最後の良心として頑張らねば
「ミスト、手をあげてみてくれ」
ミストにそうお願いしてみた。
もしもこの街の住民全員が俺の奴隷となっているのなら、命令に逆らうことはできない。
だから手をあげるはずだ。
だけどミストはあげなかった。
つまり俺の奴隷になったわけじゃないということだ。
けど。
「手をあげたい、という気持ちが強く湧いてきた。影響力があるのは確か」
ということらしい。
住民を奴隷にしたわけではないが、なかしらの影響はあるようだ。
これもこの街の市長を奴隷にした影響だろうか。
俺のステータスがずいぶん上がっていたのも、市民を戦力として加算したからかもしれない。
ちなみにミストのステータスを確認してみたが、特にステータスの上昇ボーナスが付与されたりはしていなかった。
やっぱり影響があるというだけで、直接支配しているわけではなさそうだ。
もしも全員を本当に奴隷としたら、俺の能力はさらに上がるだろうか。
「とはいえそれは難しいよなあ」
シェイドの話では、奴隷王は自分の国に生まれた奴は全員奴隷とする法律を作ったという。
仮に俺も市長を操って、この街でその法律を作ったらどうだろうか。
まあ、考えてみるまでもないよな。
急に法律を作って、今日からお前らは俺の奴隷な、といったところで納得するはずもない。
<奴隷化>のスキルは相手の承諾が必要となっている。
最低でも、相手を屈服させて俺の方が上であると認めさせる必要があるんだ。
だからいきなり法律を変えたところで反発されるだけで、たぶん奴隷にはできないだろう。
考えてみれば、奴隷王が自ら奴隷王と名乗ったのには、心理抵抗を下げる狙いがあったのかもしれない。
奴隷王が作る国なんだから、国民は彼の奴隷になるに決まっている、と言われたら有無を言わさない説得力があるしな。
それに奴隷王には、奴隷だった彼が王を相手に反逆を起こして王座を奪い取り、自らが新たな王として成り上がったというストーリーがある。
だから受け入れられたんだろう。
この都市全員を俺の奴隷にすれば、と思ったが、そう簡単ではないか。
「あなたは今でも十分強い。これ以上の強さを手に入れてどうするの」
ミストが不思議そうに尋ねてきた。
そういえば俺たちの今の目的を知らないんだったな。
「実は帝国が聖王国に対して戦争を仕掛けようとしてるらしいんだ。俺たちはそれを止めようと思っている」
ミストが無表情のまま目をまたたかせる。
いきなり話が壮大になりすぎて、信じてもらえなかったのかもしれない。
やがてポツリとつぶやいた。
「そう。がんばって」
素っ気ない答えだった。
信じなかったのか、興味がなかったのか、見た目からでは判別できない。
なんとなく興味がないだけっぽいけどなあ……。
「だいたい戦争を止めるなら女神が自分で行けばいいじゃない。アタシにはよくわかんないけど、アイツえらいんでしょ? 平和を説けばみんな涙を流して戦争もやめるんじゃないかしら」
エリーがそんなことを言い出した。
ほんと女神様に対しての敬意が一切ないの逆にすごい。
まあ言ってること自体は悪くないというか、本当にできるのならば全てを解決するんだけど……。
「女神様がいうには、それはできないらしいんだ。自分が人間の歴史に直接干渉することはできないとかいっていたな。だからこうして光の勇者を通じて間接的に働きかけているらしい」
「ふーん、使えないわね」
「そういうなよ……。女神様にだって色々あるんだよきっと……」
「もう面倒だから両方滅ぼせばいいじゃない」
ついにそんなことを言い出した。
絶対にいつか言うと思ってたよ。
大勢の人が亡くなるから戦争を止めてと言われてるのに、自分で両方全滅させたら本末転倒というか、むしろ被害を拡大させているんだが。
「やはり人間は愚かだな。一度滅ぼすべきだ」
シェイドも納得している。
意外なことにミストも賛成のようだった。
「乱暴な人は嫌い。店にもたまにそういう人が来る。全員いなくなればいい」
なんで俺の周りってこんな人ばかり集まるのだろう。
俺自身は普通のはずなのに。おかしいな。
やはり俺が最後の良心としてしっかりしなければ。




