意外な名コンビ
「形勢逆転だな」
周囲は20人近い暗殺者に囲まれていたが、エリーとシャルロットの2人相手に一方的な展開となっていた。
「帝都の精鋭部隊ってのはこの程度なの!? 楽しみにしてたんだからもう少しくらいは楽しませなさいよね!」
「この程度で御主人様との時間を奪おうだなんて。あなたたちはペット以下の生ゴミですわね」
聖剣が飛ぶたびに光の爆発が男たちを吹き飛ばし、シャルロットの操る多彩な魔法が周囲を薙ぎ払う。
いちおう男たちも反撃をするのだが、近づけばエリーの剣技の餌食となり、離れれば聖剣が飛んできて、魔法を放ってもシャルロットに簡単に防がれ、倍以上の反撃を受ける。
物理攻撃も魔法攻撃も効果がなく、近距離も中距離も遠距離にも対応できる。
1体1ならエリーの敵ではないし、かといって集団で行動すれば範囲魔法で一掃される。
どこにも隙がない。
想像以上に完璧なコンビだった。
お互い背中合わせになりながら、エリーが背後のシャルロットに忌々しそうな視線を向ける。
「アタシひとりでいいってのにうざったいわね」
「御主人様のペットは私ひとりです。エリーにも譲れません」
「いらないわよそんなの。アタシは人間でいたいわ」
「御主人様に撫でてもらったり、御主人様にご飯を食べさせてもらったり、御主人様とお風呂に入ったり、御主人様に添い寝したり……」
「やっぱ殺処分にするわ」
「御主人様にたかる寄生虫は排除しないとけませんね」
「殺す」
「死ね」
やっぱ弱点あった。
致命的に仲が悪いんだよなあの二人。
背中合わせから一転して超至近距離で向かい合い、本気のケンカをはじめた。
お互いに火力が凄まじいから、巻き添えになった男たちが次々に倒れている。
なんなら普通に戦っていたさっきよりも被害が拡大しているくらいだ。
リーダーの男も唖然としていた。
「これほどの力、一体なぜ……。我らは厳しい訓練を積んでいる。そこいらの冒険者如きに遅れは取らない。ましてやそこの奴隷は赤子以下のステータス。それがどうしてあれほどの力を使える」
「話せば諦めるか?」
「それが目的だ。情報を得れば引こう」
「奴隷を強化するのが奴隷王の能力だ。あんたらの目には見えないが、ステータスははるかに高くなっている」
「やはりそうか」
男は驚かなかった。
まあ奴隷王の話についてはスキル屋のミストも知っていたことだからな。
これくらいなら帝国側も把握していたんだろう。
ただ確信までは持っていなかったということか。
しかしエリーたちを目の前にすることで、噂は真実であると確信したようだ。
「やはり貴様はここで殺さなければならない」
「話したら諦める約束だろう」
「悪いがそれは無しだ」
あっさりと裏切られた。
俺も信じていたわけじゃないから別にいいけどな。
「パンドラ、動けるか?」
「エリーたちのおかげで少し楽になったのダ」
暴れに暴れているからな。
周囲の結界も弱まったんだろう。
「なら悪いけど力を貸してくれ」
「わかったのだ。貸しは夜に返す約束だからナ」
そんな約束をした覚えはないんだけど。
褐色少女だった姿が形を変えて真っ黒な液体のようになると、俺の手元に飛んできて剣の形になった。
魔剣パンドラ。
とはいえ対魔物用結界の中では本来の性能は出せないだろう。
せいぜいが普通の剣よりちょっと強いくらいか。
対峙するリーダーの男は無言で剣を構えている。
その構え方だけではなく、感じるプレッシャーからも相手が只者ではないのを感じる。
一見して隙は見当たらない。
さてどう攻めようか。
なんて呑気に構えていたのも、俺が負けるわけがないという思いが心の何処かにあったからだ。
なんだかんだ言って俺のステータスはエリーたちの倍以上になっている。
普通に考えて負けるわけない。
とりあえずスキルを使って様子見をしよう。
それが普通の思考だったとしても、やはり油断だったんだ。
「<飛剣──
俺がスキルを使おうとした直前に男が動いた。
いや、動こうとした。
実際には動いていない。ただその気配を感じただけだ。
しかし。
「──……ッ!?」
胸に鋭い衝撃を覚える。
斬られた。
そう感じると同時に後ろに飛んだ。
追撃しようとしていた男が足を止める。
「……確かに切ったはずだが」
「危なかったなご主人」
剣の形をしていたパンドラが鎧となって今の一撃を防いでくれたようだ。
「助かったよ」
「ヒヒッ、礼なら3日間夜に払ってもらうからナ」
増えてしまった。
まあそれだけのことをしてくれたから当然か。
「今のは『影切り』か」
動くふりをすることで相手に斬られたと誤認識させ、実際にダメージを与える暗殺術だ。
自分が動く必要はない。
だからこそ最速で攻撃することが出来る。
「やはり見抜くか」
男に焦った様子はない。
これはまだ奥の手を隠し持ってるからの余裕なのか……。
どうやらこいつは思ったよりも強敵のようだな。




