10代の恋愛
「はははっ、かわいいぞ。ずっと撫でていたいな。ダメか?」
「!! もうだめ! おしまい!」
俺の手はあかねの頭から、追い出されてしまった。
「それは残念だ。それでだ、話の続きな、
その彼は勇気を出して、好きな子に告白したわけだ。
ドキドキしたろうなぁ。で、付き合ってもらえる事になった。
さて、次は初デートとなる。また、緊張したろうなぁ、
カッコ悪いとか、ダサいとか思われたくないからな。
なにせ、相手は好きな子だ。しかもその子は恋愛に憧れてる。
そんな子が初デートだ。そうとう可愛らしくして待ち合わせに来るだろう。
普段制服しか見てないのに、そんな姿を見たら、ドッキドキだな。
ヤバイ、なにか喋らなきゃ。 言葉なんて出るわけない。
またテンパっていく。もう自分じゃどうにもならんさ。」
「ホント見てきたみたいに話すね。カクさんスゴイよ。」
「恋愛を漫画で学習して、知ってるつもりのミサが、そんな彼を見て思うのは、
こんなんじゃない。私の好きなあのシーンではこうだった。
こんなセリフが来るべき。こうするべき。という期待。
こうなったら、思い描いた理想のシーンを期待する気持ちが優先だ。
で、目の前にはテンパって喋れない、理想のシーンには似合わなさそうな男。
抱いてた憧れは台無し。そりゃ、つまらない。文句も出るだろうよ。」
「うーん。うまく行く要素が見当たらないね。どうしたらよかったのかな?」
「あかねは、どうしたら良かったと思う?」
「また来た、チェックされてる。んー。彼はどうにも出来ないような気がする。
好きな人との初デート、初私服、緊張しないっていうのはムリだよね。
想像したら、私まで緊張してきちゃうもん。」
「そうかもな。じゃあミサの方は?」
「変な期待し過ぎかな? 誰とデートしてるのって感じ?
ということは、相手を見ていない。
理想を押し付けるんじゃなくて、相手をちゃんと見るってこと?」
「そんなとこだな。ふたりとも自分の事でいっぱいいっぱいになってるんだな。
楽しむ余裕が無い。余裕が無いから、相手を思いやることができない。
ふたりで過ごしていても、お互いひとりでいたって事だな。」
「じゃあ、ふたりとも自分に不満を貯めてきたって事かな。」
「彼の方は、無理し過ぎが原因だ。
そんな無理しても自爆するんじゃ逆効果だよな。
自分を知らなかったというか、
ちょっと考えれば緊張するの分かるんだから、
緊張しないデートプランを考えるか、
もっと話せるようになってから付き合うべきだった。」
「そっか、いきなりデートするから緊張するんだ。
学校とかでもっと話せばよかったんだ。」
「そうさ。いきなり付き合わなきゃいけないわけじゃない。
最初に、君と仲良くなりたいんだって言えばよかったんだな。
知らない人から一気に恋人になるのは無理だ。」
「告白=お付き合いって、思い込んでたんだ。私も初めて知ったけどね。
そっか、好きになったから、仲良くなりたいって、当然だもんね。
そういうのもアリなんだもんね。」
「告白された側にしてみれば、よく知らないまま付き合うって事になった所で、
まだ好きではない。結局一方通行。これは恋人とは言えんよなぁ。」
「ミサがいっぱいいっぱいだったっていうのは?」
「えーとな、ミサの頭の中は、
折角のデートだから、最高にロマンチックなものにしなきゃって。
当日起こってほしいイベントの候補でいっぱいだったんだろう。
起きるべきイベントというべきか。
いろんな、漫画の初デートシーンを思い浮かべて、
こう言われたら、こう返す。これをされたらこうしよう。
いきなりあんな展開になったら?ってな。」
「あぁ、やりそう、あの子。夢に見たデートだもんね。期待が膨らみすぎ。」
「期待するが故に、頭の中に正解があって、
そこから外れたくない。でも現実はそうじゃない。
なんとかしないと、折角のデートが…
彼にこうさせたい。こうしてもらうにはって、
ますます、現実を理想に近付けようとする。うまくいかない。焦る。で、
最後は『もぉ、ヤだぁぁ…』 になっちゃう。」
「『もぉ、ヤだぁぁ…』って、カクさん… おっかしい。ぷぷっ。
ミサもいっぱいいっぱいだったのは、よぉーく分かった。
ふたりとも自分と戦ってたんだね。」
「言い得て妙だな。ま、その通りだな。
デートって言葉に縛られすぎてしまったわけだ。」
「2回目以降は、今度こそって、余計に力が入っちゃって、
ますます理想を追い掛けちゃうんだね。」
「正解。ふたりはデートに拘らず、
お互いを知ることを優先するべきだったな。」
「カクさんらしい意見だね。ん?
もしかして、さっきの話しに繋がってる?」
「あかねは本当にすごいなぁ。うん、繋がってる。
よくわかったな。俺は嬉しいぞぉ。」
今度は両手で撫でてやろう。
「!! ………… 」
また、真っ赤になってしまった。照れてる、照れてる。
お、さっきよりは耐えてるな。
「もぉぉぉ、撫で過ぎっ! 恥ずかしいって言ってるでしょぉぉ!」
「お、怒られてしまった。ついついな。まぁ。許せ。
ほら、紅茶飲んで、落ち着いてくれ。」
「まったくぅ、話忘れちゃったじゃん!
何がどう繋がってるのか、分かんなくなっちゃったよ。」
「じゃあ、説明しよう。あかねがミサの立場だとしたら、
少なくとも会話は楽しめてただろうな。
あかねは相手が緊張してる事がわかるだろうから、
それを解そうとするだろうな。
何かを言おうとしているのがわかったら、待ってあげただろう。」
「うん、たぶん合ってる。そうしそう。」
「期待と緊張で相手を見てないとだな、
話を冷静に最後まで聞けなくなったりするんだよ。
途中まで聞いて、その先を勝手に推測して、決め付けてしまう。
で、大概、そういう時の決め付けは、
まず良い方向には向かわない。誤解してしまう。
更に、相手の気持ちや考えを確認しないで、
きっとこうだって、決め付けちゃう。
恋愛どころか人間関係が成り立たない。
作り上げるどころか、穴掘ってるようなもんだ。」
「でも、あかねは最初から、成り立たせる事ができる。無意識に。
相手を見れるから。相手の事を知ろうと思うから。
相手が自分の事を知ろうとしてくれるって思えたら?」
「うん、嬉しいね。好意的になる。」
「だろ? 逆に自分の事を知ろうとしない相手には、興味が薄れるよな。」
「この人には自分はどうでもいいのかぁってなる。
そっか、嫌われてるのかもって、
そういう所から出てくるのか! なんかわかった気がする。」
「それを大事にして欲しいのさ。
そういうの分かるって大事だって言ったのわかるだろ?」
「分かるよ。すごくいい例を貰った気がする。
二人は勉強が足りなかったし、しようとしなかった。
教科書見ないで、ぶっつけ本番のテスト受けたんだね。
いい点取れるわけないじゃんね。」
「そうだな、勉強する科目を間違えてたんだな。」
「確かに! 科目が違うね。だから次の恋愛も失敗するって言ったのね!?」
「本人が気付かなければね。あかねが教えてあげればいいんじゃない?」
「えぇー、どうやって教えれば良いのか、わかんないよ。」
「最初から教えるって姿勢で行く必要はないのさ。
話を聞きながら、気が付きそうなポイントで、
気が付きそうな点を指摘するとか、質問で気付かせるか、
こんな話を聞いたって誘導するとか。
例えば、デート中どんな事考えていたかとか、
誰かのセリフを真似たかとか。
いかに相手は三次元に実在する人物かを認識させるかって事だ、
ある程度うまくいったら、核心を突いてあげるのもありだと思う。」
「気付かせてあげればいいのか。できるかも。」
「折角、恋愛大好きな子が恋愛を楽しめないのは、勿体無いだろ?
いい恋愛して欲しいじゃないか。」
「カクさんてば、何の先生なのよ。恋愛マスター?」
「そんなことあるか。
俺は人同士楽しく付き合えたらいいなって思ってるだけだよ。
それには若いうちに中身のある人付き合いをしとく方が、
後々いいと思うのですよ。」
「やっぱり大人になってから知るより、
10代で知ってた方がいいのかな?」
「若いうちに土台が出来てた方が、その上に作るものは早くできると思う。
可能性は上がるんじゃないかな。
仕事も恋愛も、できることが多い方がきっと楽しい。」
「カクさんはさ、今みたいな考え方っていうか、引き出しっていうか、
幾つくらいから持ってたの?
どんな素敵な経験をしてきた? 楽しかった? 今は楽しい?」
「不安にさせたか? 俺の高校生の頃なんて酷いもんだぜ。
今、記憶に残ってる事なんて
友達との悪ふざけと、バイトしてた事と、バイクの事くらいだ。
なぁーんにも考えて無かったと思うよ。恋愛さえなかったしな。
残ってんのは、数人の友達だけだ。
それに比べたら、あかねの方が遥かに豊かな高校生活してるよ。」
「じゃあ、その後は? 大学生の頃は?」
「まぁ、楽しかった事と、本を読んでた事は覚えてるな。
恋愛もあったけど、今ほど物を知ってたかと言われればNOだしな。
今は、こんな偉そうに語ってるけど、
若い頃なんて、ただの理屈屋の頭でっかちだったな。」
「それからは?
私に色々教えてくれてるような話ができるようになったのは、いつ頃?」
「物事の見方や、感じ方ってのは、歳取ると変わってくるんだけどな、
あかねが聞きたいような事は、多分、30歳過ぎてからだな。
みんながそうだとは言わないけど、
歳取ると、物事から、引いた立ち位置で見たり、
考えたりが、出来るようになってくるのさ。
「人生経験が必要なわけだね。気持ちは急ぎたいんだけどなぁ。」
「イメージで説明するとだ、青春ていう木があるとする。
あかねは今、その木の目の前に立っている。
手を軽く前に出せば、簡単に触れられる距離だ。おでこだってくっつく。
20代になると、今より、一歩木から離れる。
手を伸ばせばまだ届く。周りには、同じように手を伸ばしている人がいる。
みんなで、お互いに応援しながら、手を取り合って、手を伸ばしてる。
30代はさらに5歩は離れる。
もう手は届かないし、自分の隣には家族がいたりして、
木の方ばかりを見ている訳にはいかなくなる。
40代になるとさらに10歩離れる。
そこから木の方を見れば、みんなが見えるし、
それまでわからなかった木のてっぺんが見える。
よく見れば、木に登っている奴が見えるし、
木の枝の先にも人がいる。あぁ、そんな選択肢もあったんだと知るわけだ。
同じ距離から、木に向かって走り出す奴も、たまにはいる。
この先は俺も知らない。
木に近いほど、情熱は熱くて強い。けど、離れた人には多くの物が見える。
俺の言いたいこと伝わったかな。」
「教科書に書いてありそうな話だって事はわかったよ。
木の側から離れる前にできる事があると。そういう事でしょ。」
「それもあるが、木の側にいても、視野を広げることを勧めるよ。
全方位を見るのがいいな。
便利な道具や、梯子や階段があるかもしれないし、
浮かび上がる魔法が使えるようになるかもな。」
「それいいな。私がその魔法を使えるようになって、
カクさんを木の上まで連れて行ってあげる。」
「どんな景色が見えるんだろうな。」
「最高の景色に決まってるじゃん!」