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恋愛相談

芦ノ湖を出発し、小田原へ、そこから湘南の海を右手に見ながら鎌倉を目指す。

途中、江ノ島を過ぎ、江ノ島電鉄の鎌倉高校前の駅と、

かの有名な踏切を通り過ぎ、国道134号線から、鎌倉八幡宮の参道を通り、

大仏の頭を見ながら、朝比奈の山を越え、横浜横須賀道路で、東名へ向かう。


海の見えるエリアでは元気だったあかねも、

高速道路に入り、似たような景色を見ているうちに、

寝てしまったらしく、インカムでの会話も、しばらく途絶えてしまった。

しっかり掴まっていてくれたのは幸いだったな。


あかねが目を覚ましたのは、海老名のSAに入る寸前だった。


「あれ、寝ちゃった。ごめんね、カクさん。大丈夫だった?」


「おう、起きたか。もうすぐ休憩しようと思ってたから、

 ちょうどいいタイミングだったな。」


SAで、バイクを降りたあかねは恥ずかしそうに謝ってくる。


「まさか、バイクの上で寝ちゃうとは思わなかったよ。ごめんねカクさん。」


「気にすんなって。朝早かったからな。」

カッコつけてはみるものの、女の子に背中で寝られるのは、悪い気はしない。


「気が付いたら、寝てたもんね。

 びっくりしちゃったよ。運転しづらくなかった?」


「いや、大丈夫だったぞ。しっかり掴まっててくれたからな。」

また、あかね自身が茜色に染まってしまっている。ちょっと意地悪だったかも。

なにせ、しっかり掴まっていたという事は、

しっかり抱き着いていたってことだから。

そんなこと言う方が悪い。


コーヒーとタバコで、一息入れようと、喫煙室に入ると、あかねが着いて来た。


「匂いがつくから、外で待ってた方がよくないか? 

 あと一時間程度で、帰るんだぞ。」


「いいの。大丈夫だから、気にしないで。」

無理に追い出すのも可哀そうだし、一本吸ったら出るか。


「あのね、カクさん… 私、寝てる間に寝言とか言ってないよね?」


「何も言ってなかったぞ。呼んでも返事がなかったくらいだからな。」


「こんな長距離は行かないことにしよ。また寝ちゃったら危ないし。」


「そうだなぁ、万が一って事もあるからな。

 そうなったら、あかねのご両親に申し訳ないからな。」


「じゃあ、次は近場で、待ち合わせしよう。バイクで出かけないでさ。」


「そうするか。隣駅の大学のキャンパスにでもいくか。

 あそこなら高校生がいても不思議はないしな。」


「オッケー。図書館とか入れるんだよね。行ってみたい。」


「さて、帰ろうか。」



朝、待ち合わせた駐輪場で、あかねを降ろすまでは、気を抜かずに行かんとな。

東名を走ってる間は、さほど心配はないが、

この時間の街中はサンデードライバーが多いからなぁ。


「あかね、疲れてるかもしれないが、あと一時間だ、頑張ってくれ。」


「それはこっちのセリフだよ。

 カクさんこそ疲れてるでしょう。無理しないでね。」


インカムから聞こえる声が心配してくれる。

嬉しいもんだ。おっと、浮かれちゃいけないな。


「知ってる景色が見えてきた。帰ってきたんだねー。」


「おう、あと少しだ。」


コツ、コツとあかねのヘルメットが、俺のヘルメットに当たる。5回だ。

これはどう考えても、アレだ。

このシチュエーション。この歳の子なら、憧れてやってみたくなるのは分かる。

だけれども、素直に受け入れていいもんじゃない。

問い質すとしたら、その意思を確認する事になる。

真面目に聞くのも、茶化すのも、同じ結果になる。

どうする? 気付かなかったフリ?


「どうした? トイレか?」

ごめんな、その合図には何も言うわけにはいかないんだよ。


「う、ううん。ちょっと首が痒くなって。ぶつかっちゃったね。」


「そうか、今日は念入りに洗ってくれな。

 一日バイク乗ってると結構汚れるんだ。」


「私が汚いって言ってますけど。乙女にそんな事言いますか!」


「あぁ、失礼。あかねがという意味じゃなくてな。そう叩くな。」

なんとか話題は回避できたが、

意識するなってのは無理だよなぁ。どうするか…


「さあ、到着だ。あかね、お疲れ様。」

ようやく帰ってきたな。最後の最後で変に緊張しちまったじゃないか。

ヘルメットを脱がしてやらないとな。くそっ、余計な事を考えるな。


「上着のポケットに忘れ物ないか確認してくれな。」

上着のポケットをぱたぱたと叩いている。

あれは俺もよくやる。何か入っていれば分かるし。


「大丈夫。忘れ物なし。はい、ありがとね。」


「送っていけないけど、気を付けてな。ウチに帰るまでが遠足だからな。」


「うわっ、小学生じゃないんだからね。まったく。」


「高校生だからさ。変な男に狙われないように気をつけろって事だよ。」


「警戒心だね。はい。気を付けます。」


「うん。じゃあな。」


「カクさんも気を付けて、今日はありがとう。」



少し冷静にならないといけないな…

どこかで一服してから帰ろう。人のいる場所がいい。

人目を気にする方が冷静になれそうだ。

缶コーヒーでも買って、一服だ。


なぁ、おい、俺よ、今日は楽しかったか?

ああ、  楽しかったな。あの子と話してるのは、本当に楽しいぞ。

そうだな、あの子のセンスは最高だもんな。

ああ、  一つ教えると、その先へすぐに辿り着く。教えるのが楽しいな。

そうだな、将来有望だよな。

ああ、  あの子は絶対いい女になる。間違いないな。

そうだな、みんなが憧れるような、そんな女になるな。

ああ、  あの笑顔にはみんなが惚れるだろうな。あれは可愛い。

そうだな、すでに惚れてる奴がいるだろうな。

ああ、  俺自身がそうだろう。惹かれてるじゃないか。


なぁ、俺よ、それは認めるが、それでいいと思うか?

ああ、 お互い惹かれあってるじゃないか。

そうか、やっぱりあの合図はそういう事か

ああ、 分かってるじゃないか、名曲だもんな。

そうか、あかねはあの曲を知ってるからやったんだな、意味も。

ああ、 知らなきゃやらんだろう。勇気がいったろうな。

そうか、やっぱり愛を告げる合図だもんなぁ。


なぁ、俺よ、俺の気持ちはいいとして、応えるわけにはいかないよな?

ああ、相手は17歳だぞ。佐織と、娘と同い年だぞ。お前何歳だよ。

でも、お互い好きなら…先のことだってあり得る。

ああ、あの子の両親が許すわけないけどな。世間もな。

でも、世の中にはそういうカップルだっているはずだろう。

ああ、そんな有名人の話題を聞いて、態々勿体ない事をするって思ってたよな。

でも、本人が望んだのなら…

ああ、可能性の浪費だな。あの子の一番輝く時間を俺の為に使わせるのか

でも、ずっと一緒に生きていくのなら、無駄じゃないんじゃ…

ああ、一緒にいる姿は親子にしか見られないだろうな。可哀そうだと思わんか

でも、本人が望んだのなら…

ああ、その結果、愛する男の妻には見られないんだぞ。どんなに頑張ってもな。

でも、本人が望んだのなら…

ああ、そう望んでほしい訳だ。望んで茨の道を進んでほしいと。酷い奴だな。


なぁ、俺よ、あの子のために、どうしてあげたらいい?

ああ、あと少し、教えてやれることがあるだろう。教えてやれよ。

なら、また会うことになる。

ああ、我慢しろよ。男だろ? 大人だろ? あの子のためだ。大事なんだろ?

なら、俺が我慢さえしていればいいんじゃないか?

ああ、あの子の気持ちが今より強くならなければ、大丈夫だろうな。

なら、そういう方向に話がいかないようにすれば…

ああ、無理だと思うぞ。あの子の為、あの子はその想いを感じ取るぞ。

なら、もう会わない方がいいのか?

ああ、会わない方が安全だ。誰かに見られて、変な噂になる前にな。

なら、次が最後ってことか?

ああ、将来を思うなら、影響だけ残して消えるべきだな。分かってたろ?

なら、説得しなきゃいけないな。

ああ、まぁ、無理だけどな。あの子の気持ちが溢れてくるだけだ。

   俺が決壊させるんだから。


なぁ、俺よ、そうなったとして、耐えられるかな。

ああ、あの時ほどは辛くないだろ。裏切られたわけじゃないからな。

けど、あの子の気持ちはどうなる?

ああ、辛いだろうな。失恋だ。嫌いになってじゃない。

   好きなままの別れだ。辛いのは知ってるだろ。

けど、まだ付き合ってもいない。

ああ、そんな理屈は関係ないな。好きになるのに理屈は必要ない。

   今までの会話で十分だ。そうだろ?

けど、このまま一緒にいるわけには行かない。あの子のためには

ああ、記憶の中だけにいればいいんだよ。

けど、記憶は美化されていくじゃないか。

ああ、全部ぶちまけてやれよ。誰かを愛するのが怖いんだって。

   もう傷付きたくないんだって。

けど、それで嫌いになるような子じゃない。

ああ、そうだ、いい子だ。最高だ。だからこそ、

   今、辛い思いをさせても消えてやるのが愛情だろう。


なぁ、俺よ、その愛情、伝わるかな、いつか分かってもらえるかな。

ああ、伝わるさ、あの子が立ち直りさえすれば、すぐに気付くさ。

ああ、あの子は人の本質を見るからな。

ああ、だから、すぐに気付かないようにしてやる必要があるぞ。

ああ、追い掛けてきちゃうかもしれないもんな。

ああ、気付くような言動はするなよ。未練も見せちゃ駄目だ。

ああ、諦めさせてあげる必要があるってことだな。

ああ、その場では毅然とした態度でいろ。不退転の覚悟を見せろ。

   覆ることのない終幕を演出しろ。

ああ、泣かすことになりそうだ。

ああ、止むを得ないな。泣いたからって、優しくするなよ。

   抱き締めたりするなよ。

ああ、わかってるよ。わかってる。


ああ、抱き締めたいなぁ、思い切り。

ああ、抱き締めて、キスをしたいなぁ。

ああ、あの笑顔をずっと見ていたいなぁ

ああ、朝、起きて、隣にあの笑顔があったらいいなぁ。

ああ、もっといろいろ話したいなぁ。

ああ、もっとあの声が聴きたいなぁ。

ああ、もっともっと知りたいなぁ。

ああ、もっともっと見ていたいなぁ。


ああ、もっともっと見ていたかったなぁ。




ああ、すごくすごく、愛おしいなぁ。


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