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あなたをおもって

「あかね。か、漢字で一文字?」


「うん。草冠に西で、あかね。」


「綺麗な名前じゃないか。俺は大好きだぞ、

 音の響きも漢字の姿も、凄く綺麗だと思うよ。」


「そ、そうかな、ありがとう……」


「よく、茜色っていうだろ? 意味知ってるよな? 

 夕焼け空の、太陽が沈む直前の色だ。

 誰が見ても絶対に美しいと思う色だよな。そう思わないか、あかね。」


「……」


「確か、日本書紀にも茜が出てくるんだよ。

 大国主の命が、自分の服を染めるのに使ったとか、

 根が赤くて、昔から染料に使われていたとか、

 赤い根だから、あかねって呼ばれるようになったって、

 赤とんぼの事を秋茜って表現もするんだよ、

 とんぼって言うより綺麗だと思わないか?」


「あかね? どうした? なんか、気に障ること言ったか?」


「ううん、そうじゃない… ていうか、逆。 

 そんなに名前、褒められると思ってなくて…」


「誇っていいと思うぞ。俺は好きだしな。響きがとにかく綺麗だと思う。

 名付けてくれたご両親に、感謝だな。」


「うん、ねぇ、カクさん、茜の花言葉、知ってる?」


「いや。さすがに花言葉までは知らないや。嫌いなのか。」


「うん、好きじゃない。だってさ、媚びる、とか誹謗、とか不信、とかだよ?

 子供の頃、調べたんだ。意味が分かんなかったから、お母さんに聞いたの。

 なんか、誤魔化して、教えてくれなかった。

 あんまりいい意味じゃないって事は分かったの。

 漢字が分かるようになってから、辞書で調べて知ったの。

 なんかすごいショックだった。

 人に媚びて、誹謗して、悪口言って、人を信じない、信じてもらえない。

 なんで、そんな花言葉の名前をつけたんだろうって。そう思ってたから。」


「そっか。それはショックだったろうな。引き摺っても仕方がないかもな。」


「あとね、まだあるの。花言葉。傷とね、『私を思って』なの。」


「花言葉ってさ、たまに凄いのあるよな、復讐ってのもあった気がするけど、

 花言葉決めた奴ってさ、どこか病んでる気がしないか?」


「決めた人のことなんて、考えたことなかったな。

 花に、媚びるとか意味を持たせるって、

 確かに変だよね。誹謗とか、花に悪口でもいわれたのかな?」


「誰か特定の人物を当て嵌めてるんだとしたら、

 辻褄は合いそうな気がするな。」


「どういうこと?」


「とある女性が、男性に媚びていると誹謗される、傷付き、人間不信になる。

 助けが欲しい。だから、誰か、私を思って。

 ない話でもなさそうだろ?」


「ホントだ、ぴったりだね。その女性を見ていた人が、茜に例えたのかな?」


「そうかも知れない。そういう人がいたよって、伝えたかったのかもな。」


「そっか、そういう人になるなって意味なのかな?」


「決めた人の意図はこの際、どうでもいいんじゃないかな。解釈の問題だよ。」


「そうだね、媚びるな、誹謗するな、人を信じろ。

 そういう意味だと勝手に解釈すればいいか!」


「それでいいと思う。傷は、… なかったことにしよう!」


「適当だぁ、そんなんでいいの?」


「解釈の問題です。あくまで個人の感想です。」


「なんのコマーシャルよ、それ!」


「あなたを思ってのことです。」


「!…  やられた、ちょっと感動しちゃった!」


「表情が戻ってきてよかった、沈んでる17歳の扱いなんて知らないからな。」


「取説いる?」


「いらんわ! 俺は要求ばっかりの奴は性別関係なく嫌いなんでな。」


「女子としては共感するんだけどなぁ~。」


「それを否定するつもりはないぞ。考えは人それぞれ違って当り前だしな。

 それこそ、あくまで個人の感想です。

 ただ、恋愛もそうだけど、人間関係はさ、win-winなのが一番だと思うんだ。

 返品できません。て、じゃあ、あんたが返品したくなったら、どうすんの?

 我慢すんのかって、話だよ。

 一方通行で人間関係は成り立たないと、おじさんは思うわけよ。」


「なんで、そこで急におじさんが出てくるかな? 

 ていうか、カクさん、おじさんて言うのやめたら?」


「実際、おじさんなんだが?」


「じゃあ、私が自分でお嬢さんて言ったらどうする?」


「うん、それは変だ。日本語としておかしい。止めることをお勧めする。」


「なら、私もおじさんて言うの、止めることをお勧めする。」


「これは一本取られた。正論だ。こんな小娘に論破されるとは… くっ」


「小娘呼ばわりはムカツクけど、おじさん発言は禁止ね。

 あ、オッサンも無しだから!」


「じゃあ、ちゅう…」


「却下! 中年も、親父も、パパもお父さんも全部却下! 

 カクさんはカクさんなのっ! 分かった?」


「ハイ、ワカリマシタ。」


「なにそれ。まったく、人の気も知らないでっ。」


「おや、あかねさんや、何か仰いましたかの?」


「ウルサイ! 怒るよっ!」


「まぁ、甘い物でも食べて、気を落ち着けてくれよ。パフェとかどうだ?」


「子供扱いされてる気がする…」


「いやいや、甘い物を食べることで、女性の精神が安定するってのは、

 学術的に証明されているんだぞ。だから、

 これは、あかねを一人のレディとして扱うということでもあるわけだ。」


「いい様に言い包められたような気がする。

 だから、チョコパフェとタピオカミルクティ頼んでやる!」


「おう、頼め頼め、甘い物食べて機嫌が良くなったら、

 小説のストーリーの話をさせてくれ。」


「あ、いっけない! すっかり忘れてたわ。

 そうだよね、その為に会ったんだった。」


「まぁ、軽く聞いててくれ、さっきは恋愛系の話がいいって、言ってたよな?

 当然ながら、恋愛はひとりじゃ出来ない。

 相手が必要なんだが、その相手はどうするんだ?」


人間て、動画の一時停止のようにピタリと止まれるもんなんだな。


「まず、その開いたままの口を閉じような。で、スプーンを下ろそう。」

真っ赤な顔で睨まれた。でもトゲはないんだよなぁ。


「相手のモデル候補はいるってことなのかな?」


「もにょもにょもにょ……………」


照れた顔で、なにやら、もにょもにょ言ってるな。可愛いもんだ。


「そりゃ、好きな人はいるかって聞くのと同じ様な質問だから、

 すぐ答えられないのはわかるぞ。」


「もにょもにょもにょ……………」


まだ、もにょもにょ言ってるな。会話にならん。


「その人物と、元々どういう関わりで、どんな切っ掛けで気になり始めるのか、

 これ結構大事な要素なんだぞ。

 そこに共感できるかが、読み手にとって重要だろう?」


「話すのが恥ずかしいってのは、分かるつもりだから、無理には聞かないよ。

 俺が推測して、勝手に書くってのもできるけどな。どうする?」


口は閉じたし、スプーンも置いたが、相変わらずパフェを見つめたままだ。

返事を待った方がいいんだろうが、

ここでの沈黙は、却って言い出し難い空気を作ってしまうか。


「全然関係ない話なんだけどさ、席替えって、今もあるよな?」

やっと反応したな。


「中学のクラスでさ、席を決める時に、

 男女別に、好きな席を選ぶって決め方だったんだよ。

 男子は全員教室の外に出て、女子が自分の席を自由に決めるの、で、次は逆。

 あ、男女が隣同士で、並んで、机くっつけて、それが一つの列なの。

 最初の席替えで、隣になった女の子がさ、

 次の席替えもまた隣になろうっていってくれてさ、

 結局、1年間、同じ場所でずっと隣同士で座ってたんだよ。

 席替えの度に、じゃあ同じ場所ねって。

 他のみんなは、お前が隣かよー。とかやってるなか、俺達は、静かなもんさ。

 だって、隣分かってるんだもの。またよろしく。それだけ。

 3回目くらいからはさ、あそこはあいつらの席。みたいになっててね。

 でもね、付き合ってたわけじゃないんだよ。恋愛ではなかったな。

 好きだのって、話題にならなかった。俺はガキだったし、

 彼女は他の奴が好きだって言ってたし。」


「彼女はなんで、あんなことを言い出したのか、

 未だによくわからないんだ。どう思う?」


「私にはわかるよ、その人がそうした理由。 聞きたい?」


「そんなに即答されるとは思わなかった。正直悩む。

 知りたいような、知りたくないような…」


「じゃあ、聞かないでよ。」


「ごめんなさい。あかねさん、どうか教えて下さい。」


「素直でよろしい。では、教えてあげましょう。

 それはね、カクさんの隣が、居心地よかったんだよ。」


「あー、それ別の人に言われたことあるわ。 

 中学の頃から、そうだったのか! 新たな自分発見。」


「新たなって、どんだけ昔のことよ。新たな遺跡発見てとこじゃない。」


「お、うまいこと言うなぁ、座布団をあげよう。」


「それはどうも。で、その人とその後はどうなったの?」


「学年上がってクラスが別になってからは、ほとんど接点なし。そのまま卒業。

 高校は別々、高校入ってから、数回会っただけ。」


「大人になって会ってたら、奥さんになってたかもしれないよ?」


「さて、どうだろうね。

 なぁ、その居心地の良さって、好きって感情に繋がると思うか?」


「私は繋がると思うよ。安心できる相手じゃなきゃ、

 まず近付かないからね。好意も生まれないよ。」


「安心は大事だよな。ハラハラドキドキしっ放しじゃ、疲れちまう。

 安らぎがないとな。」


「そうか、カクさんは安心とか、安らぎを与えられる人なんだねっ、 

 やっとわかった!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 話がとても初々しいです。 甘酸っぱさに溢れています。 正直溶けてしまいそうです! 二人とも可愛いすぎです! [一言] ああ浄化されてしまうぅ。
2020/02/29 18:00 退会済み
管理
[良い点] ふたりの掛け合いを見ているのは楽しい。 席替えのくだりは実に良い感じ。 [気になる点] 同一人物のセリフが続く際はつなぐ文章が欲しい。 [一言] トリセツでしたっけ? 女尊男卑なJ-PO…
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