たったひとつの冴えたやり方
まず最初に攻撃したのは俺からだった。
構えた剣を素早く振り下ろす。
簡単に攻撃したように見えるが、これだって十分な威力がある。
ちょっとした岩くらいなら一撃で砕けるだろう。
帝王が俺の攻撃を剣で受け止める。
と思った直後に、剣を握る手から力を抜いた。
受け止められると思っていた俺の剣がそのまま地面に打ち下ろされる。
体が傾いた隙を狙って帝王の剣が閃く。
やる気があるのかと疑いたくなるくらい軽い動きだったが、受け止めた俺の剣が痺れるほどに重い攻撃だった。
「ほう。簡単に防ぐか」
「簡単じゃないけどな」
ほんの一瞬でも反応が遅れれば切られてたぞ。
恐ろしい王様だな。
その後も何度か打ち合ってみたが、俺の攻撃はあっさりといなされ、逆に反撃をされてしまった。
この感覚には覚えがある。
暗殺者のキラと戦ったときのような
ステータスでは俺が圧倒してるはずなのに、うまく捌かれてしまう。
剣を交えても手応えがないというか。
そういえばキラに<分裂>のスキルを教えてもらったとのことだったが、その時に戦い方も習ったのかもしれないな。
俺は一度帝王から距離を取った。
「王様ってのは、城の奥で座ってるのが仕事だと思っていたんだがな」
「誰が味方で誰が敵か分からぬ状況では、信用できるのは自分のみ。余が倒れれば国が混乱する。自分の身を守るのも王の務めということだ」
「まさか帝国の王様がそんなに愛国心強かったとは意外だよ。もっと自分のことしか考えないものと思ってた」
「王など面倒なだけだ。権力を欲しいままにしたいのなら、小さな都市の長に収まる方がちょうど良い」
そんなもんなのかね。
まあ俺も奴隷王として世界に君臨したいとか全然思わないしな。
「それにしたって強すぎるだろう」
「そういう貴様こそ手を抜いているのではないか」
やっぱり見抜かれているか。
今一番困るのは、俺が負けることではない。
帝王に逃げられることだ。
帝王と接触できるチャンスはおそらくはこれが最後。
もし俺の方が強いと判断し帝王が逃げれば、もうこうして正面から向かい合うチャンスは訪れないだろう。
会話をすることすら不可能かもしれない。
とはいえ、俺に相手をする価値がないと思われるのも問題か。
俺は離れたまま剣を構え、振り下ろすと共にスキルを発動する。
「だったらこいつはどうだ。<飛剣>!」
斬撃が宙を飛ぶ。
威力だけでなく速度も十分に強化された一撃だ。
実体のある剣とは違い、スキルの一撃はいなすのが難しい。
さて、どう動くのか。
注視していた俺の目の前で、帝王はなんと自ら斬撃の前へと飛び込んできた。
斬撃を紙一重の距離で交わし、そのまま俺に向かって剣を振るう!
「<飛剣>!」
逆に向こうがスキルを使用してきた。
「くっ!」
飛んできた斬撃をかろうじて剣ではじき返す。
とはいえ、完全に油断してた。
体勢が崩れたところに帝王が斬りかかってくる!
「終わりだ」
「まだだっ!」
帝王の一撃を受け止め、押し返すように剣を振るう。
力任せに横に振っただけの一撃だ。
帝王の実力を考えれば簡単にかわされるだろう。
だが、俺の一撃は帝王の体を真横に切り裂いた。
「なっ!」
驚いたのは俺の方だ。
さっきまで俺の攻撃は簡単にかわしていたはずだ。
それがなぜ急に……。
その理由はすぐにわかった。
俺の剣は帝王の体を貫いたまま動かなくなってしまった。
「捕らえたぞ」
俺の剣を自らの体で抱えたまま、がっちりと固定する。
さらに俺の背後に新たな気配が現れる。
「分裂体か……!」
新たな帝王が2人現れていた。
武器もない俺は素手で対応せざるを得ない。
2人同時に斬りかかってくる帝王の1人を力任せに殴り飛ばし、残ったもう1人を振り下ろされた剣ごと蹴り飛ばす。
おかげで俺の足も少し傷を負ったが、たいした問題じゃない。
そんなことよりも、確かに倒したはずの帝王があっさりと起き上がったことの方が問題だ。
いや、倒したのは2人だったのに、起き上がったときには4人になっていた。
「「「「ようやく本気を出しはじめたか」」」」
同時に4人が話す。
まったく同じ声が同じタイミングで複数聞こえてくるというのは、なかなかに気持ち悪いな。
「無茶苦茶しやがるなくそっ」
いくら分裂体は死んでも影響がないとはいえ、切られれば痛いし、死ぬことは怖いはずだ。
なのにまるで気にすることなく起き上がってくる。
捨身の攻撃とも違う。
死をまったく恐れていない。
本当に人間なのかと疑うほどだ。
相当な研鑽を積まなければ、ここまでの境地には至れないだろう。
それこそ数十年もの長い年月が……。
「……いや、そうか。<分裂>か……!」
「ほう」
帝王が感心したように声を漏らす。
おそらく帝王は、分裂体同士で戦いあってきたんだ。
分裂体ならいくらでも生み出せるし、いくら死んでも問題ない。
帝王が<分裂>のスキルを覚えたのは10年以上も前とのことだった。
その時から今日まで1日も休まずに……いや、おそらくは1秒も休まずに自分たちで殺し合いを続け、レベルアップをし続けてきたのだろう。
それによって得られるのはステータスだけじゃない。
数え切れないほどの実戦経験を積むことができる。
自らの死に恐怖しないのも当然だろう。
おそらく帝王は何千回、あるいは何万回と死を経験しているはずだ。
いまさら一度死ぬくらいどうということもないのだろう。
「いっただろう。絶望を知れと。<分裂>がある限り不死身。余に勝つことは不可能だ」
「……まったく。どうしてこうも予定通りに行かないんだろうな」
正直言って、今回の目的は帝国に侵入さえすれば、後はどうにかなると思っていた。
帝王さえこっちのものにしてしまえばいいのだから。
説得でも、脅しでも、方法はいくらでもある。
そう思っていた。
しかし実際にはどうだ。
説得どころか、逆にこっちが脅されている始末だ。
「それだけの力があるのに、どうして帝国の王なんてしてるんだ。もっと自由に生きられるだろう」
「力ある者が力なき者を導く。当然の責務だろう」
「やっぱ考え方が根本的に違うみたいだな」
「説得は無意味か。優秀な人材を失うのは惜しいな」
自分が勝つ前提で話してやがる。
とはいえ、こっちに決め手がないことも事実だ。
帝王を倒す方法は、事前にいくつか考えていた。
結論から言うと、方法はなかった。
無限に分裂できるということは、手が付けられないほどに無敵なんだ。
だけどたったひとつだけ。
極めて可能性は低いのだが、たったひとつだけ帝王を倒す方法がある。
出来ればやりたくない方法だったが……。
「そうもいってられないな」
なにもない手を伸ばし、手首の黒い腕輪に話しかける。
「来い、魔剣パンドラ」
「おっ、もうオイラ出ていいのカ?」
腕輪が形を変え、漆黒の魔剣となって手の中に収まった。
「俺の本気、そんなにみたいなら見せてやるよ」
ゴミスキル【分裂】のせいで国を追い出された俺、実は分裂体同士で無限にレベルアップできる【壊れスキル】だった~最強の帝王となって追い出した国をざまあしたあと逆支配します
みたいな話でした。




