価値観
「戦争の話な、戦争は攻める国があるから始まる。攻められるから守る。
戦争といっても、武器を使う物だけじゃない。
情報戦争、経済戦争、聞いたことないか?」
「授業では無いけど、聞いた事はある。」
「戦争と名の付く物は、相手を自分の思い通りにしたいから、起こすんだよ。
自分の要求を相手に呑ませる為の手段て事だ。
そうなると、相手の都合は関係なくなる。」
「特に文化や宗教が違うと、相手の大事に思っている物なんて分らない。
構ってられない。相手の価値観どころか、存在だって全否定さ。」
「そんな事されて、勝手な要求突き付けられて、殴られて、
素直に従う訳ないよな? 許せないよな?
相手の要求を撥ね退ける為には、戦う事になる。
個人じゃなくて、国として考えて見れば当然の選択だ。
放っておいたら国民が殺されるんだ。
国家は国民を守らなきゃいけないからな。」
「そこがわかんないの、国民を守るためにって理由で、
国民を死なせることになるじゃない!」
「それな、あかねの意見は、守られる存在の価値観だ。
守る側の価値観は違う。」
「まもられる存在?」
「紀元前の頃から戦争はあった。
其の頃から、戦争の現実は、男は殺せ、女は犯せ、なんだよ。
酷な言い方なのは、許してくれな。
弱肉強食なんだよ。綺麗事じゃ済まない現実だ。」
「戦争に負けるということは、そういう事なんだよ。
その頃からずっと、戦いは男の仕事さ。攻めるのも守るのもね。
だから、男は女を守りたい、女は守られたい。これが人間の本質だ。」
「だから、私の考えは守られる側だってことなの? 女の本質だってこと?」
「もちろん、それが全てじゃない。
女だって戦うさ。目の前で大事な存在が危機に曝されていたらな。
そして、もし、大事な存在が目の前で奪われたら、取り返そうとするし、
殺されたら復讐だってするだろうさ。
大事なものを守りたいって思いには男も女もない。
思いは同じでも、実際守るものは違うんだ。」
「何が違うの?」
「男は大事な女を物理的に守ろうとする。生かすことが一番。
女は大事な男を精神的に守ろうとする。
これは俺の勝手な解釈だ。これが俺の思う価値観の違い。」
「更に言うなら、紀元前よりもっと昔、人間が本能だけで生きていた頃、
オスは自分の子供を産んで育ててくれるメスを守った。
メスは自分の産んだ子供を守った。
種の保存、生命の生存本能がそうさせた。
その本能は今の人類にも残っている。
究極の人の本質だとは思わないか。」
「そう言われるとわかる。女の側のことはね。
男の側はよくわかんない。」
「超簡単に考えるなら、このままじゃ二人とも死ぬという状況だとしたら、
男は自分が死ぬとしても、
女には生きて欲しいと思う生き物だって、そう思っておけばいいのさ。」
「さっきよりはその意見に賛成できるけど、
やっぱり大好きな人には側にいてほしいなぁ。」
「極限の状態になった時、
そう思ってくれる女性の気持ちは、男を生き延びさせるんだぞ。
もう一度、あの人に会うまで死んでたまるかってさ。
だから女はそれでいいんだよ。」
「それ、逆もあると思うんですけど。」
「男に守られるばかりじゃない女を、イイ女っていうんだよ。
あかねもイイ女になれるよう、頑張れよ。」
「なにそれ! 私はいい女じゃないって言ってるじゃん!」
「そうだよ? あかねはまだ、イイ女にはなれてないな、
いまはまだ、いい少女ってとこだ。」
「何が足りないっていうのよ!」
「イイ女ってのは自立してるもんさ。
しっかりとした価値観を持って、他人の価値観を理解できて、
自分も周りも向上させるようなのが、イイ女なんじゃないか?」
「むぅ、周りも向上させるか… むずかしそう…」
「あかねなら出来るさ。だから今は色んな事を知っていけばいいさ。」
「例えばどんなこと?」
「そうだな、まずは今の時刻と、ツレのお腹の空き具合だな。」
「あ、お昼だ! お腹空いたね、カクさん!」
「よし、じゃあ、日比谷公園の老舗のカレーを食べに行こう。
絶品だぞぉ、うまいぞぉ。」
「うまいの賛成! いこー。」
日比谷公園内の老舗のレストランで食事を済ませ、
野外音楽堂を見学し、銀座を通り、東京駅へ
午後3時になった所で、帰りの電車に乗る、まだ時間が早いとごねていたが、
俺としては、夕食の時間までには確実に家に帰したいので、譲らない。
電車の遅延でもあった時には、間に合わないかもしれないと思うと、
1時間も掛かる場所で、のんびりなど出来る訳がない。
「ねぇ、カクさん。価値観って難しいね。
考えてみたけど、イマイチよくわからなかったよ。」
おやおや、随分難しく考えてしまっているようだ。
「一言で価値観と言ったって、一纏めにできるもんじゃないし、
難しく考える必要なんてないんだ。
例えばな、あかねは目玉焼き食べる時に、何かける?」
「ん? お醤油。」
「醤油がなかったら?」
「塩。なければソース。マヨネーズはない。」
「それがあかねの価値観だよ。
ちなみに、俺が、からしをかけるっていったら?」
「えーってなる。でもそれが好きなら止めないよ。」
「それが人の価値観を認めるってことさ、
で、興味を持って、からしをかけてみるとしたら、
人の価値観を受け入れたってこと。
さらに、共感したなら、価値観の共有ってことだ。
試した結果、やっぱり醤油が一番で、からしはなし。そう思った。
だったら、そう言えばいい。」
「うん、試さなくてもからしはないと思うよ? 聞いた事ないし。」
「そう、それが価値観の否定になるわけだよ。それを言う時に気を付けないと、
相手を物凄く不快にしたり、傷付ける事になる場合があるんだ。」
「なるほど、相手にとってのからしは、
私にとってのお醤油かもしれないってことね。」
「そう!そうなんだよ、よく分かってくれたな。
さすがだな。その通りなんだよ。
あかねがさっき言ったのは一般論で、からしは合わないって思ったんだろう?
そう、一般論としてからしは合わない。
だからといって否定されれば、ショックだろう。」
「うん、最初からお醤油はありえない。とか言われたら、ショックだね。」
「たまにいるだろう?脊髄反射みたいに、何も考えず自分の好みをいう奴。
意見を求められてもいないのに、あ、それ嫌いってやつ。あれはダメだ。」
「う、たまにやってるかも…」
「周りからどう見えてるか考えたほうがいいぞ。
考えのない発言は損をすることがあるからな。」
「どういう風に見えてるの? 教えて、よく見えてないのはわかるけど…」
「じゃあ、俺の感想な、
先ず、こいつは人の話を聞くより、自分の話をしたがるんだなと。思う。」
「いきなり『コイツ』扱いだ…」
「それに、考えて物を言う習慣が無い。
という事は、普段から物を考えない奴だな。と思う。」
「頭の悪い子扱いだ。印象サイアクだね。でもそういう子って実際そうかも…」
「人が話しているのにそれを聞かずに自分の事を話し出す。
これは会話する能力が低い。対人スキルが低い。
考える習慣が無い。という事は中身のないことしか話せない。
少なくとも、知的な会話ができるとは思えないな。
そういう話し方するやつが、相手を思いやるとも思えないし、
会話をすることで、俺にプラスになる事があると思えない。さらにだ。」
「これだけで、もうボロボロにKOなのにまだあるの?」
「話していて楽しくなさそうだ。これは致命的だな。」
「うわぁ、話してさえもらえないよぉ。これはツライ。
まさにお話になりません。だね」
「うまいこと言ったな。もっと言っていいなら、まだあるぞ。聞くか?」
「聞きたくない、けど聞かないといけないかなぁ。」
「じゃあ聞かせましょう。この人物はおそらく知っている言葉が少ない。
きっと、全部カワイイとヤバイで済ませている。」
「ぐはぁっ、いるよぉ、クラスにいるよぉ。5人は思い当たるよぉ。」
「しかも、話す内容はその人から聞かなくても、耳に入る物ばかりだ。」
「もうゴメンナサイ。許してあげて下さい。
彼女達も悪気があったワケじゃないの!」
「とまぁ、話す内容と話し方で、
その人の人物像は、ある程度わかるもんなんだよ。」
「ねぇ、カクさん。そういうカクさんみたいな力っていうのかな、
私にも身に付くと思う?」
「あぁ、あかねならすぐに身に付くさ。センスがいいからな。」
「どうしたらいいのかな? どうしたらカクさんみたいになれる?」
「どうしたらって言われると困るなぁ、
漫画、アニメ、小説、音楽、演劇、を見る。かなぁ。
あとは人を観察する。かなぁ。」
「お、カクさんの知識の源かな?」
「たぶんな。どれもさ、ここぞって場面で、
言葉の使い方をすごく丁寧に考えられてるんだよな。」
「それを吸収してきたって事なのかな?」
「感性はそういった所で磨かれたかもな。
心に残るシーンのセリフや、サビの歌詞とかは、
意識しなくても残るんだよな。」
「あ!そういえば、CDは? 持ってきてくれた?」
「遅いな。駅のコインロッカーに入れてきた。持って歩くの邪魔だしな。
戻ったら渡すよ。」
「それって、気遣いだよね。それ思い付くのはカクさんが大人だから?」
「経験てのもあるかもしれないな。
でもな、効率の悪い行動って好きじゃないんだよ。だからかな。」
「効率なの? 却って手間かかってると思うけど。」
「持って歩く必要の無い荷物を持って歩くのは、無駄だよな?
そういうのが嫌いなんだよ。」
「なるほど、確かに無駄だね。あ、持ってきてくれたことじゃないよ?」
「ふっ、わかってるよ。あかねはそんなこと思う子じゃないのは知ってるさ。」