王の懇願と勇者の決断
間違えて書き途中のものを投稿してしまっていたので上げ直しました。
「なんでもしますからもう許してください」
王様が半泣きになりながら訴えてくる。
エリーがニヤリと邪な笑みを浮かべた。
「今なんでもって言った?」
「言ってません」
「アタシに嘘つくんだ。ふーん」
「つい勢いで口が滑りました申し訳ありません!」
王様が地面に頭突きをする。
もうこれ以上頭を下げるスペースが足りないようだ。
「可能な範囲で善処させていただきますので、どうぞ寛大なご処置を……!」
これではもうどっちが王なのかわからないな。
女帝エリーがため息をつく。
「別にアンタらに望むことなんてなにもないわ。もうアタシに干渉しないでちょうだい」
「それでしたらペット牧場を作るのなんてどうでしょう」
すかさずシャルロットが発言する。
「ペットと触れ合い、戯れたり、気が合えば持ち帰ることもできる。そういう場所があってもいいと思うのです」
王様もすぐに顔を上げた。
「素晴らしいご提案です! さすがは勇者様のお仲間なだけはある! 動物と触れあうことで乱暴な性格も少しはやさしくなるということですね!」
ちょいちょい本音がもれてるな王様。
シェルロットもにっこりと笑顔を浮かべた。
「まあ、私を動物扱いしてくださるんですね。うれしいですわ」
「……?? まあ、最近は捨てられたペットも問題になっているので、そういう子たちの新たな引き取り先を探すこともできれば……」
「捨てペット……! なんて甘美な響き……!」
「?????」
王様が混乱している。
戸惑うように俺に視線を向けてきた。視線が雄弁に物語っている。
この人なんなの?
俺にもわかりません。
アイコンタクト終了。
「もういいわ。アタシもアンタらの顔なんて見たくないし。さっさと帰りたいの。だからアタシが軍を滅ぼすか、その前に軍を引くか、好きな方を選びなさい」
「すぐに撤退させていただきます! おい、伝令だ! すぐに撤退させろ!!」
「はっ!!」
伝令が全速力で駆けていく。
以前に魔竜が出現して国を滅ぼそうとしたときよりも速い。
あんなに急いで走る伝令はじめて見た。
それくらいの災害レベルなんだろうなエリーは。
やがて王様がおずおずと顔を上げる。
「それで、あの、エリー様。ひとつだけお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「いいわよ。言ってみなさい」
「寛大なお心に感謝します。実は辺境で魔竜が復活したという報告がありまして。本来ならば軍を向かわせて討伐するところなのですが、エリー様のご意向に従って引き戻させますので、是非ともエリー様に再び封印していただければと」
ちゃっかり魔竜討伐をエリーに押しつける辺り、したたかだな。
しかもエリーの願いを聞いたから、とさりげなく責任を押しつけてくる。
これは断れないだろう。
普通なら。
「ふーん。いやよ」
「……えっ?」
あまりにもあっさり言われたので、逆に理解できなかったみたいだ。
「で、でも今、私どもの願いを聞き入れていただけると……」
「言ってみろと言っただけよ。やるとは言ってないわ」
確かにやるとは言ってなかったな。
エリーなら多分そう言うだろうと俺は予想してたが、国王たちは久しぶりのエリーだからそのところにまだ慣れていないみたいだった。
というか一国の王相手にこんな態度を取るのがエリーしかいないからな。
想定していないのも仕方ない。
「で、ですが、魔竜を倒さねば国が滅ぶかもしれず……」
「アタシはもうこの国を出るから心配いらないわ」
「エリー様しか頼れる者はいないのです! どうか、どうか、か弱い私どもをお助けくださいますよう、平にお願い申し上げます!!」
もはや神に奏上するかのような態度だ。
機嫌を損ねれば天変地異が起きるという意味では間違ってないか。
ブラン王が平伏しながら、視線だけが俺を見つめて必死に何かを訴えていた。
頼む、早くこいつを辺境に追いやってくれ! かな。
やっぱり魔竜討伐は口実だったのかもしれない。
軍さえ引いてくれればもう用はないし、俺もそれで構わないけど。
というか、魔竜が封印されていた場所ってあそこだよな。
「いいんじゃないかエリー」
「ちょっと、イクスは優しすぎるのよ。もう少しわからせてあげないとまた調子に乗るわよこいつら」
「そう言うなよ。一応俺たちの国の王なんだぞ。それに、魔竜の封印っていったらあそこだろう」
「……知ってるわよ」
エリーが憮然とした顔になる。
その理由は、まあなんとなく俺にはわかっていた。
「せっかくここまできたんだし、一度家に帰るのもいいんじゃないか」
いつもお読みいただきありがとうございます。
残り3話で完結となります。最後までお読みいただけると嬉しいです。




