第27話 3000年前の真実
六人の魔族がアジトで、テーブルを囲んで座っている。
ここ最近は皆でこうして過ごしていた。
そして、ケリドが見つけてきたどこかの獣族のカードゲームを皆でやっていた。
ゲームは、まぁ、面白いが、この手のゲームは結局ケリドがいつも強くなる。
負けて、アザドムドが言い出す。
「あー、つまんねぇ。何か面白いことないかねぇ」
ミホが答える。
「それ、今日二十回くらい言ってるよ。ただ、私もつまんないわー」
六人は何でつまらないのか、その理由は皆分かっていたが誰も口にしない(ガルドロストはいつも喋らないが……)。
つまらない理由を口にしてしまえば、何かに負けたような気がするからだ。
だから誰もその原因の人物の名前は言わない。
アザドムドが珍しく立ち上がって、ガラにもないことをしだす。
「おい、酒飲むか? 一応まだ残ってるぞ。飲むならグラスにお前らの分も注いで……」
その瞬間だった。
はるか遠くで異常な魔力の放出が感じられた。
次の瞬間、六人はその場で即座に限界まで魔力を放出した。
六人がいた建物だけでなく周囲一帯が、一瞬で木っ端みじんに吹き飛んだ。
今まで六人がいた場所から物凄い魔力の柱が六本、上空へ向かって伸びていく。
その六本の柱はある程度の上空に達すると、直角に曲がって、異常な魔力の放出があった方向へ進んでいく。
六人は物凄い速度で、魔力の放出先へ飛び始めていた。
――同時刻――
現当代古龍ファルデザードも異常な魔力の放出に気づいた。
気づくと同時に、天に向かって大きく口を上げ、〝グオオオオ〟と叫びながら、魔力の放出をし始める。
〝思ったより早い〟
古龍ファルデザードは大きく口を開け魔力を高めながら、そう考えていた。
想定したよりも早くこの時が来ることになろうとは。ただ、この三千年それなりの準備はしてきた。
やれるか。
…………。
…………………………。
やるしかない。
ファルデザードを除く二体の龍も〝現状について〟ほぼ正確に把握しているらしく、この二体については魔力の放出をし始めていた。
ただ、他の十四体についてはまだ魔力の放出が始まっていない。
信号で若い龍達にも魔力を放出するように伝える。
ゼムドが魔力を放出し始めてから、魔族六人が空に向かって飛んでいくのと、龍種十七体が魔力を放出する、ここまでに人の時間にして一秒ほどの時が経っていた。
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アザドムドは、現状が、かなり〝危機的〟な状態にあることに気づいていた。
はるか先で異常な魔力の放出を行っているのは間違いなくゼムドだ。
しかし、あのゼムドがこれほどの魔力を放出するのをアザドムドは知らない。
現況の異様さについての理解は他の五人も同じだろうが、若年のケリドだけは今の状況がどれだけ〝危機的〟か分からないだろう。
ゼムドのこの魔力の放出量は三千年前にゼムドが古龍と戦った時に見せた魔力よりもはるかに大きい。
間違いなく、異様な敵と対峙している。
ゼムドがこれほど魔力を放出しなければいけない程の相手――そんな奴が、まさか俺たちに知られずに隠れていたとは驚いたし、ゼムドはこれと戦うために俺たちを置いて出かけたのか。
古龍が全ての種の頂点というのは間違いだ。
頂点は魔族の超高位種の一体だ。
三千年前にこれがはっきした。
三千年前にはゼムドに対して俺たち五人は絶えず戦いを挑んでいた。
いつもゼムドの近くにいた理由は一つ。
仮にゼムドが複数人と戦って、弱体化するチャンスがあれば、その弱ったところを叩けけばゼムドを殺せるからだ。
ゼムドは他の魔族のように戦いに勝って、相手を殺すチャンスがあっても何故か殺さなかった。
だから、何度も挑むチャンスはあったし、近くにいて、誰かが定期的にゼムドに挑むのを待って、可能ならそこを狙ってゼムドを殺そうとしていた。
ところがゼムドは強った。
五人も戦うたびに成長したが、しかしゼムドも成長したし、その差は埋まらなかった。
そして、ある日好機が訪れる。
ゼムドが龍種最強の一匹と戦いに行くと言い出した。
これは五人にとって絶好の好機だった。
龍種最強の個体とゼムドがぶつかれば、ゼムドですら無傷ということはない。
〝ゼムドを殺せる〟
五人はゼムドと一緒に龍種の住まう土地へ向かうことになる。
時の龍種当代はコメドロファル=ヘルズゲマーンという名の龍で、年齢的にもピーク、しかも新しく世代交代をしたばかりの、長い時を経て龍種が生み出した秘術・秘宝を全て受けついだ歴代最強と謳われた龍だった。
古龍コメドロファルは当初戦う気自体なかった。
〝たかが魔族一人相手に何故戦わなければいけないのだ?〟と興味が無い様子だった。
しかし、魔族も引く気配が無い。
そこで、龍族の提案でお互い魔力を見せるだけにしようと龍種は提案する。
格上たる者は龍であると魔族の上位種に知らしめるのが目的であった。
最初にゼムドが魔力を見せた。
これにコメドロファルは驚いた。
まさか、生まれて僅か一万数千年程度で、これほどに強くなる生き物がいるとは予想だにできなかったからだ。
これを見てコメドロファルは気が変わり戦うことにする。
ゼムドと古龍コメドロファルの戦いは正式に承認され、この戦いを見守る権利を与えられたのは、龍種三体と、ゼムドと一緒に龍の土地を訪れた魔族五体だけであった。
ゼムドは魔力のコントロールがうまい。
特に優れているのが、魔核から魔力を放出する速度にある。
一瞬で0から100まで自分の魔力を瞬間的に高めることができる。
戦いの場で既に魔力を放出していた。
いつもアザドムド達と戦う時に見せる魔力量だった。
一方、龍種はその巨躯ゆえに、魔核から魔力を放出するのに時間が掛かる。
しかし、ゼムドは攻撃しない。
コメドロファルは十分に時間を掛けて魔力を放出し、戦いに備えた。
単純に殺し合いをすれば、おそらく龍の魔力の放出が終わりきる前にゼムドが首を取るだろう。
しかし、ゼムドはそれをしなかった。
相手のために待ってやっていた。
コメドロファルも獣族だ。
戦いは楽しい。しかし相手がいなかった。
それを満たせるような相手を見つけられたのは〝僥倖〟とばかりにゼムドを見据える。
ゼムドは無表情だ。
〝この魔族は強いが、まぁ、勝てない程の相手ではない〟
そう思って見下していると、次の瞬間、ゼムドは無表情のまま魔力を上げた。
そして、その魔力放出量は異常だった。
アザドムドを含む五人も驚いた。
普段、ゼムドが見せる魔力量が全力だと思っていて、それを前提に五人のうち自分以外の四人を犠牲にして、自分が首を取れればそれでいいと思っていたのだ。
正攻法でなくても勝てさえすればいい。
ところが全然、そうではなかった。
ゼムドは、普段、全く本気など出していなかった。
コメドロファルはこの段階で、初めて自分がこのままだと負けることに気づいた。
このままでは勝てない。
だが、引けない。
自分は龍種の当代だ。
ならば、単に龍種の誇りのために戦うのではない。
長年に渡り龍種が研究してきたこの世の摂理、価値観、作り上げた秘術に秘宝。
それらの管理者としての役割があった。
仕方ないか。
コメドロファルは覚悟を決めると龍種の秘術を使い始めた。
この秘術は一種のドーピングだ。
能力を飛躍的に上昇させることができる。
ただ、一方で寿命が減少する。
だが、コメドロファルには他に選択肢が無かった。
〝なんとしてでもこの魔族を殺す〟
秘術を使って一気に魔力量の底上げを図り始めた。
ゼムドは無表情でコメドロファルを見ていた。
そして、コメドロファルの魔力が上がるにつれて、大地が侵食され始めた。
これほどの魔力が局所的に放出されると、当然、魔力汚染が生じる。
ゼムドはコメドロファルではなく、周囲に視線を移しキョロキョロ見渡すと、結界の魔法陣を発動させて、大地を護り始めた。
これにはコメドロファルだけでなく、立ち合いを許された龍種三体とアザドムド達五体も驚いた。
大地など護っていたら、殺されてしまう。
と思った、次の瞬間だった。
また、ゼムドの魔力の放出量が跳ね上がった。
表情は無表情のままだった。
ここから戦いが始まる。戦いは一年ほど続いた。
戦いの中でコメドロファルは使えるだけの秘術を使い、手段を問わずにゼムドを殺そうとした。
一方で、ゼムドはただ無表情で、息を切らすこともなく、ただ、仕掛けられる技を裁いていただけだった。
コメドロファルに対して攻撃することもなかった。
戦い始めて一年ほど経った時、ゼムドが言葉を発した。
『済まなかった。余の負けでいい』
これを聞いたコメドロファルは大声で笑い始めた。
そして、魔力の放出をやめ、ゆっくりと地面に降りてきた。
そして次の瞬間だった。
コメドロファルは自らの魔力で自分の首を切り落とした。
この時に初めてゼムドの顔に表情が宿った。
悲しそうな顔をしたのだ。
アザドムドはこの時の表情が今でも忘れられない。
この戦いの後、ゼムドは龍種に対して、〝今後自分は二度と龍種の領域を踏まない。コメドロファルを倒したのは魔族複数で奇襲が成功したことにして欲しい〟とだけ告げてその場を立ち去った。
アザドムドを含む五人はこの戦いを見て、牙が抜けてしまった。
もうゼムドを倒したいとも思わず、一番強くなりたいとは思わなくなっていた。
その後、アザドムドを含む五人は、ある理由からゼムドと一緒に暮らすようになる。
ゼムドに勝ちたいとは思わなくなっていたが、それでも闘争心はあるので定期的に戦いたい。
相手としてはやはりゼムドしかいない。
そんな生活をして二千年ほど経った頃、少し変わった魔族の上位種、ケリドがこのメンバーに加わる。
これが3000年前の真実だ。




