ダイヤモンド
この子の人を見る目は相手の中身を見る。相手の本質を知ろうとしている
得難い感性だ。無くさないでほしい。伸ばしてあげたい。
「なぁ、あかね。ちょっと真面目な話していいか。」
タバコを消し、あかねに向き直る。
「うん。なに? ちょっと照れ臭いけど、どうぞ。」
「ホントの俺を見られる気がする。って言ったよな。」 「うん。」
「それは本当の俺を知りたいって思ったって事だろう?」 「うん。」
「知らなかった所をもっと知りたいって事だろ?」 「うん。」
「それな、もの凄く貴重な感覚なんだよ。
見えてる部分、知ってる部分だけで判断するのが普通だ。
あかねはそこで判断しようとしない。
もっと深い所を理解してから判断しようとしている。
うわべじゃなく、人も物事も本質を見ようとしている。
これは人として最高の資質だと、俺は思う。
本当に得難い才能だ。そう、才能だ。」
「だから、それを大事にしてほしいんだ。大事に育てていってほしい。
その才能が今より育っていったら、あかねは物凄く成長できるはずなんだ。
すこぶるいい女になれるはずだ。保証したっていいぐらいだ。」
「褒め過ぎだよ、カクさん… はずかしい…」
「いや、お世辞を言ってるわけでも、なんでもない事実を言ってるんだ。
俺が今まで出会ってきた人達の中でも、
ほとんど、それができる人はいなかったんだ。
本当に凄いことなんだよ。
今のあかねに、それが世間的にどうかって事が、分からないとしてもだ。
だったら、こう思えばいい。
俺が凄いと思うものをあかねは持っているんだって。」
「世の中の評価がどうのじゃなくて、俺がそう思っているのは俺の考えだから、
あかねもそれを知っててくれればいい。 いいか?」
「うん。わかった。そう思う事にする。カクさんの言う事なら信じられるしね。
それに、うれしいよ。
カクさんが認めて、褒めてくれるものが、私にもあるのがうれしい。」
「あぁ、自慢していいくらいだ。
あ、気持ちだけな。本当にしたら恥ずかしいもんな。」
「そっかぁ、そんなに大事なものを持ってたんだねぇ、私。知らなかった。」
「ああ、大事だぞ。埋もれさせてしまったら、
ダイヤモンドを地面に埋めるのと同じだ。
本質を見るのを止めてしまうとしたら、
ダイヤモンドを燃やしてしまうようなもんだ。
貴重なはずのダイヤだって、火にくべてしまえばただの炭素の塊でしかない。
いってみれば、今のあかねはダイヤの原石ってやつだ。
原石な人は割といるのかもしれないけどな、
ちゃんと磨いて、丁寧にカットするから、
みんなが憧れる宝石になれるんだ。だから、自分を磨いていってくれな。
そうすれば、あかねは本物のオレンジダイヤモンドになれるんだから。」
「やっぱり褒め過ぎだよ。それとも私、口説かれてるの?」
「その気にさせようって意味では一緒だな。
あかねが自分の可能性を知るって意味でな。」
「可能性かぁ、どんな大人になるのかなぁ。どう思う?」
「すこぶるいい女だな。」
「だからぁ、それはどんな女なのかってことぉ!」
「そうだなぁ、まず色んなことが、他の人より、よく見えて、よく解るな。
で、仕事はよくできるし、周りから信頼されて、頼りにされるだろうな。
人との関係はかなりうまくいくだろうな。
まぁ、嫉妬されるのは止むを得ないだろうけどな。」
「なにそれ。完璧じゃん。隙がないじゃん。
却ってとっつきにくそうなんですけど。」
「そこは気配りのできるあかねなら、うまくやれるさ。」
「男の人から見たら、そういう女はどうなの? 可愛くないんじゃないの?」
「能力と性格は別だぞ。能力が高いからってだけで可愛くない。とはならんさ。
その人の性格が可愛ければ、相乗効果だな。
男性みんなの憧れになるだろうな。
まさにヒロインだよ。あ、でも、ひとつくらい苦手があった方がいいかもな。
ギャップで、好感度さらにアップだな。
不二子ちゃんか、南ちゃんかってくらいだ。」
「そこまでセクシーじゃないもん。」
「そこについては、なにも言ってないんだが?
そうなれって言ってる訳じゃないんだって、
これは例の話。性格と能力の評価は別だって、そういう話だったろ?」
「そうだけどさぁ、ハードル上げ過ぎる人がいるからさぁ。」
「性格はさ、理想像があればいいんだよ。
こんな風になりたいっていう、目標というかさ。
それがあれば、進む方向は見失わないですむからさ。」
「カクさんはどういう人が理想?」
「理想かぁ、なんだろ? 言い表せないな。
いい影響を与えてくれる人。かなぁ。
宿題にさせてくれ。」
「なによ、自分で理想って言ったのに。カクさんはないの?」
「あったんだよ。理想。理想の人とも出会ったよ。
でもその人は俺の側にはいないんだよ。」
「あ! ゴメンナサイ。」
「いいんだ、気にしないでくれ。
でもそれ以来、女性に対して理想がどうのってのは、ないんだよ。」
「ごめん、なんて言っていいのかわからない。」
「うん。分からなくて良いんだ。そういう事もあるって知ってくれればいいよ。
あかねはどうなんだ? 理想の相手ってのはさ?」
「! わ、私? あ、あるよ。私を全力で理解してくれる人がいい!
その人に見ていて欲しいし、話を聞いて欲しいし、
頑張れって言って欲しい、大事にして欲しい。」
「それこそ、ハードル高いなぁ。出来るように努力するんじゃダメなのか?」
「悪くはないけど、理想でしょ? なら、すでに出来る人がいい。」
「そりゃそうだな。理想は高くなくちゃな。つまんない男に引っ掛かるなよ?」
「引っ掛かんないよーだ。
私にはカクさんが認めてくれた才能があるんだから!」
「ははっ、そうだ、いいぞ。あかねはいい女になるぞぉ。」
「ばかにされてる気がする…」
「怒るなって。茶化して悪かった。
なぁ、あかねの友達の話を聞かせてくれないか?」
「いいけど、なんで友達の話?」
「ほら、それな。俺が何を知りたくて、その話を聞かせてくれって言ったか、
そこを気に出来る感性。話の内容じゃなくて、
意図を知ろうとする。そこがいいんだよ。」
「そういう事か。少し分かったよ。そういう所を見ていたんだね。ふ~ん。
あのね、仲のいい子はねぇ、ミサとゆかって子がいてね、
1年の時から仲良くなって、ミサはねぇ、恋バナが大好きで、
少女漫画大好きで、理想のタイプは王子様っていうザ・女の子
弟がいるっていってた。だからかな、世話焼きなの。
でね、自分の事喋るのが好きなんだよね。
だから、自分の秘密もつい喋っちゃうの。
ま、たいした秘密でもないんだけどね。
2kg太ったとか、男子の誰が気になるとかね。」
「ゆかはねぇ、背が高いの。170cmだって。
中学ではバスケ部だったんだって。
思った事ははっきり言うし、自分でなんでもできちゃう感じ。
優しいんだけど、褒められるのが恥ずかしいらしくて、ツンデレなの。
行動力は凄いよ。スポーツしてたからなのかな。
でも、ミサとは反対で、自分の事はあんまり話さないの。
やっぱり恥ずかしいのかな?
あと、よく食べるの、だからなのかなぁ、おっぱいおっきいよ。」
「女子高生は三人組になるってのは、お約束だよな。昔から。」
「で、カクさんは何が知りたくて、何が分かったのかな?」
「あかねはやっぱり人の内面を見るのがうまいんだって
それが確認できたかな。俺に対してだけじゃないってことさ。」
「なるほど。友達にも同じようにしているかを確認したかったワケだね。
これが判断材料か、ふむふむ。」
「話している内容は、さすがに同じようにって、訳じゃないみたいだけどな。」
「そこまで分かる要素あったっけ?」
「人物像は割とよくわかったけどね。
あかねから見た人物像の表現がぼんやりしているって事は、
そこまで真剣な会話はできていないのかなと。
理解している事があるなら、あかねが言わない訳がないと思ってさ。」
「はぁー。どこの名探偵なのよ。カクさんに隠し事ってできるのかな?」
「お、隠し事を見破る方法も知ってるぞ。」
「なにそれっ! もう反則だよ。それ。絶対敵わないじゃん!」
「それは今度教えてやるよ。視線の話し覚えてるか?」
「あ!左上! そうか、それかっ。対策なんてできないじゃん。」
「それは嘘を見抜く知識。隠し事はまた別だ。
それでだ、そのミサって子は恋バナが好きだって言ってたよな。」
「む、誤魔化された。まぁいいや。
うん、ミサは恋バナは自分のも人のも大好きだよ。」
「最近どんな恋バナしたか、聞いてもいいか?」
「夏休み前に、別のクラスの男子から告白されて、付き合い始めたんだ。
何度か出かけたけど、話が全然できなくて、
あんなのデートじゃないって怒ってた。
で、それが原因で結局別れたんだって。こんな話しか聞いてない。
あとはその男子の文句しか聞いてないや。」
「おうおう、10代の恋愛だねぇ、目に浮かぶわ。
おじさんキュンキュンしちゃうよ。」
「おじさん発言は禁止だって、何度言えばわかるの!?
次言ったら、なんか買ってもらうから!」
「なんか不条理だな。気を付けるよ。しかし、なんかってなんだよ。」
「その場で決めるの。気分でね。
それで、ミサの恋とも言えない恋バナで何がわかったのよ。」
「えーとだな、その彼と、ミサって子の恋愛経験値、
対人スキルという方がいいか、が低いって事。
ミサとあかねがその彼に興味があまりないって事、
ミサに失恋ダメージが無い事。
今回の出来事をあかねが、たいした事じゃないと思っている事
ミサの次の恋愛がおそらく失敗するって事。てところか。
どれも目に浮かぶよ。」
「カクさんの凄さの理由がひとつ分かったよ。想像力がすごいんだ。」
「お、想像力は大事だぞ。その理由がわかったみたいだな。」
「想像が出来るから、理解ができるって事だよね!」
「正解だ!やっぱり、あかねはすごいなぁ。撫でてやろう。」
あかねの頭を撫でてやる。
「…………」
顔を真っ赤にして照れている姿は、可愛らしいから、
ついつい、長く撫でてしまう。
「も、もういいよぅ。恥ずかしいよぉ。」