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第25話 ゼムドの独白

 ゼムドは魔道板を読み続けていた。


 人の歴史について読んでいると面白い。


 なるほど、〝こういう流れで現在に至ったのか〟と気づける点がいい。

 今まで自分が触れてきた人の文明の発端になる起点、そこにある一部の者が気づき、その知識が広まり、またその知識を応用しようとする者が現れては、社会自体が発展・成熟していく。


 ただ、人の文明はそれほど長くない。


 理解を深めるためには、もっと原始的な時代からの文書も読み漁る必要があるか。


 魔族は遺伝的に戦闘能力が刻まれ、次の世代に受け継がれていくからもちろん文化は無い。

 けれども、今までに読んだ書籍からすると、人族以外の獣族も歴史をそれぞれ刻んでいるようだ。おそらく、龍族がもっとも面白い文書を抱えているのだろうと思う。

 読んでみたいと思うが、龍には近づけないのであきらめるしかないか、と思案していると扉がノックされた。


「入れ」


 魔道板に目を落としながら、扉の方は見ずに返答する。


 部屋に五十人程の人が入ってくる。

 部屋の外にはもっと人がいるようだ。


 人、エルフ、ドワーフ、そして様々な年齢の人族がゼムドの部屋に入ってくる。


 その中にいた中年の女の一人が尋ねてきた。


「何故、キエティ様を守ってあげなかったのですか?」


 何か目の前でしゃべっている。


 つまらなそうな質問だ。

 意味が分からないが、これまでの経験上、この手のニュアンスの含む質問は無視していいことを、俺は人の街に訪れてから十二分に理解している。

 質問には答えず魔道板を読み続ける。


 目の前で女が話を続けた。


「キエティ様はとても素晴らしい方です。今朝の国民への演説もご立派でした。あの方は私たちにグリフォンに攻撃されても〝逃げずに耐えろ〟と仰いました。あの意味は、抵抗せずに殺されるものは助けず〝見捨てろ〟、それでも生き残れたものは人として文明を続けて欲しいという意味です。

 あの言葉の意味、あの立場の方がそれを国民に対して言わなければいけないことのつらさはどれ程のものだったのでしょう? あなたに分かりますか?」


 無視する。

 さらに女が続ける。


「あなたがこの国へ来て、グリフォンを挑発さえしなければこんなことにはなりませんでした。あなたは他人に迷惑をかけて申し訳ないという気持ちがないのですか?」


 何を言っているのだろう?

 もちろん答えない。


 しばらく静寂が場を支配した後、一人の男がキレた。


「おい、このクソ魔族。おまえ、ろくに魔力もないくせに、グリフォンを挑発して、皆に迷惑かけて、おまけにお前が妻にした女だけグリフォンに送るとはどういう了見だ? ああ!?」


 ん? キエティはグリフォンに会いに行ったのか。


 そう言えば、先ほど最初に訪れた街の周囲に、六百体ほどのグリフォンが飛んでいたが、あれと何か関係あるのだろうか?


 キエティの重力魔法のおかけで、移動の際に物を壊す必要が無くなった。

 グリフォンが人の街を攻撃し始めたら即移動して、殺処分すればいいと思っていたので、放っておいた。


 ただ、人族の街に攻撃を仕掛けるなら駆除しておく必要はあるが、あれらにそのつもりはないだろう。

 読んだ文献に書いてあったあの鳥の習性からすれば本当に襲う時は殺意のある魔力をまき散らしながら飛んでくるはずだ。最初に会った時の様に。


 現在も確かに殺気を放っているが、こっちに注意が向いていない。何故か、周囲や本国の方を気にしている。

 むしろグリフォンの本国の方がはるかに殺気立っているようだ。

 この歴史の魔道板を見ると、この三千年間、大戦は龍種に禁じられて行われていないらしい。

 グリフォンもグリフォンで暇なのだろう。


 それにしても。


 鳥に会いに行って捕まるとはバカな女だ。

 グリフォンなど放っておけばいいものを。

 あの女ではグリフォンに勝てない。行ったら殺されるだけだ。

 そんなこともあの女は分からない程アホではないと思っていたが、ずいぶんと見込み違いだったわけだ。

 キエティが死んだとして、次に誰か知識のあるものを代わりに探す必要があるか。

 今まで出会った人間の中で使えそうな人を思い浮かべていく。

 そんなことを考えていると、目の前にいた五十人が次々と自分に向かって罵倒する言葉を浴びせ、文句を言ってきた。


「何か答えろ、この臆病者!!」

「お前がグリフォンのところへ行ってお前だけ死んで来い!!」


 何を怒っているのだろうと不思議に思う。

 ただ、こういうところが人間の良さなのだろうな。

 物を投げてくる人族もいるので、適当に結界を張って魔道板を守ってやる。


 ふと、人族を見てみると、最初に俺に話しかけてきた中年の女は泣き崩れて、周りの人間に肩をさすってもらっている。


 何で泣き崩れているのだろうか?

 本当に不思議だ。


 人は自分で物語を作るらしい。

 それは詩であり、唄であり、また文学というものらしい。

 そういうもので人の心を動かすには、喜怒哀楽、また、その他の感情が豊かでないとダメなようだ。


 ん? 感情?

 そういえば、俺には感情があるのだろうか?


 おそらく喜ぶという経験はしたことがあるな。怒るという感情は分からない。悲しいという感情も分からない。楽しいという感情はあるか。

 というか、喜びと楽しいとは同じ感情ではないのだろうか?


 自分で物語を作ってみたいとは思わないが、今、目の前で騒いでいるような連中の方が少なくとも〝俺〟よりは面白いと呼ばれる物語をつくれるのではないだろうか。

 そんなことを考えながら、魔道板を見ていく。


 古い歴史に関するページにたどり着いたが、言葉が分からない。

 メルドフォーサル語という言語らしいが、これの翻訳はまだ進んでいないのか。

 今キエティが生きていれば、魔道板に書かれた以上の情報に辿り着ける可能性があったのだが、死んでしまったなら仕方ない。

 そう思って、読み終えた〝歴史〟の魔道板をテーブルに戻し、次はどれにするかと思いながら、〝政治〟に関する魔道板を手に取って、そして読み込んでいく。


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