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第24話 キエティの覚悟

 キエティは、ゼムドの部屋の前にいた。


 議会で話したように、ゼムドをうまくグリフォンの前へ連れて行かねばならない。

 いつものようにノックをして中に入り、ゼムドに話しかけた。


「ゼムド様お話があります。実は、明日、ゼムド様が最初に訪れた街に、ゼムド様がご興味を持たれるだろうと思われる見学場所があります。明日の昼にご一緒に向かってもらえますか?」


「グリフォンか?」


 ゼムドはキエティの方を見て、そう言い返した。


 キエティは思わず驚いた顔をしてしまった。


 ここで、そんな顔をしてはいけないのに……。


「――いえ、そうではありません。純粋にゼムド様の好奇心を満たせることが目的になります」


 ゼムドはキエティの返答を無視して喋り始めた。


「今日グリフォン達が、俺が最初に訪れた街に五十体ほど来ているようだった。攻撃してくるようなら倒そうと思っていたが、奴らの魔力からすると本気で襲ってくるとは思えなかった。放っておいても大丈夫だろうと判断して無視していた。もし、奴らが人の街を襲うなら守ってやる。

 それは最初にこの街に訪れた時に言ったはずだ。この話はもうこれで終わりだ。グリフォンは放っておけ。今後、これについての質問には答えない」


 ゼムドはそう言った。

 そして魔道板に再び目を落とす。

 ここで、キエティは考えを変えなければいけないと思った。ゼムドはグリフォン襲来を知っていた。もう小手先の手段は通じない。


「本当にゼムド様は強いのでしょうか? 本当は弱いのに、それを隠すために強いフリをしているのではないでしょうか? そして、本当は、全く人族を守ってやるつもりはなく、攻められたら自分だけ逃げようと思っている。

 私が教えた重力魔法を使えば、音もなく一人だけ逃げることは可能です。グリフォンが人族の国を襲っても、あなた一人だけは助かる。そう思っているのではないでしょうか?」


 ゼムドを挑発する。

 しかし、ゼムドは何も答えない。


「ゼムド様、あなたはグリフォンを少なくとも一体は殺しています。そのグリフォンを殺してしまったことは〝罪〟です。あなたはグリフォン国へ赴いて、その裁判を受けなければいけません。明日、グリフォン軍に対して私とともに出頭してください。私も一緒に行きます。

 おそらく私とあなたに婚姻関係があろうが、なかろうが、人の街があなたと私の結婚を祝福するようなことをした以上、私は処刑されます。あなたも処刑されることになるでしょう。しかし、それで人族は助かります。明日、一緒にグリフォン国へ向かってもらいます」


 そう言って、ゼムドを見ることもなくキエティは部屋を出て行った。


 そのあと、各方面にいろいろと対応を取る。

 キエティに対しては皆、露骨に憎しみを向けているのが分かる。


 今回の原因の一旦はキエティにあると思っているからだ。


 国中は既にパニックに陥っていた。

 キウェーン街にグリフォンが来たことは情報統制できるようなレベルを超えていた。

 また国民の一部は避難を開始していた。


 ただ、グリフォンの探査能力からすると、もはや逃げきれるわけなかった。

 遠くで死ぬか、近くで死ぬかの違い程度だろう。


********************


 キエティは、一通り各所に事情を説明した後、グリフォンから受け取った通信板を持って、もう一度ゼムドの部屋に行くことにした。


――ゼムドにグリフォンからの通信板を見せるしかない――


 もう一度ゼムドの部屋を訪れた。いつもはドアをノックして入るが、今回はいきなりドアを開けて入った。

 そして、キエティはグリフォンから来た出頭命令書の通信板をゼムドの前で読み上げた。

 しかし、ゼムドは歴史に関する魔道板の情報をただ読み続けていた。


 ゼムドはこちらを一度も見ない。

 無視している。


 以前、ゼムドに女性の好みを聞いた時と同じだ。

 あのグリフォンの命令書にすら全く興味を示さない。

 何度も話しかけたが、返答してくれることは無かった。


 キエティは、ゼムドがこれほどに書籍にハマるとは思っていなかった。

 キエティは自分が研究者であり、自分の知らない知識を得られる楽しさについては共感できた。

 そして、ゼムドがどこかで何か変化してくれることにも期待した。


 ゼムドの知能はかなり高い。


 はっきり言ってキエティなどとても及ばないレベルの頭脳を持ち合わせていると思った。

 なにせ人の地にきてわずか十日ほどでかなりの書籍を一度読んだだけで、大半を暗記し、分からないことは素直に他人に聞くので知識の吸収速度も速かった。


 ただ、今になってやっとゼムドの本質が掴めてきたように思う。


 ゼムドの人格は当初に出会った時と何も変わっていない。


 ゼムドとここまで話して来て感じたのは、〝他人への興味の無さ〟だ。


 まるでそこら辺の虫を見ているような感覚でしか人に接しようとしない。


 最初の頃は、キエティ達はゼムドの機嫌を取って、怒らせないようにしようとしていたが、それはゼムドの本質を見誤っていた。

 ゼムドは怒るほど他人に興味がないのだ。


 そこら辺に落ちている葉っぱが風で飛んだ程度の関心しか他人には興味を持ち合わせていない。

 これはある意味、どんな非礼をしてもゼムドは怒らないので、安心と言えば安心ではある。


 キエティから見てもゼムドの魔力の凄さはなんとなくわかった。

 これまでにゼムドは魔力を暴力的な面で全く使おうとしなかったため、強さの推測はできないが、それでもかなり上の方の魔族なのだろう。

 しかし、魔族生来の性質なのだろうが、他者の心理・心情を察してやろうとする、他人のために何かをしてあげよう、といった気持ちは全くない。

 しかし、現在グリフォンという驚異が差し迫っている中で、人族の代表であるキエティはせめてゼムドの知恵を貸してほしいと思う面はあった。


 ――人族のために私が出来ることは何か?――


 ゼムドの部屋を出て、自室に戻った。


 眠気は全く訪れず、寝ずに一晩考えていた。


 もうこれしかないか……と思った。


 簡単に部屋を整理していく。


 翌朝早く、キエティは人族の会議場に立っていた。そしてその様子は人族全土に放映されていた。


「皆さま、朝早くお集まり頂きまことにありがとうございます。

 この度のグリフォンからの出頭命令ですが、今回の事件の犯人である魔族ゼムドをグリフォンの都市まで連れていくことはできそうにありません。つきましては、私のみグリフォンの都市へ出頭しようと思います。

 私がゼムドの妻であるというのは完全に誤解でありますが、グリフォンにそれを伝えてもおそらく理解してもらえないでしょう。しかし、現状のままでは、明日にはグリフォンからの総攻撃を人族は受けることになってしまいます。

 これだけは避けなければなりません。龍種とグリフォンには何かしらの条件があり、龍種への貢献度合いからすると、おそらく人族は一定数生存できるとは私は考えています。

 私なりにグリフォンに対して人族が反旗を翻したわけではないこと、今後も隷属する、また相応の賠償することについて掛け合ってみるつもりですが、現在人族は種として危機的な状況であると認識して頂きたいと思います。

 また、大変申し訳ありませんが、もしグリフォンが攻め込んできた場合は、決して反撃することなく、そこに留まって頂きたいと思います。相応の死者が出ますが、逃げもせず耐えてほしいということになります。

 どれだけ生き残れるかは分かりませんが、生き残ることが出来た人族はなんとしても人の文明を今後に繋いで頂きたいと思います。

 このようなことを人族の代表として申し上げるのは、本当に申し訳なく思います。」

 そう言ってキエティは頭を下げた。


 キエティはすぐに着替え室に戻り、出頭するわけだから、地味な服に着替えた。


 そして、キエティはキウェーン街まで、人族の魔道車の警察車両によって運ばれた。


 キエティが出頭することについては、グリフォン国から人族の国へ送り込まれた密偵が、常時本国へ情報を伝達しているはずだ。人族がグリフォン国に対して、人族の温情を願い出るならば、この段階でキエティは警察車両で運ばれた方が人族にとってはメリットがあるだろうと思われた。だからキエティ自ら、警察車両で移送されることを願い出た。


 警察車両に乗っている時は、不思議と何も考えなかった。


 死を意識しているからだろうな――。


 自分はどうあっても助からないとは思った。既に有罪か無実かは、問題ではない段階に入っていた。グリフォンにとってはどうあっても見せしめが必要だ。


 その日の夕方になって、キエティはキウェーン街に到着した。

 街の入口付近を見ると、キウェーン街の外周上空には六百体のグリフォンが飛んでいた。

 凄まじい数だ。


 キエティはそれを見ながら、キウェーン街の門から荒野へ出て行った。

 出てきたキエティを見つけて、一体のグリフォンがキエティに話しかけてきた。


「人族のエルフ種代表、キエティ=サメワイドフルで相違ないな?」


 キエティは無表情のまま答える。


「はい。キエティ=サメワイドフルでございます」


「出頭命令には魔族も同伴することが求められていたはずだが、魔族はどうした?」


「グリフォン様の都市へ向かわなければならないということを、当魔族に伝えたのですが、聞く耳を持ちませんでした。しかし、私達人族は、グリフォン様に対して反旗を翻したわけであはありません。ですから、せめて私だけでも人族の弁明に、と思い、今日ここまで出向くことに致しました」


「しかし、お前はその魔族の妻ではないのか? 妻だけその魔族は出頭させたのか?」


「それについては誤解でございます。人の世では嘘の話でも、面白がられ広まることがございます。私とあの魔族に婚姻関係はござません。その情報がグリフォン様の耳に入ったのだと存じ上げますが、この情報は誤解であります」


 目の前のグリフォンは少し考えているようだ。もしかすると、獣同士の信号で、本国の上層部に連絡を取っているのかもしれない。


 しばらくしてグリフォンはこう言った。


「キエティ=サメワイドフル、お前を拘束して首都まで連れていく。お前の申し開きについては、裁判所にて弁明の機会が与えらえることになる。」


 そう言ってグリフォンの持ってきた巨大な鉄格子に、キエティは放り込まれてしまった。


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