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九段下の駅を降りて

「よくぞ、気付いてくれました!、

 今日、私達は初めて一緒に電車に乗るんだよ。」

それはその通りなんだが… ご高説を拝聴しよう。


「初めてだから、当然、カクさんは知らなかったワケですよ。

 私がICカードを持ってるかも、チャージを済ませているかも。

 そして、そんな事は、社会人のカクさんには当たり前の事だから、

 確認するまでも無い事。

 でも、気付いてくれたワケ。

 今日一緒にいるのは、初めて一緒に電車に乗る私だって事に。」


うん、まぁ、仰る通りですね。


「今までの会話に、電車に乗るって話が出てきてないって事に気付いたから、

 確認した。それは今までの会話を覚えているって事。

 ちゃんと聞いてるってことなのですよ。」


そんな当然の事について、

何故にそこまで力説するのかが、わからないんだが…


「年上の男性から、存在を認めてもらえているって思えるのは、

 嬉しい事なのです。誇らしいことなのです。おわかり? カクさん。」


「う、うん、なんとなくは分かる。」


「なにその子供みたいな返事。

 そこは逆に分析をしてみせるくらいしてほしいんですけど。」


「えーと、つまりは、今日、初めて一緒に電車に乗るということを、

 俺が認識していたことが、

 あかねにとって喜ばしいことだったと。それでいいのかな?」


「そういうことです!」


小難しく言ってはいるが、要するに、

一緒に電車に乗るのが嬉しいと。そういう事なんだな。



1時間ほどで、東京メトロ九段下の駅に着く、

地上に出れば、かの有名な大きなタマネギが。


「うわー!ホントにタマネギだーっ! 初めて君に会えるんだね!」


「いや、会えないんだけどな。」


「むぅー。そういう気持ちで向かうのっ!」


「武道館とは初対面か?」


「マラソンのゴールとしてしか見たことないんだよねー。」


「中には入れないけど、近くまでは行けるけど、どうする?」


「当然行くでしょう!」


靖国通りから左に折れて、田安門を潜り、武道館の目の前へ。


「ライブハウス武道館だぁー!」

あかねは両手を天高く広げ、叫ぶ。あのエネルギーは俺にはもうないなぁ。


「ここで、あのライブや、あのコンサートが行われたんだねぇ、

 まさに聖地だねー。」


「50年以上もの間、音楽やってる人達から、

 ずっと憧れられてきてるんだから、すごいよな。」


「どのくらいの人がここでコンサートやったのかな?」


「想像も付かないな。何千じゃないか? 皆が目指す場所なんだぜ。」


「そうだよね、すごいなぁ。感動しちゃうなぁー。」

あかねほどの感動はないけれど、

俺にとっても、ただの建物だとは言わない。

感動の発生場所ではあるから、特別だ。


「よし、武道館をバックに写真を撮ったら、次に行こう。」


「えーっもう行くのー。でも写真は撮りたい!」


SNS用、自分用と、写真を撮り、満足したのか、


「カクさん、ツーショットで撮ろう!」

応え難い注文が飛び出した。いいのだろうか、

こういうノリが普通なんだろうか。

断るのは、なんか可哀そうな気がするしなぁ。


「仕方がないか。よし、撮るか、家の人には見られるなよ。」


「任しといてよ。乙女の秘密は親だって簡単には覗けないのよ。」


ツーショット写真を撮ってご機嫌な様子のあかねは、写真を加工している。


「なぁ、野音に行く前に寄りたい所があるんだけど、付き合ってくれないか?」


「付き合うだなんて… え、なに、どこいくの?」

なにやら小声で、ごにょごにょ言っていたが、聞こえない。


「戻る事になるけど、ついでだし、靖国神社に寄りたいたいんだよ。」


「神社か、いいよ、行こうよ。どこにあるの?」


「さっきの大通りに戻った目の前だよ。」


折角なので、靖国に眠る御祭神に、

武道館が無事でいられるようお願いをしようと思った訳だ。

わずか5分で到着だ。


「割と聞く名前だけど、有名なの?」


うん、そんなもんだろうな。大人にならないと、知る機会は少ないだろうよ。


「そうだねぇ、色んな意味で有名だわな。

 凄くデリケートな問題を抱えているというか、

 押し付けられているというか、ただ、

 祀られている神様の大半には、心の拠り所だったろうね。」


「ん? どういうこと?」


「デリケートな問題の所はあとにして、

 この神社にはね、明治以降に国の為に戦ったりして、

 命を落とした人達が、神様として、祀られているんだよ。

 その数は246万柱以上。」

 

「そんなに? もしかして戦争で亡くなった人も?」


「あぁ、そうだよ、戊辰戦争以降の戦争に従軍して亡くなった人も、

 原爆で亡くなった人も。だから、一番神様の多い神社だ。」

 

「じゃあ、新選組も?」


「いや、新選組は祀られていない。彼らは旧幕府軍だったから、

 明治政府から見たら、反逆者だしな。」


「坂本龍馬や維新三傑は?」


「なんだ、あかねは歴史強いのか? 

 維新三傑なんてポロッと出てくるなんて、すごいな。」


「現役高校生に何言ってんのよ。日本史の授業だってあるんだからね。」


「いやぁ、関心したんだよ。ちなみにその四人は祀られていないはずだ。

 龍馬はお尋ね者だったし、西郷どんは西南戦争で、反逆したし、

 木戸は病死、大久保はまぁ、暗殺って殉死だから、されてるかもな。

 あ、木戸孝允の前の名前知ってるか?」


「桂小太郎だっけ?」


「ぶっ! なぜその名前が出るんだ、桂小五郎だよ。

 その間違いだけはテストでするなよ。かなり恥ずかしいからな。」


「なになに、教えてよぉ。」


「あとで検索してみろ。でだ、ヅラの話はいいとして、

 桂小五郎が若い頃、剣術を学んだ練兵館があったのが、

 この場所だったんだよ。」


「ふーん、で、心の拠り所の話は?」


「あ、その話だったな、明治天皇の意向で創立されて以来、

 国に殉じた人の魂は、靖国神社に帰ってきて、

 そこから故郷に帰るって言われているんだ。

 だから戦場で戦う男達は、戦友に言うわけさ、靖国で会おうって。

 家族に宛てた手紙に書くんだよ。靖国で待っていてくれって。

 分かるか、そう言った想いが。」


「誰だって死にたいわけじゃない。

 出征するときは、生きて帰って来るって言って旅立つ。

 でも、それが叶わない場合もある。そんな時に、帰れないとは言わない。

 故郷に残してきた愛しい人に、靖国で会いましょう。って手紙を書くんだよ。

 そう書いた人の想い、言われた人の想い、考えると涙が出る思いだ。

 そんな思いをした人達のおかげで、今、俺達は平和に生きていられるんだ。」


あかねは涙ぐんでしまっている。わかるぞ。俺も同じ気持ちだ。


「だから俺は、感謝を伝えに靖国神社に参拝することにしてるんだ。」


「なんで、そこまでしなきゃいけなかったの?」


「軍人でなかった人達まで駆り出されていく。

 それは、国のすべてを戦争に使わなきゃいけない状態。総力戦てやつだ。

 国が負けてしまっては、なにもかもが無くなってしまう。そういう時代だ。


 それまでの生活やら、文化、歴史、大事な物がすべて失われるって事だ。

 戦場に行くということは、国を守るということ。

 それは、家族を、大切な人を、その人がいる、

 故郷を守るということ。逃げ出すわけにはいかないじゃないか。」


「でも死んじゃうんだよ? もう会えないんだよ? それでもなの?」


「何があっても守りたいと思う存在があれば、誰だってそうすると思うよ。

 あかねだってきっとそうするさ。」


「なんか、悲しいね。」


「そうだな。悲しいけど、それが戦争なんだよな。」


「けどな、何かを守るために、自分を顧みないって行為は、

 日常の中にだってあるもんだぜ。

 親は子供を守る為には、自分の事なんて考えない。人間に限らずね。」


「そうかも知れないけどさぁ…」


「マンガでもよくある展開じゃないか、

 男が恋人を守ろうとして死んじゃうとかさ、

 誰かが誰かを守って死んじゃうストーリーは、一杯あるぞ。

 でも作品としては悲しくなっちゃうから、究極の切り札ってわけだ。

 だから、その手前、誰かが、誰かを想うからこそ戦うってのはもう鉄板だ。」

 

「頭から離れないよ。映画とは違うもん。実際にあったことなんでしょ? 

 なんか、重みが違う。呑気にしてちゃいけない気がするの。」


感性の鋭い子だな。本質を見てる。

そうなんだよ、上辺に囚われない感じ方をしてるんだよな。

茶化した事言ってもダメだろうな。真面目な話で、話題を変えてやらないとな。


「あかね、ちょっと座ろうか。水分補給もしながら、話そう。」


「その感じ方は素晴らしいと思うよ。

 ちゃんと本質を見てるからこその感じ方だよ。

 上辺しか見てない人だったら、素敵なドラマだとか言いそうだもんな。

 それこそ、映画みたいだとかってさ。

 でも、あかねは映画とは違うって言った。本質を見る力があるんだ。

 これは本当に凄くいい事だ。わかるかい?」


「なんとなく…」


「今、あかねがモヤモヤしているのは、

 愛ゆえに愛する人が死んでいく不条理に対して納得が出来ない。

 という事と、戦争の意味に対して回答が

 自分の中にないから、じゃないかな?」


「うん、そう。なんで、愛する人といることを選ばないのか分からない。あと、

 なんで、そんな悲劇を起こす必要があるのか、それがわからない。」


「その解答は置いておきたい所だけど、

 それがすっきりしないと先に進めそうもないな。

 それはね、価値観が違うからなんだよ。」


「価値観がちがう…」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 澄んだ空に光る玉ねぎですね。 CDは洋楽専門なので持っていませんが 有名な名曲ですよね。靖国神社の話を 真面目に女子高生に語りだすオッサンは 中々にシュールな光景ですね。 [一言] スマホ…
2020/03/02 22:11 退会済み
管理
[良い点] 世代間格差の描写で靖国や戦争問題を挿入する際の流れ自然さ。 カクさんの大人としての資質が上手く出ている。 同時にあかねのピュアさも。 [気になる点] >あかね、ちょっと座ろうか。 このセリ…
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