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イクス、お前はいったい何者なんだ

「というわけなんです」


 エリーが俺の奴隷となったところから、シェイドを仲間にし、市長が戦争に加担していたため命を狙われたところまで、全部を話した。

 隠し事はなにもない。ある一点だけを除いて。


 冒険者ギルドの長であるガドーさんなら信頼できるが、どうしてもひとつだけは信じてもらえないと思って言わなかったんだ。


 それでも、説明するのにずいぶん時間がかかってしまった。

 もうすっかり真夜中だ。

 エリーとパンドラは部屋のソファに並んで座り、仲良く眠っている。

 寝てる姿だけなら2人の天使が居眠りをしてるようにも見えるんだが……。


 いや、これ以上は言わない方がいいな。

 忘れていれば美少女2人の寝顔を堪能できるのだから。


 シェイドはいつもとかわらない冷静な表情だ。

 話によれば睡眠は必要ないらしい。

 つくづく人間離れしている。いやモンスターだから人間じゃないのは当たり前なんだが。

 ちなみに本人が言うには「私は兵器だから」とのことらしい。


 そんなシェイドとは対照的に、執務机に座ったガドーさんはいつも以上に厳しい顔つきをしていた。


「……もうなにから言ったらいいのかわからんな」


「嘘は言っていません」


「そうだな。そこは信頼している。お前はこんな嘘は言わないだろう」


 疲れたようにそう言って、部屋の隅に目を向ける。

 そこには市長がこちらも疲れたような顔をして座り込んでいた。


「とにかく今一番緊急の問題は、市長をどうするかだな。誘拐されたと思ったら、帝国が戦争を仕掛けようとしていて、しかも市長は裏切るつもりだっただと。まったく。信じられん」


「本当です」


 答えたのは市長自身だ。


「帝国側のスパイが私に接触してきたのです。戦争の際に帝国側に着くか、最悪中立の立場を貫けば、私に帝国内での貴族の地位を用意すると」


 知るだけで命を狙われるような機密情報を惜しげもなく話す。

 ガドーさんが今日何度目かもわからないため息をついた。


「……<奴隷化>ってやつか」


「だからこそ、この話が本当であると信じられます」


 市長には、ガドーさんに聞かれたことはなんでも正直に話すよう命令してある。


 だから嘘はつけない。

 少なくとも市長は本当だと信じているという事だ。


 市長自身が騙されている可能性もないわけでは無いが、そんな回りくどいことをするはずがないだろう。

 それにそんな嘘をつく意味もない。

 だからやっぱりこの話は本当のことだ。


「まったく、厄介ごとを持ち込んでくれたものだな」


「厄介ごとが持ち込まれるのはギルドじゃいつものことでしょう」


「国家レベルの陰謀はさすがに初めてだ」


「とはいえ、俺もガドーさんくらいしか頼れる人がいなくて」


 冒険者ギルドは、都市とは独立した機関だ。

 荒くれの冒険者が起こすトラブルを解決する自警団としての機能も持っている。

 都市機能の一部である衛兵たちに引き渡したら、市長の権力でうやむやにされるかもしれない。

 その点、冒険者ギルドは都市からは独立しているため安心だ。


「だからといって、市長が聖王都を裏切って帝国につくなんざ、前代未聞だぞ。どう裁いたらいいかもわからん」


「国家反逆罪だから極刑なのでは」


「……その通りだが、簡単にいってくれるな」


 ギロリと俺を睨む。


「事実をそのまま公表したらパニックになる。わざわざ帝国が懐柔工作を仕掛けてきたくらいだ。この都市を脅威と見ているのは間違いない。その混乱に乗じてなにをしてくるのかもわからん。最悪ここが戦争の舞台になるぞ。事実の公表は、少なくとも当分のあいだは無理だ」


 なるほど。確かにそうなのかもしれない。

 やっぱりガドーさんに頼んで良かった。


「誘拐犯から救出したということにして、こっちで身柄を預かってもいいが……。イクスの命令をなんでも聞くのなら、下手に拘束するよりも、普段通りに泳がせる方がいいかもしれんな」


「そうですね。俺もそう思っていました」


 まだまだわかっていないことはたくさんある。

 市長にはもう一働きしてもらおう。


 すると、ガドーさんが少し意外そうな顔で俺を見つめた。


「どうしたんですか」


「いや、てっきりこの件は俺に押し付けてイクスは手を引くつもりかと思ったんだけどな」


「さすがにそんな無責任なことはできないでしょう」


「だが、ことは国家間の戦争だ。俺たち冒険者にできることはない。そうだろう」


「確かにそうですね……」


 正直言えば手を引きたい。

 だけどそれができない理由がある。


「俺たちはこの戦争を止めなければならないんです」


「そんな正義感に溢れた男だったか?」


「光の勇者に付き従う戦士ですよ俺は。正義感の塊じゃないですか」


「嘘をつくな。イクスはエリーのそばにいたかっただけだろう。正義なんて二の次だったじゃないか」


 うぐっ。その通り過ぎて返す言葉がなかった。


「それで、本当の理由はなんだ」


「……実は、女神様に頼まれたんですよ。この戦争で多くの人が死ぬから、俺たちに止めて欲しいと」


 そういうと、ガドーさんが今日初めて大声で笑った。


「はっはっは! ずいぶんと面白い冗談を言うようになったな!」


 まあそういう反応になるよね。

 俺も信じてもらえるとは思っていない。

 だからこれだけは言わなかったんだが。

 でも。


「本当です」


 部屋の中央に、突如として光り輝く存在が現れる。

 神々しいその存在は、説明不要の存在感を放っていた。


「この戦争を止めなければ大勢の命が失われるのです。どうか力をお貸しください」


「な、あ、あんたは……」


 ガドーさんが驚き固まるという、珍しいものを見れた。

 やがて気を取り直すと、どこか恐怖の入り混じった視線が俺へと向けられる。


「女神様が直接頼みに来るなんて……。イクス、お前は一体、何者なんだ……」


 そういわれても、俺だってよくわからないんだけどな。

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