脱出と尋問の時間
「グルガアアアアアッ!!」
放り投げられた市長に殺到するグリフォンたち。
「ひいいぃぃぃ……!!」
目前に迫られて、市長が腰を抜かして床に座り込む。
そのまま失神して倒れてしまった。
「ま、こんなところでしょうね」
その醜態を見下ろしながらエリーが吐き捨てるようにつぶやく。
グリフォンたちは脅かすだけで実際には市長を食べなかったみたいだ。
特に言葉を交わしたわけでもなかったのだが、なんだかんだでエリーとは意志の疎通が取れているみたいなんだよな。
暴力的なエリーの考え方と、獰猛なモンスターであるグリフォンは考え方が似てるのかもしれない。
……思考が獰猛なモンスターと同じ光の勇者とはいったい……。
「エリーのことだから止める間も無く殺したのかと思ったよ」
「そんなことするわけないでしょ。コイツには聞きたいことがたくさんあるんだから」
おお、あのエリーが目的のために殺さないなんて。
その成長に俺は思わず泣きそうになる。
こうしていつかはエリーも普通の女の子になる日が来てくれるだろう。
「聞きたいこと聞いたらちゃんとホネとニクの餌にしてあげるわよ」
エリーが普通の女の子になる日はまだまだ遠そうだな……。
「栄養たっぷりで美味しそうなのだナー」
パンドラが、倒れた市長の太った体を突いている。
「アンタにはあげないわよ。なにもしてないでしょ」
「ココの場所を突き止めたのはオイラだってことを忘れてないカ?」
「それもそうね。じゃあ腕一本でいいかしら」
「人間の料理は美味しかったからナ。楽しみだナー」
「……人間の料理は人間を材料にしてるわけじゃないわよ」
さすがのエリーも若干引いていた。
「えっ、そうなのカ? じゃあいらないのダ」
「じゃあやっぱりホネとニクの餌でいいわね」
パンドラと物騒な会話を平然と続けている。
とりあえずそのあいだに、倒れた市長の体をグリフォンに背にくくりつけた。
こんなところに長居は無用だ。さっさと脱出しよう。
ガラス窓を打ち破って部屋に侵入し、市長の絶叫まで響いたのだが、未だに警備兵たちがやってくる気配はなかった。
本来ならあり得ないと思うのだが、たぶん勝手に自分の部屋に入らないよう部下に命令でもしてあったのかもしれないな。
暗殺者まで雇っていたくらいだからな。
それくらいはしててもおかしくはない。
とはいえ、周囲からはざわついた雰囲気が伝わってくる。
<敵感知>のスキルに反応はないが、それでも嫌な予感は俺の中にずっと残っていた。
ドレイクたちを奴隷としてから野生の勘が鋭くなっている。たぶんこれの力だろう。
「どうしたものかな」
「また飛んでいけばいいじゃない」
「さすがに見つかるかもしれないからな」
何も無ければ、普通は夜空なんて見上げない。
仮に見たとしても、黒い影が飛んでいるようにしか見えないだろう。
せいぜい大きな鳥かな、と思うくらいで、まさかワイバーンやグリフォンが飛んでいるなんて思わないはずだ。
だけど警戒体勢だと、もしかしたら正体に気がつかれるかもしれない。
余計なリスクは犯すべきじゃないだろう。
「シェイド、悪いけどまた入り口を作ってもらえるか」
「わかっている。今準備しているところだ」
さすが優秀な奴隷は仕事が早い。
俺が説明するよりも先に状況を把握して、ダンジョンの入り口を造りはじめていた。
「そもそも最初からここに入り口を繋げたほうが直接突入できるし早かったんじゃないの?」
エリーの疑問にシェイドが首を振って答える。
「私が入り口を作れるのは私の周囲だけだ。遠く離れた場所にはできない。それに一度も行ったことがない場所にも作ることはできない」
そうらしいんだよな。
そうじゃなかったら、宿屋からこの部屋までダンジョンで道を繋げばすぐだったのだが。
さすがにそこまで便利じゃないらしい。
それでも十分すぎるくらい役に立っているんだけどな。
やがて俺の<敵感知>に反応があった。
同時に館内を走る音が聞こえてくる。
どうやら警備兵が動き出したらしい。
俺たちに対して敵意を持ったことで<敵感知>も反応があったんだろう。ようやく異変を察知したらしいな。
現場の判断だけで動くのは難しかっただろうに、迅速に行動したのは評価できる。
さすが市長の館に詰める警備兵なだけはある。
もっとも、こっちの方が早いのだが。
「できたぞ」
シェイドが執務机の引き出しを開ける。
引き出しの横幅こそ人が通るには十分だが、厚みはせいぜい書類が数十枚も入ればいいといった程度しかない。
にも関わらず、引き出しの中には広大なダンジョンの入り口が作られていた。
なんというか、引き出しの中に広大なダンジョンがつながっているという光景には、不思議な感覚を覚えるな。
「入り口」という概念があれば、それを起点にしてダンジョンと繋げることができるのだ、と前にシェイドが言っていた。
正直よく分かっていないが、とにかくそういうことらしい。
だからといって引き出しにしなくてもいいのではと思うのだが。
「どこまでできるのが私自身の確認も兼ねているからな」
「とりあえず、さっさと退避しようか」
ドレイクやグリフォンの巨体が引き出しの中に吸い込まれていくのは、ちょっと面白い光景だな。
そのとき、警備兵たちの殺到する足音が部屋の外に響き、扉を蹴破る盛大な音が響いた。
「市長様、大丈夫ですか!」
怒鳴り声と共に十数人の完全武装した兵隊がなだれ込んでくる。
すでに剣を抜いて臨戦態勢だ。
部屋になだれ込んでくる動きを見ただけでも、彼らが相当に訓練されているのがわかる。
それを確認しながら、俺はダンジョンの内側から引き出しをそっと閉めた。
ダンジョンに戻ると、エリーがグリフォンの背から市長を引きずり下ろしているところだった。
「さっさと起きなさいよおっさん」
「うぐっ……っ。な、なんだ……? ここは、ダンジョン、なのか……?」
「もちろん、アンタの墓場よ」
にっこりと極上の笑みを浮かべる。
エリーが大好きな時間のはじまりだ。




