二人の新たな奴隷契約
故郷に帰ってきてから数日がたった。
俺が目を覚ますと、もう昼前になっていた。
こんなに惰眠を貪ったのは久しぶりかもしれない。
故郷にそこまで思い入れがあるわけでもなかったんだが、やっぱり家だと安心してしまうんだろうか。
ダンジョン内での野営とかだったら、絶対こんなことはないんだけどな。
今までは特に予定もなく家でダラダラと過ごしていたんだが、今日はどうしてもやらなければならない用事がある。
仕方ないからそろそろ起きるか。
身支度をしてから家を出ると、もうすっかり昼になっていた。
ずいぶん寝たんだなあ。
なんとなく空を見上げていると、家の裏から声が聞こえてきた。
「わん! わんわん!」
今日も元気に犬の鳴き声が聞こえる。
今ではすっかりこの町の名物犬となってしまった。
ワンと吠えるのは犬しかない。だから犬だ。そうに決まっているだろう。他に誰がいるというんだ。
だから見にいく必要はない。今日も元気ならそれで十分だ。うん。
見ないふりをして通りを歩く。
やがて見慣れた人影が正面にやってきた。
「ご主人、おはようなのダ! 今日は起きるのが遅いナ!」
パンドラだった。
パンドラもすっかりこの町に馴染んでいた。
見た目は普通の活発な女の子だし、人見知りしない性格だから誰とでも仲良くなれる。
人気が出るのも当然だろう。
町の男どもの間では早くも争奪然が始まっているとかなんとか。
俺のところにも何人か、パンドラちゃんの好きなものはなんだ、と聞きにきた男がいたくらいだ。
パンドラのとなりにはシェイドも一緒にいた。
「睡眠は重要だ。それだけ眠るということは、疲れが溜まっているのだろう」
「疲れているというか、昨日はちょっと眠れなくてな」
「体調には気を付けろ」
そっけないけど、シェイドとしてはこれでもかなり気を使ってくれているんだよな。
シェイドもすごい美形だから、女性に人気があるらしい。
もっともシェイドはパンドラと違って人間に興味ない、どころか、嫌ってすらいるからな。
話しかけられてもまったく相手にしていないのだが、それがかえって人気になっているそうだ。
「ちゃんと眠らないとダメなんだゾ」
「ああ、わかってるよ。心配かけてすまないな」
「わかってるならいいんダ」
パンドラが二カッと笑みを浮かべた。
褐色肌の女の子がこういう笑顔を浮かべると、まるで太陽みたいにまぶしく感じるよな。
エリーだけじゃなく、パンドラやシェイドという美少女と美男子までいるとか、お前のパーティーは一体どうなってるんだと、ここ最近はよく言われている。
まあ、エリーはともかくパンドラとシェイドはモンスターだからな。姿は好きなように変えられるからな。
なんていうわけにはいかないんだけど。
ちなみにシャルロットについては誰も触れなかった。
なんでだろう。不思議だなあ。
そんな感じでみんなこの町になじんでいたんだけど、いつまでもこの町にいるつもりはない。
そろそろまた冒険の旅に出るつもりだ。
なんだかんだ言って、やっぱり俺は冒険者なんだよな。
少し休むとまた旅をしたくなってしまう。
だから町を出る前に、やり残したことをすませるつもりだった。
それが今日の用事だ。
本当はもっと前に終わらせるつもりだったんだけどな。
ついズルズルと後回しにしてしまった。
2人と別れた後、俺はまた町の中を歩きはじめた。
実は今日、俺はある決心をしていた。
そのせいで家を出た時から緊張している。
昨日眠れなかったのもそのせいだ。
なるべく普段通りでいるようにしてるんだけど、やっぱり平常心でいることは難しい。
やがてやってきたのは町の外れにある草原だった。
俺の姿を見つけて、大きな影が飛んでくる。
「きゅいっ!」
ワイバーンのドレイクだ。
町外れの草原にはワイバーンのドレイクやエリーのグリフォンたちがいた。
いつまでもダンジョンの地下に閉じ込めるのはかわいそうだからな。
こうやって外で自由にしてもらっていたんだ。
町の人にも、俺たちが手なづけたモンスターだといったら、特に問題なく受け入れてくれたしな。
ドレイクが俺に寄り添ってくると、首筋を擦り付けてくる。
それは甘えるようというよりは、むしろ俺の背中を押しているというか。
「きゅいきゅい」
こんなところにいないでさっさと用を済ましてこい。
とでも言うかのようだった。
ドレイクにまで心配されてたら世話ないな。
そういえばパンドラやシェイドも、いつものように話しかけてくれてはいたが、どことなく俺を励ましていたような気がしないでもない。
シェイドなんて俺のこと心配してたしな。
考えてみればそんなことあり得ないじゃないか。
そんなことにも気が付かないなんて、やっぱり緊張していたんだな。
「ありがとうドレイク」
首筋を撫でてお礼をする。
「よし、行ってくる」
「きゅいっ!」
励ましの言葉を背中に受けながら、俺は町に向けて一歩を踏み出した。
◇
「遅いじゃない。このアタシを待たせるなんていい度胸ね」
待ち合わせ場所でエリーが腕を組みながら俺のことを待っていた。
いつもの冒険者姿じゃない、私服姿のエリーだ。
かわいい。
じゃなくて。
「すまない。ドレイクたちの世話をしてたりしたら、思ったよりも時間がかかってな」
「アタシよりも獣の方が大事ってわけ」
「そういうつもりじゃ……」
いや、そう思われても仕方ない言い訳だったな。
エリーもすぐに表情を元に戻した。
「ま、いいわ。埋め合わせは後でしてもらうから。それで今日はなんの用なの」
「ああ、そろそろ町を出発しようと思ってな」
「やっとなのね。この町は退屈すぎて飽き飽きしてたところよ」
「でも、エリーはもう俺の奴隷じゃないだろ」
「………………そうね」
女神様から得た<ギアス>を解除する魔法によって、エリーとの絶対服従のギアスは解除していた。
もう俺の奴隷じゃない。
俺の命令を断ることもできる。
俺が町を出るといって、エリーがそれを断れば、俺たちの関係はここまでなんだ。
「だから、改めて誘いにきたんだ。俺と一緒に来て欲しい」
「ふうん。このアタシを誘うんだから、それなりのものは用意してきたんでしょうね」
「もちろん用意した」
うなずくと、逆にエリーが驚いた。
「え、ほんとに? 絶対なにもないと思って適当に言ったのに」
「でも、こんなことを言うのは今日だけだ。二度と言わないし、他の誰にも言わない。嫌なら断ってくれても構わない。だけどもしよかったら、これを受け取って欲しい」
そういって、指輪を手渡した。
差し出されたエリーが大声を上げる。
「はあ!? な、なによこれ!」
「意味は言わなくてもわかるだろ」
指輪は契約の証。
同じ指輪をはめることは、同じ誓いを守ることを意味する。
「そ、そりゃ、アタシだってそれくらい……」
「<ギアス>による強制契約じゃない。本物の契約をエリーと結びたいんだ」
「そんなの……」
「俺と結婚してください」
「………………」
エリーはが俯いてしまったため、表情は見えない。
でも耳まで赤くなっているのがわかった。
たぶん俺も同じくらい赤いだろう。
やっぱりステータスなんて飾りだな。
どんなに高くても、それだけじゃ意味がない。
大好きな女の子の答えを待つだけで、こんなにも倒れそうになってるんだから。
死ぬほど恥ずかしかったが、エリーから目を逸らすようなことはしなかった。
それが今の俺にできる精一杯の強がりだ。
逃げたりはしない。答えを待ち続ける。
長い長い時間がたった。
やがて、エリーが一歩だけ前へと踏み出す。
顔を上げ、リンゴみたいに真っ赤な顔で、俺の目を見つめた。
そして、差し出された指輪をその手につかむと。
「アタシは──────」
震えるほどに小さな言葉が、俺の耳にだけ聞こえた時。
俺たちの新しい関係がはじまったんだ。
というわけで、これにて完結です!
最後までお読みいただきありがとうございました!
久しぶりの長編連載でめっちゃ疲れましたが、最後まで書けて良かったです。
途中から20時投稿は無理だなってなりましたけど、ちゃんと途切れずに毎日投稿できて偉い。昨日が一番ヤバかった。
それもこれも、いつも読んでくれる皆様、応援してくれる皆様のおかげです。
1人じゃ絶対心折れてやめてました。本当にありがとうございました!!
また、もし良かったら下の評価欄から評価とかしていただけると、ここまで頑張って良かったなって思えるので、よろしくお願いします。
まあしばらくは長編書く余裕はないため、短編とか書いていこうかなと思っていますが。
なので、もし見かけたら読んでもらえるとうれしいです。
それではまた、別の作品でお会いできますことを。




