土曜日
ド素人が書いてみた作品です。
初投稿ですので、いろいろご容赦くださいませ。
各所規定に抵触する点などありましたら、是非ご指摘下さい。
「ねぇ、私が主人公の小説書いてよ」
土曜の深夜のファミレスで、行き詰った作品を少しでも進めようと、
PCとにらめっこをしていた時、突然掛けられた言葉。
何言ってんだ、コイツ。
そもそも誰だよ。戸惑っているうちに彼女は喋りだした
「おじさん、小説書いてるんでしょ? 後ろから見てたんだけどさ、
さっきからずっと頭掻いてばっかりで、
進んでないみたいだったからさ、声かけてみたんだ」
確かに、原稿はこの1時間ほど、ちっとも進んでいない。
それを見られていたとはな。次からは、なるべく壁際の席にしよう。
「ねぇ、聞いてんの? 返事くらいしなよ。」
無視していると思ったのか、お冠のご様子だ。そりゃそうだわな。
「あぁ、ごめんよ。驚いちまってね。突然そんなこと言われりゃ、
吃驚するのも仕方ないだろう。」
「まぁ、いいわ。で、どうなの? 私を主人公にした小説書くの?」
せっかちな女だな、
わずか数秒で返事のできることじゃないって思わないのか?
若い女にありがちな我儘か?
キャラとしてはいいけど、リアルでは嫌いだな。
「面白いかもしれないな。話を聞こうか」
「は? 話なんてないわよ。書くのか書かないのか、それ答えてよ」
バカなのか? かなりカチンと来たぞ。どこの悪役令嬢だよ。
「あのさ、今のこの数秒間の会話で君を主人公にしたら、
我儘で、自分勝手な、人の話を聞かない、頭の足りない、
バカな貴族の娘くらいしか役どころが無いが、それでいいか?」
「はぁ? なにそれっ バカにしてんの?」
「だって、事実だろう?
一方的に声を掛けて、自分の希望を押し付けて、
相手の都合を考えない。返答を考える時間すら与えない。
しかも初対面の相手にだ。我儘娘のテンプレじゃないか」
「私はそんなんじゃないっ!」
「だから、話を聞こうかって言ってんだ。
どんだけ上から目線なんだよ。
こっちが譲歩してんのに、自分の勝手だけ押し通そうとすんな。
そんなんで、よく人付き合いできるな。
友達いないだろ、お前?」
「お前って言うなっ、友達ならいるし、
フォロワーだって1,000人超えてんだから!」
彼女の声に店中が振り返る。これはマズイ。
注目されてるじゃないか。
「オイ、とりあえず座ってくれ、みんなこっち見てるから」
周りを見渡して、ようやく現状を理解した彼女は、
恥ずかしそうに、大人しく席に着いた。
「さすがにフォロワー千人超えだな。見事に注目されてたな。
バズるって言うんだろ。くっくっく」
少し大人気ないが、このくらいは言ってもいいだろ。
失礼なお嬢さん。
真っ赤な顔して、窓の外を見ている姿は可愛らしく思えるな。
二十歳そこそこか、明るい茶色の髪はまさに今どきの若い子だ。
ただ、年齢と化粧は合っていないな。
無駄に派手にしようとしているようだ。
「まぁ、意地の悪いこと言って悪かったな。
水でも飲んで、落ち着いてくれ」
水の入ったグラスを差し出すと、彼女は一気に水を飲み干す。
一息ついた彼女は正面からこちらをじっと見ている。
割と整った顔立ちをしているんだな。
大きな目ってのは魅力的ではあるが、
知性よりは可愛らしさが先にくるもんだな。
知的な方が好みなんだが……
「何みてんのよ、やめてくんない?」
おや、恥ずかしかったのかな? 目が忙しなく動いている。
「君の人物像を観てたんだよ。
キャラクターにはそういうのが必要だろう?」
「見たまんまでいいじゃない。」
まだ、照れがあるようだな。見られるのに慣れていないのか……
「話をする気にはなって来たか?」
「ま、まぁね、少しくらいは話していいわよ。」
この子は最初から照れていたのか。だからあんな態度だったんだな。
それは悪いことをしたな。
「それで、なにが聞きたいのよ、ファッション? メイク?」
なぜ、そうなるんだ? そんな話題聞かされてもわかりゃしないぞ。
「いやいや、待て待て、
物事には順序ってものがあるだろう、初対面だぞ」
「あぁ、名前ね、言って無かったもんね……」
「そうそう、先ずはそこからだろう? で、君の名前は?」
「そう聞かれちゃったら、ミツハ。よね」
初めて微笑んだ彼女は、歳相応の可愛らしさを持っていた。
「あぁ、あの映画な。じゃあ俺は、タキ君かよ」
「タキ君はこんなオッサンじゃない」
酷い言われようだが、我ながら同意する。
こんな小娘に君付けで呼ばれるのも嫌だしな。
「確かにそうだな。じゃあ、カクさんだ」
「なにそれ?どういう繋がりなわけ?」
「君の年齢じゃ知らないのは無理もないか。
俺の世代じゃ、みつばと言ったら、三つ葉葵なんだよ。
知ってるか、徳川家の家紋だ」
「江戸時代のやつ?」
「そう、水戸藩の偉い人が旅をしながら、悪人を懲らしめていくって
ドラマがあったんだよ。
その中で、三つ葉葵の印籠を持ってるのが、カクさんなんだよ」
「へー、ぜんぜんしらない。」
くそ、その棒読みの感想はなんか、腹立つな。
「40年以上続いた国民的ドラマだってのに、こんなもんか」
「カクさんはいくつなの?」
「あぁ、44歳だ。昭和50年生まれだ。」
「げっ、お父さんより年上じゃん!」
分かっていたよ。きっとそうだろうと。
ただ、そう言われるとショックだ。
「女性に聞くのは失礼かもしれないが、君は何年生まれだ?」
「2002年」
「なっ! 2002年? じゃあ17歳か! 高校生かっ!」
色々驚くが、今はそれどころではない。
マズイぞ、さっき店中から注目されているし。
「おい、話は聞きたいし、君を主人公にするのも考えるから、
今日の所は解散だ。このままじゃ、俺がしょっ引かれちまう。
下らない容疑で、警察の厄介になるのは勘弁だ」
「なによ、そんなに慌てることあんの?」
「あのな、今何時だと思ってんだ、
こんな時間にこんなオッサンが女子高生連れててみろ。
青少年保護育成条例違反の容疑掛けられんだよ。
任意同行案件だわ。
実際、お前出歩いてていい時間じゃねえだろ。はやくウチ帰れ」
「こんな時間に一人で帰れっていうの? 送って行ってよ」
「バカ言え、それこそ逮捕されてもおかしくねぇんだよ。こっちは!」
「じゃ、どうすればいいって言うのよ。朝までここにいろって?」
「タクシーがあるだろうが。」
「そんなお金持ってないよ。あってももったいないし。」
好きにすればいいじゃないか。こっちは一緒にいるだけでリスクがあるんだよ。
だからといって、知らん顔ってわけにも行かないか…… どうするよ……
「仕方がない。タクシー代貸してやるから、それで帰れ。それでいいだろ」
「どうやって返せばいいのよ?」
返すつもりはあるんだ。悪い子ではないのかもしれない。
でも初対面の人間に連絡先は教えたくないな。
「カクさん、『ライク』のアドレスは? 『バード』でもいいよ」
SNSってやつだ。
「すまんが、どちらもない。嫌いでな」
「なにそれ、さっきバズるとか言ってたクセに、やってないの?
ていうか、どうやって友達とやり取りしてんの?」
「おっさん世代はな、SNSの無い時代を生きてきてんの。
そんなもん無くたって繋がってんだよ。」
「へぇ~。ちょっと理解できないけど、なんかいいね。そういうの」
あ? なんだそりゃ。感心されるようなことなのか。
そんなことよりもだ、この状況から脱出せねば。仕方がないな。
鞄から名刺入れを取り出し、名刺の裏にスマホの番号を書き込む。
「じゃあ、これに電話してくれ。表の方はダメだぞ、会社の携帯だからな」
名刺と一万円札を手渡す。
渡しながら思う。これ新しい寸借詐欺とかじゃないだろうな。
受け取った彼女はスマホを操作している。
俺のスマホが鳴る。
「じゃあ、これ私の番号だから。登録しといてね。」
にこやかに顔の横でスマホを振っている姿からは、悪意は感じない。
「わかった。さあ、帰るぞ、不良娘。」
「あーっ、そんなこと言うんだ、知らないよ? このあとどうなったって」
「疚しいことは何もないっ。
むしろ不良娘にタクシー代を貸す善良な市民の鏡だ。」
会計を済ませ店を出る。運よく空車が来るじゃないか。
「気を付けて帰れよ」
「うん。カクさんもね」
走り去るタクシーを見送りながら、歩き出す。
「なんだコレ。ラノベ以下だな。読む人いんのかよ」
こういうのもありっちゃぁ、ありなのかな。
だとしたら、どんな作品になるのやら……
20回ほどで終了予定です。
お付き合いいただければ嬉しいです。