新たなる奴隷契約
「お願い……もうやめて……」
エリーから解放されたシャルロットはぐったりと地面に倒れていた。
もちろん外傷はどこにもない。
さすが最高級ポーションを惜しげもなく使っただけはあるな。
「ほらほら、なに勝手にへばってるのよ。まだあと9999万……あれ、何回だっけ。アンタ数えてた? え、覚えてない? じゃあリセットでいっか。あと1億回ね」
「………………」
シャルロットはもはや絶望の声すら上げられなくなっていた。
エリーを相手になにをいっても無駄だと悟ったのだろう。
うつろな眼差しで虚空を見つめている。
これは精神的にだいぶやられているな……。
ちなみに今はシェイドが作ったダンジョンの中にいる。
あのまま広間にいると目立ってしまうからな。
もちろんエリーの行動がというのもあるが、ドレイクやグリフォンたちが見られるのもまずい。
そういうわけでいったんダンジョンに避難してきたんだ。
「きゅいっ」
ドレイクが甘えるように首を擦り付けてくる。
街の中にいるとこうして直接会う機会はどうしても減るからな。
こんなときくらいはたっぷりと遊んであげよう。
「さっきは助けてくれてありがとうな」
「きゅいぃっ!」
なでてやると嬉しそうな鳴き声を上げた。
ちなみにエリーのペットであるグリフォンのホネとニクは、2匹仲良く並びながら主人であるエリーの方を向いてじっと座っている。
何をしてるのかと思ったのだが、どうやらシャルロットを見ているらしかった。
なぜだかヨダレをだらだらと垂らしている。
餌か何かと思っているんだろうか。
シャルロットはそんな2匹を黙ったまま見つめていた。
その体は小刻みに震えている。
エリーが「お仕置き」に飽きたらどうなるか、その将来を見せられているようなものだからな。
そりゃ怖いだろう。
そんな様子をパンドラがすぐそばにしゃがみ込みながら観察していた。
「なあなあ、これってゴーモンっていうんだロ? オイラされたことないからわからないんだけど、どんな気分なんダ?」
それを本人に聞くのかよ。
無邪気さは時に恐ろしいというけど、本当だな。
「………………」
シャルロットは終始無言だった。
声を出す気力もないんだろう。
謎のダンジョンにいるから逃げ出すこともできないし、すぐそばではお腹を空かせた鷲獅子がこっちを見ているし、小さな女の子はエリーのお仕置きを止めるどころか興味深そうに眺めている。なんならちょっと自分もやりたそうだ。
俺のパーティーはこんな奴らしかいないんだよな。
そりゃ絶望しかないだろう。
「そのへんにしといてやれ」
俺がそういうと、エリーが鋭い視線を向けてきた。
「なんでこんな奴をかばうのよ」
「シャルロットにはまだ死なれたら困るからな」
「イクス様……助けてくださるのですか……?」
まだ奴隷化もなにもしてないのにシャルロットが期待の眼差しを向けてくる。
声にも覇気がない。
本格的にヤバそうだなあ。
「助けるというか、シャルロットにはやってもらいたいことがあるんだ。それまでは生きててもらわないと困る」
「な、なんでもします……! どんなことでもご命令ください……!!」
「イクスのヘンタイ」
まだ何もしてないのにもう変態扱いなのは、さすがに風評被害が過ぎるんじゃないだろうか。
「ご主人は相変わらずだナ」
パンドラにまでそう言われてしまった。
なんで俺はそんな風に見られているんだ。
「シャルロットに命令したいのはそういうことじゃないよ」
まあ、そういうことよりももっと過酷なことかもしれないけどな。
「とにかくそういうわけだから、あんたは助けてやる。もちろん俺の奴隷となることが条件だが」
「はい、もちろんです! イクス様の奴隷でもペットでも何にでもなります……!」
「いや別にペットにしたいわけでは……」
「さいてー」
「ご主人は従順な奴隷が好きだからナー」
「きゅいっ、きゅいーっ!」
ドレイクまでもが俺の肩に少し強めの頭突きをしてくる。
えっ、なんでドレイクにまで怒られているの?
ペット枠は自分のものだ的な?
俺の信用なさすぎでは?
ちなみにシェイドもその場にいるのだが、ずっと何も言わずに俺の方を見ている。
いつもの冷静な表情なので何を考えているのかはわからない。
無言だと呆れているのか責められてるのかわからなくて辛い……。
せめて何か言って欲しい……。
「……とにかく、助けはする。だけどそれだけだと信用できない」
なにしろ悪魔と契約するような奴だからな。
俺の奴隷となれば俺に逆らうことはできなくなるはずだが、どんな奥の手を用意してるかわからない。
俺は右手をシャルロットの前に伸ばした。
「だから<ギアス>を使用する」
手の甲に紋章が浮かび上がる。
同時にシャルロットの手にも俺と同じ紋章が浮かんだ。
ギアスで契約したことは絶対に守られる。
それを破棄することはできない。
なにしろ女神様の力を使うからな。
たとえ悪魔でもそれを覆すことは不可能だ。
「シャルロットは俺に絶対服従のこと、そして今後誰も殺さないこと。その代わり俺はシャルロットに危害を加えない。それでいいか」
「はい、構いません」
シャルロットがうなずく。
同時に紋章がひときわ強く輝いた。
これで契約は完了した。
満足したところで、エリーが確認してくる。
「ねえイクス、その契約にアタシは含まれていないのよね」
さすがそういうところに気がつくのは早いな。
「そうだ」
「ふふっ、それならいいわ」
エリーがにっこりと笑みを浮かべる。
俺とシャルロットがかわした契約は、俺がシャルロットを傷つけないこと、だ。
その中にエリーは含まれない。
エリーなら何をしても問題ないということだ。
とはいえしばらくはシャルロットにも働いてもらうつもりだからな。
それまではもちろん危害を加えさせるつもりはない。
そのあとはエリーの好きにさせるけどな。




