普通のTS
注意
※このお話は作品作りに詰まったこたつが勢いのみで書いた、普段書いている作品とは全く違う雰囲気の作品です。
それでも良い方のみお読みください。
あぁ……どうしてこうなったのだろう。
僕はただ、いつも通り普通に暮らしていただけだと言うのに。
「…………そういや、今日はクリスマスイヴだったな……皆と一緒に……ごはん……たべたがっだなぁ…………」
雪の降り積る公園の中、遠目に光り輝くイルミネーションを見ながら、僕は肩まである黒髪を垂らしてジャージ1枚で涙をボロボロ流してベンチに寝そべっていた。
どうして、本当にどうしてこうなってしまったんだろう。
空腹と疲労でだんだんと重くなってきた瞼をなんとか開けながら、僕はどうしてこうなったかを思い出していた。
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あれは今から五日前、もうそろそろくるクリスマスにワクワクしながら冬休みに入った僕は、その日目が覚めた時色々と違和感を覚えた。
明らかに何時もより見える世界が低い。
パジャマの裾がダボダボになって脱げかけている。
首の周りになんだかこそばゆいさらさらとした感じがある。
「……なんだ、まだ夢か」
そう呟いた自分の声は高く、柔らかい声だった
声まで変わってるし。
ベッドからぴょんと僕は飛び降りる。
そこで胸から垂れている何かがパジャマに擦れる。
感じたことの無い痛みに変な声が出る。
なんだろう、この感覚……まさか現実?
そんな考えに至った僕は、ドアを空け、洗面所に走る。
途中思いっきり顔から転けたりしながらひたすらに走る。
その最中も胸元で揺れ擦れるそれと、股間の空白感が今の自分に現実味を与えてくる。
夢だ、夢だ夢だ夢だ!これは夢だ!鏡を、鏡を見ればそう!そこにはいつも通りの自分の姿が────
ガラリと建付けの悪い洗面所の戸をこじ開け、明らかに高くなった洗面台から鏡を覗く。
するとそこには──────
「うそ……だろ……?」
肩まである黒い髪と、長くなった前髪に隠れた優しげな大きいタレ目の───────
「おにぃ?」
「や、やーちゃん……」
いつの間にか後ろに立っていた、眠たげなその目元にある自分と同じくらいの身長のまだ幼い妹と同じ位置にあるホクロが特徴的な少女がそこには映っていた。
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「はぁはぁはぁ!」
クソッ!クソックソックソッ!何がどうなってんだよ!
「ここまでくれば……はぁ…………とりあえずは……げほっ……大丈夫……かな?」
膝に手を付き、着の身着のまま飛び出してきた僕はアスファルトから足の裏に伝わる刺すような冷たさを感じつつ、息を切らして立ち止まる。
警察呼ばれそうになって思わず飛び出したけど、流石に靴くらい履いてくれば良かった……
「クソッ、なんでこんな事に」
息を整え、まだ朝早く人目のない道を目的地に向かって再び走り出した僕の脳内で、先程の出来事が思い浮かべられる。
数分前僕の起こした騒ぎを聞きつけ、妹に続いて駆けつけてきた家族に、僕は懸命に自分の身にあった事を伝えた。
しかしこんな非現実的な事など信じてもらえる訳もなく、不審者と思われた僕は警察へと通報されかけ、慌てて家を飛び出してしまったのだった。
とにかく、今は家には戻れない、かと言ってこのまま外でウロウロしてる訳にもいかない、となると頼れるのは……
「まずは、かおちゃんかな」
幼馴染であり二人居る親友の片方である時々出る毒舌が怖い馬鹿力の親友の家に向かいつつ、僕は余らせた袖を振りながら懸命に走った。
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「いたいっ!いたいってかおちゃん!」
「私の大切な親友の片方を偽っておいて、許して貰おうだなんて虫が良いと思わないの?」
「だからっ!だから僕!矢尋だってば!」
「矢尋君は男の子だよー?貴女はどこからどう見ても女の子じゃない。それにその格好、怪しいったらありゃしないわよー?」
「ぐっ……あっ……」
やばい……首が……!
片手で襟首を持たれ持ち上げられた僕は、首が締まる中必死にもがきつつ、自分が彼女の親友の片方であると必死に伝えていた。
しかし、僕がなんと言おうと彼女の僕達親友に対する想いは強いらしく、僕は更に強く首を締められるだけだった。
「あだっ!」
「今でも相当腹立たしいけど、まだ矢尋君だと嘘ついて良かったね。もし悠斗君だって言ってたら、私貴女を殺してたかも。それじゃあ、これ以上居るようなら警察呼ぶからね」
「──────っ!」
クソッ!かおちゃんまで……!いや、まだっ……まだあいつなら!
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「えーっと……迷子かな?」
「だから迷子じゃないんだってハル!僕だよ僕!矢尋だって!」
「んー、でも矢尋はもっと背が高くて落ち着いてるんだよなぁ。それに……どう見ても君は女の子だしなぁ……」
「うぐっ……」
あれからなんとか泣くのを堪えつつもう1人ののんびり屋な幼馴染の家に辿り着いた僕は、目の前で僕の事を迷子扱いしてくる親友に反論が出来ずにいた。
「とりあえず、警察に来て貰ってお母さん探して貰おっか?俺も付き合うからさ?ね?」
警察はまずい……!今の僕は身分証所か住民票すらも登録されてないはず!となれば不審者である事に間違いはない訳で……!
「すまんっ!」
「ほぉぐぅあっ!?おぉぉぉぉ……!いきなり何を……!」
警察だけは今はまずいんだ!すまん!本当にすまん!
心配して警察を呼ぼうとした親友に金的を決め、僕は心の底から謝りつつ、とにかくこの場所から離れようとひたすらに走ったのだった。
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そして補導されたりしながらなんとか警察の目などを掻い潜り、ただひたすら街から離れようと数日間の間走り続けた僕は、全く知らない街まで来ていたのだった。
そして────────
「へへっ……けーき、けーきだ……あまい……おいしい……あったかい、あったかいなぁ…………」
そう呟きながら、僕は手足から力が抜けていくのを感じつつ、いつの間にかもう開かなくなった瞼の裏で、僕は昨日までの幸せな日常を思い浮かべながら意識を手放したのだった。
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「……あ?なんだありゃ……人?はぁ……めんどくせぇ、さっさと家に帰って飯でも………………ちっ、本当にめんどくせぇ」
最後まで読んでくださりありがとうございました!
大分暗い作品になりましたが、楽しんで貰えたのなら嬉しいです。
ちょっとでも面白かった!印象に残った!と思って頂けたならブックマークや感想を是非……!
(反応がよかったら長編として続き書くかも?)
宜しければ他作品も覗いて下さると嬉しいです!
それではまたどこかで!