真っ直ぐ走れず、障害物もやたらと多い。
それでも、大きな森ではないと老人たちは分かっている。
いずれは出口が見えてくるだろうと、希望を持っていた。
ところが、そう甘くはなかった。
気づけば、彼らはいつまでも、森の深いところを走らされていたのだ。
若者たちは、その見た目によらず、統制が取れているようだった。
老獪に逃げ回る獲物に、苛立つ様子はかんじられなかった。
むしろ冷静に、老人たちを追い詰めているようだった。
老人たちを真っ直ぐ進ませては、森を脱出されてしまう。
だから若者たちは、逃げる老人たちの左側へ回り込む。
老人たちは右へ右へと進むしかなく、結果として同じところをぐるぐると走らされていたに過ぎなかった。
老人たちには、この状況を打開する策が無かった。
考えに力を割く余裕が失せていたのだ。
彼らは疲労に襲われていた。
闇の中、見慣れぬ場所、足場の悪さ、追われている精神的負担、一向に現れぬ出口、疲れるばっかりだ。