第2話 兵士たちの対応
人族の国に変な魔族がやってきた。
そして、それは人族の国を支配していたグリフォンの一体を倒したらしい。
改めてオリバは兵士に尋ねることにした。
「本当にあの魔族はグリフォンを倒したのか?」
「それは間違いないです。ここにいる全員が目撃しました。かなり遠くでしたが、ここに立っていたあの魔族が急に離れたと思ったら、ものすごい勢いで飛んで行ってグリフォンを一撃で貫いて倒しました」
「よく分からないのだが、何故飛んで行ったのだ? 魔族なら強い魔法も使えただろうに」
「それは先ほどの話からすると、あの魔族は人間の世界に興味があるからではないでしょうか? 魔法を使ったとすると、私たちを巻き込む可能性があるためかと」
「なるほど。それなら確かにあの魔族は人間に対して好意的というのは事実なのかもしれない。しかし、どれだけ強くてもグリフォン七体を相手にして勝てるとは思えない。それよりも、グリフォン達に対してどう説明したらいいかが問題だ。私が知る限り、グリフォンが他種族に殺されたという話は聞いたことがない。あの魔族が殺されるだけで済むならいいが、おそらくそうはなるまい。むしろ仲間が殺されたとなると、何らかの八つ当たりで人にも責任の一端が負わされる可能性の方が高いのではないだろうか」
オリバの発言を聞く兵士たちの顔が強張る。
オリバは困ったことになった、と考える。
グリフォン達は知能が高い。ただの動物ではない。
人族と同じように言葉を喋り、議会で政治政策を決めている。知能水準は極めて高い。
また、グリフォンの魔力、そしてその巨躯から繰り出す力は人族に比べてはるかに大きい。そして、現在の人族は、そんなグリフォン達の支配下にある状態だ。ちょうど今から三千年前に人族はグリフォンの支配地域に押しとどめられ、その中で生活することを強要された。グリフォン達は人族の文明そのものの維持を認めている。しかし、だからと言って人族に好意的なわけではない。だから、グリフォンに対して貢物や人柱をせざるを得ない状態になってしまっているわけだ。
それにもう一つグリフォンの性質で厄介なことがある。
グリフォン達は尊大だ。自らの事を誇り高い種と認識しているし、人族以外の他種族にもそれを強要している。
人族の国でグリフォン一体が殺害されたというのは、彼らにとっては屈辱的なことだ。彼らのプライドは大きく傷つけられるに違いない。また、そのはけ口として人族に何かしらの賠償を求めてくることもあり得る。
ここであの魔族が飛んで行った方向を見た。
あの魔族の飛行速度に驚いた。まるで魔力が殆どないように見えたが、一度飛び始めると物凄い速度で飛んで行った。あの魔族がグリフォンを倒したという事だが、たしかにあの魔族はかなり強いのだろう。
が、所詮、たった一人の魔族だ。
どれだけ強かろうが、あの魔族が複数のグリフォン達を相手に勝てることはない。
もうしばらくすると、グリフォン達があの魔族の死体を咥えて、ここへ来るのは間違いないが、そこでどう説明したらいいのだろうか?
グリフォン達の機嫌を損ねないよう丁寧に、事情を説明しなければならない。複数の可能性を考えていく。
自分達は人の国の一番端の街に住んでいる。この街は主に、来訪者の入国審査や外へ出かける者の出国手続きを取るための街だ。自分達には、国の行く末を決めるだけの権限があるわけではない。
できれば国の中央である人族の代表達に、今回の魔族によるグリフォン殺害について意見を求めたいところではあるが、間に合わない可能性がある。中央で意見を集約するのには時間が掛かる。
もちろん既に中央には報告して今後の対応について指示を仰いでいるが、場合によったら、グリフォン達がすぐに到着してしまうかもしれない。
今回に関しては、私の判断が人の行く末を決めることになる。
オリバがそのことを思うと、額に一筋の汗が流れていった。
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しばらくして、オリバ達の目の前にはグリフォンの首が七個積まれていた。
その中で、とりわけ一つの首は、他の首に比べて二倍以上、大きかった。
この首の個体は、〝七体〟の中でおそらく最も年長者で、強い個体だったのだろう。
「首七つだ。さて、おまえらはどうする?」
オリバは本当に驚いた。
どう転んでも、あり得ない状況だ。
そもそもグリフォンの本拠地とこの人の領地では相当の距離がある。
あの魔族が走り出して帰ってくるまでに三十分も掛かっていない。
ということは、あの魔族は物凄い速度でほぼグリフォンの本拠地近くまで行き、七体のグリフォンを倒してここまで戻ってきたということになる。
本当にこの魔族がやったのだろうか?
誰か別の者が倒した首を、持ってきただけではないのだろうか?
それとも、この魔族は本当に強いのだろうか?
「……分かりました。すぐにこのことを中央に伝えて、あなた様に従うように意見させて戴きたいと存じ上げます」
そう言って、オリバはそこにいた全ての人間を跪かせて、この魔族に対して頭を下げさせた。
ただ、オリバはこの段階で、この魔族の事をもちろん信用していたわけではなかった。
兵士や街の人に被害が出ないようにするためだけに、しょうがないから頭を下げた。
グリフォンが本気で攻めてきたらこの魔族は負ける。
国の中央と連携して、すぐにこの魔族の対処に当たらねばならない、そう思っていた。




