空中戦
「空の旅もなかなか快適でいいわねー」
ワイバーンの背に乗りながら、エリーが楽しそうに声を上げる。
俺たちは今、奴隷化したワイバーンの背中に乗って空の旅を楽しんでいた。
これならかなり早いし、何より楽だ。
徒歩でなら20日はかかると思った旅も、もっと早く着きそうだな。
ワイバーン用の鞍なんて用意してなかったが、特に落ちる心配もなく背中に乗れていた。
結構広いし、何より安定している。
念のために落下防止用の紐をワイバーンの首に回し、それを俺たちの体に結びつけているんだが、今のところその必要はなさそうだ。
俺たちを背に乗せているから、体が動かないように気を使ってくれているのかもしれないな。
「おかげでだいぶ楽できそうだよ。ありがとな」
ワイバーンの背中を撫でながらお礼を言う。
すると、首をもたげて嬉しそうに鳴いた。
「きゅああっ」
これまでの攻撃的な感じはまったくない、甘えるような声だった。
ワイバーンってこんな声も出せたんだな。
「そういえばこいつ名前は何にするの」
「名前か。考えてなかったな」
確かにこれから旅を共にするなら名前は必要かもしれない。
いつまでもワイバーンじゃかわいそうと言うか、味気ないもんな。
とはいえ何も思いつかない。
今まで何かに名前をつけたりとかはしたことなかったから、慣れてないんだよな。
俺が悩んでいると、エリーがどことなく偉そうな口調になる。
「しょうがないわね。じゃあアタシが考えてあげましょうか」
「なんかいいのを思いついたのか」
「うーん、そうね……。ゲロ! ゲロにしましょう!」
「きゅあっ!?」
心なしかワイバーンが嫌そうな声をあげた。
人間の言葉がわかるんだろうか……。
「いや、なんでそんな名前なんだ」
「ワイバーンと戦うたびにいつも思ってたんだけど、こいつ口から胃酸を吐くでしょ。それってつまりゲロみたいなものじゃない。ゲロ吐きまくるモンスターとか気色悪いから嫌いだったのよね」
「そういえばワイバーンはいつも瞬殺だったもんな……。そういう理由だったのか」
目を向けるだけで殺したりとかしてたもんな。
「というか、毎回ゲロを連呼することになるんだがいいのか」
「じゃあ他にいい名前があるの?」
「ええっと、じゃあ、ドレイクとかでいいんじゃないか」
「うわー安直」
「ゲロ吐くからゲロにしたやつに言われたくはない」
その後色々な候補が挙がったが、最終的にはご主人様権限によってドレイクに決定した。
「きゅあっ、きゅあっ!」
どこか嬉しそうに聞こえるのはきっと気のせいじゃないだろう。
◇
しばらく空の旅を続けていると、再び俺の<敵感知>に反応があった。
前方から二体、ワイバーンよりもさらに大きな力を感じる。
やがて姿を現したのは大型の翼獣種、グリフォンだった。
「きゅああああああっ!!」
ドレイクが威嚇の声を上げる。
二体のグリフォンもすかさず咆哮を返してきた。
「グルガアアアアアアアアアッ!!」
グリフォンは獅子の体に鷲の頭と羽を持つ、獰猛な種だ。
推定レベルは120。ワイバーンのレベルは80くらいだから、かなり格上だな。
本来なら即座に逃げ出したいところだが、空の上ではそうもいかない。
向こうが2体に対し、こちらは1匹と2人。
とはいえこっちはドレイクの背中に乗っているだけで、空を自由に飛べるわけではない。
それに速さも向こうが上だ。振り切って逃げることも難しいだろう。
ならばやることはひとつしかない。
「ドレイク、突撃だ!」
「きゅいいいいいっ!」
翼を羽ばたかせて加速する。
逃げられないなら戦うしかない。
なら先手必勝だ。
相手もまた速度を増加させたため、俺たちの距離がものすごいスピードで縮まり始めた。
俺は紐を握りながらドレイクの背に立つ。
剣を構え、振り下ろすと同時にスキルを発動した。
「<飛剣>!」
斬撃が空を飛ぶ。
スキルの威力に加え、お互いのスピードが加わったため、本来の倍以上もの攻撃力となってグリフォンに襲いかかった!
「グギャアアアアアア!!」
悲鳴を上げてグリフォンの一匹が墜落する。
それを見たもう一匹が慌ててさらに高くへと飛び上がった。
逃すと後でまた襲われるかもしれない。ここで確実に仕留めておく必要がある。
「エリー、頼む!」
「はいはい。わかってるわよ。なんでアタシがこんなこと……」
ブツクサ言いながらも、鞄から昨日用意したものの1つを取り出した。
エリーには昨日のうちに、クエスト屋でいくつかのスキルを覚えてもらった。
そのうちのひとつが<投擲>だ。
これは狙ったところに物を投げやすくなるスキルであり、これ自体に対した力はない。
ボールを投げる練習を一ヶ月くらいするだけでも同じ効果が得られるだろう。
エリーにはステータス補正がついているとはいえ、レベルは1のままだ。
このままではなんの役にも立たない。
だけど、アイテムは別だ。
エリー自身のレベルは1でも、レベル50相当のアイテムを使えば、相応の効果が得られる。
ドレイクを助けるために使ったポーションもそうだな。
そしてエリーが取り出したのは、昨夜のうちにいくつか用意していた投擲用武器のひとつだった。
「くらいなさいっ!」
空に向かって投げる。
それは紐の両端に重りを結びつけただけの簡単なものだ。
だけど効果は抜群。
紐がグリフォンに当たると、そのまま体をグルグル巻きにしてしまった。
空中戦において羽を封じられることは致命的だ。
さすがにグリフォン相手では紐自体は簡単に千切られてしまったが、ほんの数秒隙を作れればそれで十分。
そこを見逃す俺とドレイクではない!
「<飛剣>!」
「キュイイイイッ!!」
斬撃がグリフォンの体をとらえ、毒液が体を焼き焦がす。
「グギャアアアア……」
直撃を受けたグリフォンが、か細い悲鳴を残して墜落していった。
この高さだ。タダでは済まないだろう。
ドレイクを地面に向かわせる。
そこには大きな傷を負ってうずくまる2匹のグリフォンがいた。
格上相手の戦いだったが、なんとか完勝できたな。
「キュイっ、キュイっ!」
安堵する俺の横で、ドレイクが勝利の声をあげていた。




