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新生活



教室が騒がしい。


みんな浮わついている。




僕は前世では英雄だった。それも人間と獣人の英雄。史上最強魔術師。


でも、いまのほうがずっと満たされている。

家族が僕を支えてくれている。


みんなのためにもがんばらなきゃ、と決意した。




先生が教室にはいってくる。


一気に教室は静かになった。


綺麗で、落ち着いた雰囲気の女性だ。足元まで濃い茶色の髪がのびている。

メガネをかけていて、知的な雰囲気がある。



「やっほー!みんな入学おめでと。

わたしはサロートって名前ね。

一年間よろしく!

さあさっそく、自己紹介がいっちゃおー」



ギャップが大きすぎてみんな反応できなかったようだ。

新学期早々にスベっている。




「じゃあ君から!」

と指をさされた。


こういうときは変にウケを狙ったり、奇をてらわないほうがいい。そこらへんはしっかり前世で学んでいる。


前世の魔術学校で大スベりしたことは、もう誰にも知られてないし、僕も言わない。


「カントール地方から来ました。アラン・プヴァールです。

ベルモンドルムもはじめてて、まだ慣れていないことばかりですが、よろしくお願いします」


微妙な反応だ。堅すぎただろうか?



「じゃあ次!」

とサロート先生はさっきのスベりをすっかり忘れているように意気揚々と進行していく。


僕の次は女の子だ。

「エリハ・エルムスレウです」

と冷たい声で言い放ち、すぐに席についてしまう。


エルムスレウ。魔術の創始者と同じ名を持っている。

黒髪のショートカットで、うつむきがちな目をしている。しかしその瞳には力があり、美しい。背はちいさいがスラッとしていて、全体としてクールな印象だ。


まわりがざわつく。ぼそぼそと耳打ちする声がする。


彼女は気にせずに堂々としている。


この女の子になにかいわくでもあるのだろうか?



それから、通常は停滞しがちな自己紹介はスムーズに進んでいった。

サロート先生は、テンションがすこしおかしいが、教師としては優秀なのだろう。



合格発表のときに話したマリーも同じクラスだ。マリー・ターナーという名前みたいだ。

僕の顔をみてうれしそうにしていた。



あと模擬戦で惨敗したバロン・ブルージョーの姿もあった。

まわりのひとの会話を聞くと、彼はベルモンドルムでも有名な富豪の長男らしい。


彼はぎろりと僕を見る。どうしてだか敵対心を持っているみたいだ。





休み時間になると、マリーが近寄ってきた。

「アランくん。すごいんだね」


「え、なにが?」


「なにがって試験の結果だよ。

みんなその話題で持ちきりだよ」


「模擬戦は惨敗したよ」


「違うよ。筆記の方。

ミルプラトー魔術学校創設以来の最高得点なんでしょ? それもダントツで」


「そうなの? 僕はぜんぜん知らないけど」


「今の校長が持ってる最高得点の750点を超して、アランくんは980点だって。

すごいなー。わたしなんてぎりぎり半分くらいの正解率だよ」


そんなに正解してたのか。難しいと聞いていたから案外取れてないと思っていたが、意外と合っていたんだな。


「試験で分からなかった問題があったんだけど、聞いてみてもいい?」

と僕は言った。


彼女は答えられるかなー?と言いながら僕の質問を待った。


「ベルモンドがもっとも得意とした魔術とその効果は?」


「得意な魔術は「蒼穹の鎮魂歌」と言われるもので、8000メートル級の巨大な大地の隆起を引き起こす失われたS級魔術のうちのひとつ」


「ベルモンドが現在のベルモンドルムで作り上げたものとは?」


「すべての人間を収容する巨大なシェルター「救世の方舟」。現在残る「英雄の墓」はその一部分で、そのシェルターのおかげで魔人との戦争で人間の死者はほとんどいなかった」


「ベルモンドが発見した理論のうち、特に有名なものを3つあげよ」


「「魔力保存の法則」と「魔力変換の法則」と「魔術」」



なるほど。これは間違えるはずだ。

すべて身に覚えがない。

どこで勘違いされたのか。



「なんでこんな問題確かめたいの? ここらへんはわたしでも分かる一般教養の部分じゃない? 」


「全部まちがってるよ。

ベルモンドは氷と炎の最低限の魔術しか使えない。」


「史上最強の魔術師よ? そんなわけないじゃない」


「英雄の墓と呼ばれているのは確かにベルモンドが作ったものだけど、あれはただの研究所だ。

魔人と人間の戦争も、魔人と同様に人間も多くが亡くなったよ。だからこそ魔人に替わって支配するのではなく、共生せざるを得なかったんだ」


マリーはあきれているようだった。


「「魔力保存の法則」、「魔力変換の法則」はともに「魔術」に関わるものだけど、それらを発見したのは、エルムスレウだ」


そのとき、うしろで机に突っ伏していたエリハ・エルムスレウが起きあがり、信じられないという目つきで僕を見つめた。


「アランくんって、頭がいいのか悪いのか分からないね。試験の結果は良くても常識には弱いってことなのかな? 」

とマリーが言う。



何も言い返すことはなかった。

僕はおそらく間違っていない。

でも、これが現代での常識だ。


本で読んではいたけれど、実際に話で聞くと、隔世の感がある。


まあそのままだけど。



「ただのバカなんだよ」

と離れたところから攻撃的な声がする。


バロンだ。






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