第28話 ケリドの対価
ケリドは高速で考えていた。
ゼムドが魔力を放出したのは間違いない。
ものすごい放出量だ。
普段六人と戦う時でもこれほど魔力を見せたことはない。
年長者の五人にしてもそうだろうと思う。
おそらくゼムドはかなりの強敵と戦っている。
ゼムドはいつも六人に囲まれていた。
ケリドも魔族の特性として、自分が最強になりたいとは思っていた。が、ケリドは生まれつき少し他の魔族の個体と違っていた。
他種族の行動にも興味があった。
生まれたばかりの頃、魔素の強い大陸ではなく、獣族が多い地域で生まれたのが原因かもしれない。
ひたすら、他種や魔族を殺している時期もあったが、やがて少し変化していく。
この千年、ゼムド達と戦い、また、時間がある時には他種族との交流を行い、その結果得られたものをゼムド達に提供した。また、ゼムドや他の魔族達に、他種族の文化について語ったりもした。興味を示したのはゼムドとワダマルだけであった。そして、ゼムドが、ある日、アジトからいなくなった。
ゼムドが自分達から姿を隠した理由が分からない。
ゼムドは強い。
千年前に話を聞きつけて、ゼムドの下を訪れた。
ゼムドと戦いたい者は、まずゼムドの側近と戦うということだった。
自分の場合は、ワダマルが相手となり戦った。
ワダマルは強く、手加減をしているのが分かったが、それでも完敗だった。しかし、何故か自分はゼムドと面会を許され、ゼムドとの戦いを認められることになった。
結果的に、自分はゼムド達一派の仲間になることになった。
今のメンバー達から自分がどう思われているのかは分からない。
魔族は、通常、他者に興味を示すことはない。
ミホ、エスカそしてガルドロストとはこの千年一緒にいるが、ほとんどコミュニケーションをしたことがないくらいだ。
アザドムドやワダマルと会話をすることはある程度あるが、それでも仲が良いというわけでもない。
全員、隙があればゼムドの首を取りたいのかもしれない。
高速で飛行し続けながら、前を見る。
あのゼムドが、今、誰と戦っているのか考えたかったが、それより別の問題がある。
おそらく五人は頭に血が上っていて気づいていない。
このまま真っすぐ進めば、龍種の住まう土地を通過することになる。
何故かゼムドも五人も、普段はあまり龍種の話はしない。
さすがに魔族の高位であっても、龍族に挑むことはしないのかとケリドも思っていたが、今の五人は迷わず龍の住処に突入するつもりだ。
ダメだ、と感じる。
今全員がすぐに向かうべき場所は、ゼムドの元だ。
龍種の住処を侵犯することが目的ではない。
龍族の魔力の放出は六人よりも若干遅れていた。
おそらく、六人の魔力が龍種の土地に近づくことに気づいて、龍種が戦闘態勢を取り始めたのだろう。
ここで自分たちと龍種がぶつかるのは時間の無駄だ。
五人にそう言ったことを訴えかけてみる。
ところが、五人からは全く反応がない。
もう龍種の住処の近くまで来ている。
このままだと龍種と衝突することで無駄な時間が生じる。
仕方ない。
自分の右腕を左手で掴む。
魔法陣を起動して、己の右腕を引きちぎった。
この行為で、さすがに五人の雰囲気が変わった。
自分の右腕を見せながら、五人に話しかける。
「私がこの腕を龍種に差し出して話をしてみます。龍種の土地を通らせて欲しい、と。龍種には害意は無く、通らせてほしいと交渉してみます」
アザドムドが五人の代表とばかりに返事をする。
「いいだろう。お前がやってみろ」
そう言って、アザドムドは魔力の放出を弱めていく。
他の五人も同じように魔力の放出を弱めいく。
そして目の前に大きな古龍の姿が見えてきた。
六人が大きな古龍の前で止まる。
ケリドが五人の前に出て、古龍に話しかける。
「初めまして。ケリドと申します。私たちは魔力の放出元へ向かいたいだけで、龍種と戦闘をするつもりはありません。どうか龍の住まう土地を通過することを許可して頂けないでしょうか?」
古龍は渋ると思ったが、意外にもあっさり返答した。
「構わぬ。ただ、我らも同行させてもらう。我らは世界の傍観者であり、管理者としての役割を果たしている。世界的な不均衡を見逃すわけにはいかない」
ケリドは拍子抜けしたが、古龍に一応、礼はする。
「ありがとうございます。これはお礼になります」
そう言って、自分の右腕を古龍に向かって放り投げた。
古龍はそれを一飲みにした。
そしてすぐに踵を返して魔力の放出元へ飛び始めた。
同時に六人も魔力の放出元へ向かう。




