序章【1】
小さな森がある。
高さも太さも種類もバラバラな木々が生い茂っている。
その間隔も統一されておらず、似たような木々が身を寄せ合うように生えている場所もあれば、細い木がまばらに立っているだけの、開けた印象を抱かせる空間もある。
加えて倒木の数も決して少なくない。
寿命を全うしたものもあれば、鳥や虫に体中を穴だらけにされ、腐って死を迎えたものもある。
所によっては何本も折り重なるように木が倒れていて、壁のようになっていたりもする。この森を真っ直ぐ抜ける道など存在しない。
大きな獣が活動するには不都合な点が多いこの森も、小さな生き物たちが身を隠すには打って付けである。
10日に一度は雨も降り、くぼんだ地に水が貯まる。
柔なか果実を身に纏う木々も森全体に点在する為、力の弱い動物たちも穏やかに暮らしていけるというものだ。
ところが、今夜だけは彼らも息を潜めて身を隠すしかなかった。
人間が、この森に侵入してきたのだ。
人の数は8。
全員が忙しく動き回っている。
この内の5人は片手に松明を掲げていた。
頭巾や長袖の服、手袋などで火の粉から身を守っている。
森の住民である小動物たちは破壊をもたらす輝きに怯え、逆に虫たちは狂ったようにその中へ飛び込んで行く。
光っているのは松明の炎だけではなかった。
物騒なことに、人間たちは各々、武器を手にしていたのだ。
剣、斧、鉈、どれも何かを傷付けるに十分な力を持っている。
時折、彼らの顔も鮮明に見て取れる。
松明を持つのは皆若者で、松明を持たない2人は老人だった。
老人たちは周囲に注意を向けながら先へ進もうとする。
対照的に若者たちは、その老人2人しか見ていない。
若者たちの目的が次第に浮かんできた。
彼らは、この老人2人を追っていたのだ。