奴隷と主人の連係攻撃
「消えろ」
ダンジョンマスターが神剣を振るう。
剣風が熱波となって俺たちに襲いかかった!
「ぐっ!」
「きゃあっ!」
今のは攻撃ですらない。ただの素振りだ。
なのに俺がグラムを、エリーが聖剣を盾にすることでなんとか防ぐことができた。
素振りでこの威力。
まさに格が違うというほかない。
「パンドラ、ありったけをよこせ。出し惜しみなしだ!」
「ワカってるよご主人!」
手の中の魔剣に力がみなぎる。
魔剣はあまりにも強力過ぎるので力を抑えていたのだが、ダンジョンマスター相手にはその必要はなさそうだった。
むしろ全力で挑んだとしても勝てるかはわからない。
手加減なんてできるわけがない!
「<飛剣>!」
全身の力を込めて魔剣を振り下ろす。
三日月型の斬撃が地面を切り裂きながらダンジョンマスターに襲い掛かった。
魔剣の力を全力で解放しての一撃だ。
一振りで地形を変えるほどの攻撃は、しかし直撃する前にかき消されてしまった。
「無駄だ」
今の攻撃ですら触れずに打ち消すのか。
「やっぱこの程度じゃ牽制にもならないか」
「小手調べなんてずいぶん余裕ねご主人様!」
エリーが両手に聖剣を構えて突撃していった。
聖剣の効果がないとはいえ、普通の武器としても最上位に入る。
剣を打ち下ろし、受け止められた部分を起点にして蹴りを加え、反動で飛び退きながら腰のポーチから取り出した爆薬を投げつけた。
流れるような連続攻撃だ。
爆煙と轟音が周囲を包む。
といっても聖剣の一撃ですら効果がない相手だ。
アイテムによる爆破なんて目くらましにしかならないだろう。
だが、その目くらましで十分だった。
俺は即座に地面を蹴り、ダンジョンマスターの目の前にまで接近した!
「上級剣技──<太刀風>!」
<飛剣>よりもさらに高い威力を持つ剣技スキルだ。
全力で放った魔剣の一撃がダンジョンマスターを直撃した。
衝撃で背後の地面が大きくえぐれ、遠巻きに見守っていた周囲のモンスターたちを一掃する。
「お、おい、なんだあいつ! 光の勇者よりやべえぞ!」
「離れろ! 巻き込まれたら死ぬぞ!」
モンスターたちが慌てて離れていく。
だがダンジョンマスターは、無造作に伸ばされた神剣で俺の一撃を受け止めていた。
「これすらも簡単に受け止めてくれるな」
「魔剣グラムはもう存在しない。それの持ち主は私と戦い、レーヴァテインによって砕かれたからだ」
「つまりその剣の方が格上ってことか?」
「そうだ。しかもパンドラの擬態により本来よりも劣化している。貴様のスキルで多少は強化されているようだが、本家を超えるほどではない。つまり勝ち目はない」
「わざわざ親切に教えてもらって悪いな!」
飛び下がりながら2撃、3撃と切り込むが、神剣によりあっさりと防がれてしまう。
むしろ衝撃波で奴の背後の方がめちゃくちゃに切り刻まれていたくらいだ。
改めて魔剣の強さを感じるが、それを簡単に防いでしまうコイツの強さも規格外だ。
「もう終わらせる。いくぞ」
初めてダンジョンマスターが自ら動いた。
レーヴァテインを抜身のままぶら下げて迫ってくる。
だが、攻撃に転じた一瞬は、意識が俺たちに向いているということでもある。
「ニク、ホネ!」
「グルガアアアアアッ!!」
上空に待機していた2匹のグリフォンが同時にダンジョンマスターを襲う。
グリフォンの爪は下手な武器よりもはるかに鋭くて頑丈だ。
「きゅいっ!!」
さらにワイバーンのドレイクも上空から酸のブレスを吐きかけた。
流石に予想外だったのかダンジョンマスターの足が止まる。
「馬鹿な、グリフォンにワイバーンが、この私に攻撃をするだと……?」
ダンジョンマスターが驚きの声を漏らす。
いくら俺の命令には逆らえないとはいえ、ドレイクたちモンスターがこの地を統べる魔王に攻撃をするのは勇気が必要だっただろう。
その勇敢な思いが、俺に流れ込んで力になるのを感じた。
「今ではすっかり俺たちの仲間なんでな!」
俺は手にした剣でダンジョンマスターに攻撃を加える。
「ちっ」
初めて焦りの色を見せながら、俺の一撃をレーヴァテインで受け止めた。
「無駄だといっただろう。武器の格が違う。魔剣ではいくら攻撃しても……」
その言葉の途中で、ダンジョンマスターの動きが止まった。
構えた神剣が押し返され、その体がぐらりと崩れる。
「確かに魔剣じゃ神剣にはかなわない。だが女神様が作った聖剣なら違うようだな」
俺が手にしていたのは魔剣グラムじゃない。
エリーが召喚した聖剣エクスカリバーだった。
意識が外れたさっきの一瞬で入れ替えておいたんだ。
そして今その魔剣を持っているのは……。
「死・ね・やおらあああああああああああ!!!!!!!!!」
「コイツには使わせないって約束ダッタじゃないかご主人んんんンンン!!!!!」
パンドラの抗議の悲鳴と共に、エリーの投擲した魔剣がダンジョンマスターの脇腹を貫いた!
「ぐっ……!」
ダンジョンマスターの口から血があふれる。
よし、ダメージを与えた!
やはり聖剣に耐性があるだけで、魔剣だと普通にダメージを与えられるようだな。
ならばこのまま勝負を決める!
俺は即座に聖剣を手放すと、突き刺さったままの魔剣をつかみ、スキルを発動させた!
「上級剣技──<五月雨>!」
刀身から無数の刃が発生する。
ダンジョンマスターの体を内側から粉々に切り裂いた!




