表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/33

第5話 エルフの秘蔵書

 キエティは議会の椅子に一人で座っている。


 三人の人族代表による魔族への対応策を話し会った後、人とドワーフの代表は部屋を出て行ったが、彼女は部屋に残っていた。


 彼女のテーブルの上には魔道板(マジックタブレット)と呼ばれるタブレットのような板が置いてある。

 縦横は二十センチメートルと四十センチメートルといったところだ。

 彼女はその情報を見ながら、人族の国へ侵入したという魔族について考えていた。


 エルフは人やドワーフに比べて、魔力の操作に長けている。今でこそ、グリフォンの支配地域で定住させられることになったが、三千年ほど前までは各地を放浪しながら生活していたものだ。

 

 その時に得られた知識というのは今でもエルフ内部において厳重に保管されている。その知識について記された書物への閲覧権は、現エルフ当代であるキエティにはもちろん認められていた。

 そして、今、彼女はエルフ秘蔵の情報を魔道板(マジックタブレット)に表示させている。


 キエティは時間のある時にこの書物を読み漁っていたが、その中でも魔族に関する知識だけは、その危険性からよく読み込んであった。

 ただ、こちらから魔族の縄張りに飛び込まない限り、他種族が魔族に殺されることはまずなかった。そのため、過去において世界を旅する際には、魔族の縄張りに踏み込んでいないかを確認しながら移動するのが、とても大事だったようだ。


 この世界では、魔族はどの種族からも危険視されている。かなり上位の獣族であっても魔族にはうかつには手を出そうとしない。グリフォンでさえも魔族の上位種には、そうそう手を出さないはずだ。どちらかというと〝誰も魔族に関わろうとしない〟というのが正解かもしれない。


 ちなみに、魔族の下位種は知能が低い。自身の縄張りを意識できず、現在でも人族領域内に現れることがあったが、それほど強いわけではない。魔族の下位種は脅威ではない。

 一方、魔族の中位種や上位種に近づくのは厳禁であった。


 今はどうか分からないが、三千年前においては世界の大陸の70%は魔族が支配し、29%は獣族が支配、残りの1%を人族が支配するという状況であった。


 ただ、最も大陸を支配していた魔族は人口が多いわけではない。これは魔族の闘争本能が高すぎて、たとえ同族であっても絶えず殺し合いをし続けるため、数が増えないことが理由の一つであった。加えて、世界全体で見ると、あまりにも不毛な地域も多いのも事実であった。活火山、砂漠、氷河、岩のみの土地などには、人や獣族は住もうとしない。しかし、魔族はそういうところを好んで住み着こうとした。そのため、表面上は魔族が世界の大半を支配していたように見えていた。


 ただ、三千年ほど前に世界の均衡が変わる。


 これは獣族の頂点に位置する龍種が、獣族自体を統率することに成功したからだ。そして獣族の統率は人族もその配下に加わることを意味していた。

 龍種の寿命は長い。五十万年程度が寿命と言われている。ちなみに、上位種の魔族は七~十万年程度、獣族は二万年以下、エルフは五百年、人は百年、ドワーフは七十年だ。


 エルフ内でも最大の謎だが、龍種がある日突然、何故世界を統べようとしたのか、この理由は分かっていない。龍種は知能が高く、長年内部で研究した秘蔵の知識も豊富であると聞く。やろうと思えばいつでも世界自体を牛耳ることはできたはずだが、龍種にとってそれが意味を持つこととは思えないのだ。


 はっきり言って、他種族を支配管理するなど、彼らにとっては面倒なだけのはずからだ。

 ところがこの三千年前を境にして、獣族・人族を支配下に置くと、各所で龍種を主導として、魔力に関する研究を推し進めることを求めてきた。

一定期間ごとにテーマを与えられて、それを研究する。そして定期的にその研究成果を龍種に報告することが求められた。

 

また同時に、龍種が決めた戒律を守ることは全種族対して強制された。そして人族は獣族であるグリフォンの支配地域の一部に押しとどめられることになった。


 そして、この龍種の支配に全く関わらずに済んでいる種族が魔族である。魔族はただ年中戦っているだけで、しかも強者にしか興味が無い。研究等には全く向いていないから、龍種はこれらについては支配下に置こうとはしていない、というのがエルフ内での統一見解であった。


 キエティが読んだエルフ内の書物において、上位種の魔族は、他者と全く関わりを持たないはずの種族であった。魔族の中位種の一部については、他の種族と同様に集団で行動・繁殖、また若干であるが、経済的な交流をするのは確認されている。


 ただ、上位種の魔族は産み落とされてから、親は世話すらしない。放っておくだけだ。そして生後数日で、全員ではないがごく一部の才能のあった個体が爆発的な成長を遂げる。魔族の上位種の親が、子の世話をしない理由はここにある。下手すると数年ほどで親を喰い殺す程に成長することがあり得るのだ。そうして成長した子供は、ただひたすらに戦闘を繰り返すようになる。


 そういう種であるから、龍族が支配しようとしない理由は分かる気がする。


 キエティはキウェーン街に滞在している魔族が怖い。


 率直に考えて、今回のこの魔族の行動は、人族とグリフォンの関係を引き裂く行為であるし、下手すると人族が種として滅ぶ可能性があるとすら思える。


 ただ一方で、もしグリフォンを単独で倒せるほどの力を持った魔族がいて、人族の文化に興味を持っているなら、会って話をしてみたいと、ほんの一瞬だったが彼女の頭はその可能性を思い描いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ