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悪者

心が重い。正直今日が来なければという思いもあった。

あかねと出会って6週目になる日曜日か、会うのは5回目。

そんな事を数えている時点で、女々しいというものだ。

漢字で書けば男らしくないということだ。

女性の方が感情を大切にするからの表現か。

それを踏み躙るような事をするのかと考えれば、

軽い気分にはなりようがないな。

すべてがあかねの為と思って、意識を切り替えよう。


待ち合わせた公園のモニュメント前には、すでにあかねが待っていた。

俺の姿を見つけ、手を振っているあかねは、満面の笑みだ。

あぁ、愛おしいなぁ。


「おはよう、カクさん!」

いつもの元気な挨拶だ。


「あぁ、おはよう、あかね。先週は済まなかったな。

 どうしても外せなくてな。」


「お仕事じゃしょうがないよ。文句はいいませんよ」


本来なら先週空いていたのに、

仕事だと嘘をついたのは俺の我儘だ。ごめんな。


「先週の日曜はどうしてたんだ? 聞ける立場じゃないけどさ」


「こないだ話したミサとゆかと、あともう一人新しい友達と出かけてきたよ。

 でね、カクさんから聞いた話をちょこっと、ミサにしてあげたんだ」


「ほう、その話ぜひ聞きたいね」


「ふふっ、そういうと思った。

 あのね、4人でただ、お喋りしようって集まったの。

 4人目の子、さくやっていうんだけどね、

 その子ともっと仲良くなるために」


「ほう、木花咲耶姫(このはなさくやひめ)か、さぞや美人なんだろうな」


「えぇーっ、まだ名前しかいってないのに! 

 そうなの、美人なんだよ、大人しくって、引っ込み思案の箱入り娘でね

 黒髪のサラサラロングに黒縁メガネ。

 女子力抜群でね、お料理、お菓子、お裁縫、

 花まで育てちゃう文学少女なのよ。すごくない?」


「それはすごいな。

 きっと大事に育てられてきたんだろうってのが、わかるな」


「でしょう? でね、4人で話してる時に、

 ミサに期待し過ぎだったんじゃないのって、言ったの。

 漫画の主人公みたいな男の子は、そういるもんじゃないよって」


「ふむふむ。それで?」


「そしたらね、ミサもそう思っていたみたいで、

 勿体無い事したかもっていうからね、

 彼はきっとこんな状態だったんじゃないのって、

 カクさん張りに説明してあげたの!」


「どんな反応だった?」


「びっくりして、目まん丸にしてた。こんな! 

 まったく想像してなかったみたい」

 再現をしようと、あかねは自身の大きな目を更に見開いてみせる。

 いちいち愛らしい。


「それで、ちょっと後悔したみたいだったから、

 一回会いに行ってきたらって勧めたの」


 これはきっと、本人が連絡できなくて、焦れて、

 あかねたちが彼を呼びに行くパターンだな。


「で、どうなった。」


「お互いのことを知るための期間って言って、放課後毎日会ってるよ」


「ほう。あかねナイスアシストだな。二人とも喜んでるだろう」


「へへっ、言った事は全部カクさんの真似なんだけどね。

 うまくいってほしいなぁ」


「ま、成る様になるだろ。毎日会って話してたら、

 自然と仲良くなっていくもんだろうし」


「そう、それでね、期待と緊張で相手の事が見れてないと、

 冷静に最後まで話を聞けなくなって、途中まで聞いて、

 その先を勝手に推測して、決め付けちゃうって言ってたでしょ?

 それを聞かせてあげたの。

 そしたらね、ミサじゃなくて、さくやがそこに喰い付いてきてね、

 さくや自身が人見知りで、

 うまく話せないのがコンプレックスだったみたいで、

 自分も決め付けられてきたみたいなのね。

 その話をもっと詳しく聞かせてって言われてね、

 私も教えてもらったんだって、言って…、誰にって、話しになってね…」


「おい、あかね? すごく不安なんだが、大丈夫なんだよな?」


「名前とか、歳のこととかは話してないよ! 

 ただ、年上の男の人だとしか言ってないよ…」


「それなら、精々、20代半ばくらいの印象だろうが… 

 いや、だめだ。それでも誤解する奴や、曲解する奴や、

 勝手に妄想してありもしない事を言い出す奴が出てくる。

 いいか、あかね。大事な話だ。これから俺が言う事をその子達に話して、

 必ず理解してもらえ。

 その手の話し、つまり、高校生の女の子が、社会人の男と会っている。

 という話を聞いた、親や学校関係者は、必ず、100%全員が、

 売春、買春、騙されているんじゃないかって考える。

 これはあかね個人の性格やなんかは関係ない。

 心配して警戒して、防止するのが彼らの義務だからだ。

 そして、聞いてしまったら、確認しないわけにはいかないんだ。

 大人の責任としてな。ここまではわかるよな?」


「うん…わかる。わかるけど、私もカクさんも悪いことしてないよ!?」


「そう。誰にも疚しい事はない。けどな、

 彼らにあかねの理論は通用しないんだよ。絶対な」


「本当の事なのに?」


「そうだ。なぜなら、彼らはあかねの周囲から、

 俺を完全に排除しないと安心できないから」


「排除って、悪者みたいじゃないっ、そんなのヒドいよ」


「彼らから見たら純真な娘を騙して、

 欲望の捌け口にする悪者の可能性があるだけで、もう敵なんだよ。

 俺個人がどういう人間かは関係ない。男である時点で、敵なんだよ」


「もし聞かれたらそんなことないって、言えるよ。間違いなく!」


「あぁ、それは逆効果にしかならないぞ。

 俺がどう思われるかは、俺が理解してるからいい。

 あかねの事だ。必ず事情を聞かれる事になる。

 そうすると、その後もずっと聞かれるようになる。

 もう、変な男と付き合ったりしてない?ってな。

 彼らは心配だから聞くんだぞ?

 騙されてるかもしれないって思われたら、ずっと心配されるんだ。

 で、彼らの中での認識は、あの子は騙されていた可能性があるって。

 悪意が少しでも混じったら、

 売春していたかもって、言われる可能性だってあるんだ。

 もしそうなったら、その情報は消えない。

 評点だって下がる。進路に影響してくる。

 事実がどうであってもだ。理解できるか?」


「大人の事情や責任のことはわかる… でも納得はできない…」


「あかねが納得いかないのは、俺にもわかるよ。

 けどな、世の中は大人の理屈で動いているんだ。

 理屈は感情を考慮なんてしてくれないんだ。

 それにな、あかねの友達だって同じ扱いをされるかもしれないんだ。

 だから、俺の事を周りに話すことは、しない方がいい。

 というか話ちゃだめだ。いいか?」


「みんなにはちゃんと話すよ。巻き込んだら悪いもんね…」


「でもさっ、なんでカクさんは自分を悪者みたいにいうのっ!? 

 すっごくイヤなんだけど」


「あかねを守りたいと思ってる人達からしたら、悪者だからさ」


「カクさんだって、私の事大事にしてくれてるじゃん。

 いっつも気を使ってくれてるの知ってるよ。

 今の話しだってそうでしょ! 

 会う時間とか、場所とか、私が悪い噂とかされないように気にしてさ、

 CDだって、わざと安いの買ってきたんでしょう? 

 私が買ってても不思議じゃないように。

 警戒心の話しだってそう。タバコだって吸わないし、

 ヘルメットだってわざわざ、新しいの買ってくれたんだよね。

 初めて会った時からそうだった。早く帰れってさ。

 文句言いながらタクシー代出してくれたじゃない

 全部私の事を大事に思ってくれてたからでしょう? 知ってるんだから!」


「カクさんが私の事を大事に思ってくれる事は、そんなに悪いことなの!? 

 そんなの絶対納得できないっ!」


「私がカクさんに会いたいって思うのは、そんなに悪いことなの?

 私がカクさんのこと好きなのは、そんなに悪いことなの?」


「人を好きになるのが、そんなに悪いことなの? 

 歳が離れてることがそんなに悪いことなの?

 私が17歳だからいけないの? 17歳だって人を好きになるよ!

 私だって女だもん、男の人を好きになるよ! 

 好きになっちゃったんだもん。どうしようもないんだもん。

 どうしようもなく、カクさんが好きなんだもん!」


 決壊させちまったな。泣きながら訴えるあかねの想いは、

 俺の堤防も壊しそうだよ。

 堪えろ。流されるな。今が我慢のしどころだ。

 絶対受け止めちゃいけない。あかねのためだ。


「今日な、会うの最後にしようって話をするつもりだったんだ。

 ちょうどよかったかもしれないな。

 あのな、あかね、どう考えたって不自然なんだよ。

 親子ほど歳が離れてる男女なんて。

 実際、あかねの親より年上だし、俺の娘はあかねと同い年だ。

 こんなオッサンはやめとけって。きっと後悔するから」


「後悔なんてしないよ! それより最後ってどういうこと?」


「さっきの話しがすべてだよ。

 俺なんかといると、将来を棒に振ることになるってことだよ」


「そんなのどうだっていいよ。気にしなければいい事じゃん」


「そうはいかないんだよ。

 大学へ進学するのに不利になるし、内申書に変な事書かれたら、

 それが大学に送られるんだ。就職にだって影響する。

 あかねは辛い思いするし、両親だって辛いだろうよ。

 俺のせいでそんな思いさせられない」

 

「それは可能性の話じゃん! 決まったわけじゃないよ!」


「高確率の可能性だ。

 女子高生がそこまで完璧な秘密厳守なんて、できっこない」


「内申だの進学だのは、どうにでもなるよ。就職だっておんなじだよ。

 大体、最初から悪い事なんてなんにもないじゃん! 

 私がカクさんを好きになっただけじゃん!」


「それを世間は受け入れちゃくれないのさ。

 あの子は騙されてるっていうんだ。

 あかねがどんなに違うと叫んでも、

 ますます信じてくれなくなるんだよ。

 可哀そうに、洗脳でもされたのかって言われんだ。

 あかねの想いが本物だろうが、

 大人はそうは見ない。若気の至りだってな」


「世間なんて関係ないじゃん! 

 私の気持ちは私の物だよ。信じてもらえなくたっていいよ」


「あのな、わざわざ、そんな茨の道を選ぶ必要なんか、ないんだぞ。

 歳の近い奴を選びさえすれば、それでいいんだよ」


「そんなのいらないよ! カクさんさえいてくれれば、それでいいの!」


「俺の何処をそんなに気に入ってくれてるのかは、わからないが、

 決めるの早過ぎだろ。今まで何回会った?

 どれだけお互いを知ってる? それで人生決めるのか?」


「時間なんて関係ないよ。気持ちの問題だよ。

 これから知っていけばいいじゃん!

 カクさん言ってたじゃん、

 なるべくたくさんの私を知りたいって、理解したいって!」


「それは小説の話だ。 人生のパートナーを決めようって話じゃない。

 大体、比較対象すらなしで選んでいいもんじゃないだろうに。

 俺なんかよりいい男なんて、いくらでもいるじゃないか」


「物を選んでるわけじゃないでしょ、人を選んでるんでしょ、

 比較なんてするもんじゃないでしょ!」


「それにしたって、選択肢が少な過ぎだ。

 もう少し判断材料を増やしてから決めるべきだろう?

 一生の事をそんなに簡単に決めるべきじゃない。」


「じゃあ、カクさん待っててくれる? 私が判断材料を増やしてくるまで。

 いなくなっちゃうかもしれないじゃない! 

 他の人を選んじゃうかもしれないじゃない!

 そんなのイヤだよ…そんなのって… 」


「私は、カクさんがいいのっ カクさんじゃなきゃヤなのっ! 

 他の人なんていらないよ…」


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