危険予知
初ブックマーク登録してくださった方、本当にありがとうございます。
評価してくださった方と同じ方かな。
たくさんの作品の中から見つけてくださって、ありがとうございます。
「自分の気持ちを話す。これだけ。趣味も、進路も、恋愛も全部話す。
今、何が好きか、楽しいか、何が欲しいか、
なんの漫画を読んでるか、誰の音楽聞いてるか、
高校卒業したらどうするのか、将来何やりたいか、
どんな女の子がタイプか、好きな子はいるのか。真剣に話す。
あかねは友達に、そういう事話してないか?」
「全部は話してないなぁ。なんとなくそんな風な話はするけどね。
真剣には話してないや。」
「友達はどうだ? そういう相談みたいな話してこないか?」
「うーん、ぼんやりとした話ばっかりだなぁ。
誰かの真剣な気持ちは聞いたことないかも。」
「本当の気持ちを話すことに慣れてないんだろうな。
本音を話すのってさ、慣れるまでは勇気がいるんだよな。
受け止めてもらえるか不安でな。
かわされちゃったり、軽く扱われたりするのは怖いから。
自分の存在自体が、同じ扱いなんだって思っちゃうから。」
「ひとりかふたりで良いから、一度、真剣に話してみなよ。
相談に乗って欲しいって言ってさ。
話題はなんだっていいのさ。話したい気持ちのひとつやふたつ、あるだろ?
真剣に、全力出して話せば、
相手はきちんと聞いてくれるし、話してくれるはずだよ。
相手が真剣に聞いてくれたら、今度は真剣に聞く。
そうやって仲良くなっていくんじゃないか?」
「あ、凄く大事なことな、SNSは使うなよ。ちゃんと顔見ながら話すんだ。
目を見て、声を聴いて、呼吸を感じて、姿を見ながら話す。
そうしないと、機械と話してるのと変わらなくなっちまうからな。」
「真剣に相談かぁ、何話そうかなぁ、話題選びが難しいよ。」
「難しく考えなさんな。自分が一番話したいこと、話せばいいんだよ。」
「さ、着いた、降りるぞー。」
駅に帰り着き、コインロッカーからCDを取り出す。
「え! なんでこんなにあるの?」
「いやぁ、実はな、どうせ貸すなら、追加しようと思って、
中古CDを買いに行ったんだけどさ、
昔のCDだから安くなっててな、ついつい、いっぱい買っちまってなぁ。
これ全部、あかねにあげようと思って持ってきた。」
「ありがとう!カクさん! 全部聞くよっ 何枚あるの?」
「30枚。」
「さんじゅうまい? いくらしたの?」
「いや、30枚といっても、みんなほぼ100円とかだから、
まぁ、そんなもんだ。」
大き目のトートバックに詰め込まれたCD達。俺の青春時代の名曲たち。
このCDに収められている曲にまつわるエピソードを募集したら、
2時間の番組なんて簡単にできるだろうな。
オッサン世代なら朝まで話が尽きないと思える。
「見せて見せて!」
あかねは俺が肩から下げたバックを毟り取りそうな勢いだ。
「帰ってからゆっくり見ればいいじゃないか、
これはもうあかねのものなんだから。」
「そうだけどっ、そうだとしてもっ 今見たいの!」
バックの中を漁っている姿は、まさに夢中といった感じだ。
こっちまで嬉しくなるな。
「あーっ!これ! このアルバム!これ最初に聞こっ!
やったね。カクさんありがとうね。すっごい楽しみ!」
「おう、楽しんで聞いてくれ。ロック系ばっかりだと飽きるだろうから、
70年代も間に挟むといいかもな。メロディーも詩も綺麗なんだよ。」
「うんっ、そうする。
うわー。全部聞くのにどれだけかかるんだろ? うれしーなぁ。
どこ置こうかなぁ。ラックに入りきらないよ。」
「床に積んでおけばいいじゃないか。」
「ダメだよそんなのっ! 折角カクさんが私のために買ってきてくれたのに!
そんなことしないもん!」
「はは、ありがとよ。じゃあうまいこと収納してやってくれ。」
「うん、帰ったら、CD聞きながら早速並べるよ。どうしよっかなぁ。」
こんなにいい笑顔で喜んでくれたのなら、
その感情を疑う余地なんてどこにもないよな。
そう思えるのは嬉しい事だな。純粋な感情は心を動かすな。
この笑顔に恋した奴はいなかったんだろうか…
いや、今聞くことじゃないな。
こんなに嬉しそうにしているんだから、それを眺めていよう。
「そういえば、今夏休みなんだよな? いつまでなんだ?」
「来週から学校だよ。やなこと思い出させてくれたね。折角いい気分なのに。」
「すまんな。あまり浮かれてるのもどうかと思ってな。」
「浮かれてるんじゃないの! 喜んでるの! わかる?」
「わかったよ。学校の準備も忘れないでくれよな。
そうしないと俺が責任感じちゃうじゃないか。」
「そっか。そうだね。そこはちゃんとするね。
カクさんのせいになるのはイヤだし。
あ! ねぇカクさん、来週の日曜日は? 空いてる?」
「あ、悪いけど来週は予定があるんだ。
さっき言った仲間とツーリングに行くんだ。」
「ツーリングってなに? なにするの?」
「あぁ、みんなでバイクで出掛けるんだ。
バイクで遠出するのをツーリングって言うんだ。
毎年恒例で行っててさ。今回は浜名湖まで行くんだよ。土日使ってさ。」
「いいなぁー! 楽しそう!
ていうか、カクさんバイク乗るんだね! どんなバイク乗るの?」
「ツーリングに乗っていくのは1300㏄のデカいやつだ。
デカい方が楽なんだよ。」
「よくわかんないけど、アメリカンとか?」
「形は似ていると言ってもいいかも知れないが、違う。
国産メーカーだし。俺はずっとこのメーカー一筋だ。」
「ますますわかんないけど、バイクに乗ってるカクさん見てみたい!」
「言っとくけど、ツーリングには連れてかないぞ。長距離だし、泊りだしな。
写真送るから、それで満足してくれ。」
「わかった。それでいいよ。楽しんできて。」
「あぁ、その次の週なら、空いてるぞ。どうする?」
「じゃあ、その日は私がもらった。時間とかは近くなってからでいい?」
「連絡してくれ。」
「うん。カクさん、今日も一日ありがとうね。
凄く良い話聞かせてもらった。靖国神社の話に、価値観の話、
それに、今のカクさんがどんなふうに出来上がってきたのか、
話すってことの話。
あとはCD! すごく楽しかったし、嬉しかったよ。」
「そっか。楽しんでもらえたなら良かった。
こないだの心配かけた埋め合わせは出来たかな?」
「CDだけで充分だよ。貰いすぎな気がするもん。」
「じゃあ、今度なにかの時に返してくれ。じゃあ、またな。」
「うん、何か返すよ。気を付けて行ってきてねー。」
あかねに手を振られながら、来た道を戻る。
悪い気はしない。楽しんでいる俺がいる。その反面、後ろめたい考えもある。
真剣に誰かと、こうして話すのはやはり楽しい。
知識の差があれども、真剣に聞いてくる相手に、同じように真剣に話す。
やっぱり俺には一番楽しい時間なんだな。昔からこれは変わっていない。
思いの籠められた言葉のやりとり。
そのやりとりと、そこで感じ取れた事が大切に思える。
こんなに歳の離れた子と、こんな会話ができるとはなぁ。
佐織と、娘と同い年の子なのに…
当の娘とは10年間、顔も合わせていないってのに。
佐織はどうしているだろうか。
今の顔さえ、わからない。記憶の中の佐織は7歳のままだ。
身長はどのくらいだろうか、性格は香織に似ただろうか…
あかねと同じように、自分を見てくれる相手を求めているんだろうか。
すでに見つけて、気持ちのすべてをぶつけ合うような、恋愛をして、
青春を楽しんでいるだろうか…
重ねているのか… きっとそうなんだろうな。
自分の娘だとしたら、こんなに真剣に話してもらえないんだろうなぁ。
娘に避けられるのを体験しないで済んだのは、よかったのかも。
アレは相当ツライっていうもんなぁ。
まだ、2週。とはいえ、毎週末を俺と過ごすのはどうなんだ?
あかねの知的、精神的成長には役立てるとしても、
友人関係や、恋愛に関してはどうなんだ?
こんなオッサンと会っているなんて事が、周囲に知れたら、
悪い噂が立って、孤立したり、いじめられたりしないだろうか。
学校関係者の耳に入ったら、呼び出されたりするかもしれない。
俺が教育関係の有名人とかでもない限り、誰も信じやしないわな。
99%の人間が俺を疑うだろうし、通報でもされたら、即御用だ。
あかねにろくでもない容疑を吹っ掛ける奴がいるかも知れない。
オッサンと付き合っていたとか、援助を求めていたなんてレッテル張られたら、
恋愛なんてほぼ不可能になるじゃないか。
悪影響しか見当たらないぞ。
かといって、それを理由に会うのは止そうって言ったら、
悲しむだろうしなぁ。
あの歳の子に感情と逆方向の理屈ぶつけても、反発するだけだしなぁ。
会うにしても、相当な用心をしないと駄目だ。どうするか…
生活圏内は止めなきゃ駄目だな。家まで送るのも却って危険だ。
電車移動をするにしても、一緒に乗ってちゃ誰がいるか分からない。
離れて電車に乗るのはOKしてくれるだろうか?
OKしたとして、どこまで移動する?
少々離れた程度では危険度はあまり下がらない。
かと言って俺の家じゃ即アウトだ。
車なんて論外だ。乗り込む時や、降りる所を見られたら、言い訳できないしな。
バイクには乗せたくないんだよなぁ…
変装させるってわけにもなぁ。
毎日会ってるクラスメートが見たら、すぐばれるだろうし。
オッサンが女子高生と会ってて、不思議がないとしたら、
教師かバイト先の上司くらいだろう。
これは答えが見付からないぞ。あかねと相談するしかないか。
反発せずに理解してくれるといいなぁ…