エリー対シャルロット
聖剣を手にしたエリーがシャルロットに向けて走る。
レベルが下げられているにも関わらず、その速さは俺の目ですら残像としてしか映らないほどだった。
全盛期に匹敵するほどの速度だった。
「レベルを3000も下げてるのよ!? なんで動けるのよ!」
シャルロットが驚愕の表情で叫ぶ。
確かに驚くだろう。
だけど俺はその理由を知っていた。
エリー=クローゼナイツ
レベル:-3000
職業:奴隷 (イクス)
攻撃:-1000(+2600)
魔力:-1000(+2600)
防御:-1000(+2600)
精神:-1000(+2600)
素早:-1000(+2600)
幸運:-1000(+2600)
それが今のエリーのステータスだ。
下げられたレベルよりも、ステータス上昇値のほうががるかに大きい。
しかしシャルロットにはそれが見えていないはずだからな。
驚くのも無理はないだろう。
ステータスが-1000という意味のわからない数値になっているにもかかわらず、元気に暴れ回るエリー。
そりゃ化け物にも見えるだろう。
エリーが絶好調で叫ぶ。
「アンタが弱いからじゃないの!!」
聖剣を振り下ろす。
反応の遅れたシャルロットに直撃した。
「くっ……!」
シャルロットが距離を取るように後ろへと飛んで逃げる。
エリーの攻撃は確かにシャルロットの体に命中したが、光の膜のようなものがその攻撃を弾き返した。
たぶん自分の周囲に結界を張っていたんだろう。
もしかしたら今までエリーの攻撃を避けていたのも、あの結界の効果だったのかもしれないな。
しかしその結界はエリーの一撃を受けて、粉々に砕け散った。
光の欠片のようなものが宙を舞い、空気の中に溶けて消える。
「三層の結界が一撃で……!? これだから脳筋は嫌いなのよ!」
「つまんない小細工はもう終わりみたいね!」
すかさずエリーが距離を詰める。
シェルロットは杖を掲げ、その先端に黒い光を集めはじめた。
「しかたないわ。これ以上は死ぬかもしれないけど、悪いのはそっちだからね。《ソウルブレイクLV10000》!!」
杖が地面をつく。
強力な力が地面を走り、魔法陣から禍々しい光が立ち上った。
その上にいる俺たちに、これまでとは比較にならない倦怠感が襲いかかってくる。
立つどころか、呼吸する力すら奪われたかのようだ。
が、しかし。
「そんなもん知るか!!」
聖剣を地面に突き立てる。
輝きはじめた魔法陣が音を立てて砕け散った。
「呪いを強引に壊した!? いくらなんでも脳筋すぎるでしょ!」
「レベルだとか呪いだとかゴチャゴチャうるさいのよ。強い奴が強い! それだけのことでしょ!」
エリーが聖剣を振りかぶり、シャルロットに向けて投擲する。
聖なる輝きを空中に放ちながら飛んでいく様は、まるで高度な光魔法のようにも見える。
もっともその中身は、莫大な攻撃力を持つ剣を、馬鹿みたいに圧倒的な力で投げつけるだけの単純な物理攻撃だ。
だからこそ対処が難しい。
魔法なら打ち消せばいい。
だが飛来する物質を消すことはできない。
物理は物理で受け止めるしかないんだ。
「……くそっ!」
シャルロットの杖が聖剣を叩き、かろうじて軌道を変える。
そのおかげで脇をかすめて飛んで行った。
さっきまでは軽々と避けていたのに、今は杖で受けざるを得なくなっている。
それも結界を壊されたからなのだろう。
「あらあら、さっきまでの余裕はどこに行ったのかしら?」
エリーが口元に笑みを浮かべ、手の中に新たな聖剣を生み出した。
「その調子じゃ次の攻撃で終わりかしらね」
「そんな攻撃、何度されたところで効くわけないでしょ」
「あらそう。じゃあこれでどうかしら」
エリーが手に2本目の聖剣を生みだす。
「だから何本生み出したところで……」
シャルロットの言葉が、目の前のエリーを見て驚愕に止まった。
エリーが2本の聖剣を地面に刺すと、3本目を生み出し、追加で4本目を生み出し、さらに5本、6本、7本……合計25本の聖剣を生み出した。
「そこまで言うんだから、せめて10本くらいは耐えるのよね?」
「デタラメすぎる……っ。だからアンタは嫌いなのよ!!」
「奇遇ね。アタシもアンタが大っ嫌い、よッッッ!!!」
全力で投擲する。
もはや肉眼では見ることもできない。
一瞬の光だけを残してシャルロットを直撃した!
「ぐぅっ!!」
シャルロットはそれをよく防いだと思う。
身を守るように持ち上げた杖が、飛来した物質をかろうじて受け止め、ガシャンとガラス瓶の割れる音を響かせた。
「……は?」
エリーは戦闘狂の脳筋だがバカじゃない。
むしろバトルセンスにかけては天才的だ。
さんざん聖剣を投擲して威力を見せつけ、防いでみせろとシャルロットを煽り、目の前で25本も生み出して必勝の態勢を築きながら、投げつけたのは聖剣ではない。
砕かれたガラス瓶から無色透明の液体が降りかかる。
「ディスペルポーション。別名、解呪薬。魔法の効果を打ち消す薬よ。もちろん、アンタにかかった悪魔の呪いもね」
解呪薬を浴びたシェルロットの体から、目に見えてはっきりとわかるほど力が抜けていった。
「悪魔と契約して半分悪魔になったんだっけ? 元に戻してあげたから感謝しなさい」
「……エリイィィィィィ、貴様あああああああっ!!!!」
「あはははは! なにその顔超ウケるんですけど! お礼ならその表情で十分よ!!」
そうして、今度こそ手にした聖剣を全力で投げつけた。




