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第22話 人族の街に危機が迫る

 その日キリはいつも通り仕事をしていた。


 最近のニュースは魔族とエルフ種代表キエティが結婚するということで持ちきりだ。

 あの魔族が、まさかキエティ様と結婚するとはねぇ。

 この話は本当なのだろうか? と疑ってしまう。 

 キエティ様はあの魔族を本当に好きで結婚したわけではないような気もする。


 キエティ様はいろいろな意味で有名人だった。


 男性方面に関して、キエティ様は決して浮いた話の出るような方ではなかった。

 大学校で重力の研究をしながら、副学長も務め、エルフ種の代表まで上り詰めていた。

 ただ、エルフ種の代表にはなりたいとは思っていなかったらしい。


 前エルフ種代表はキエティの父であった。キエティの父は厳格・古風な人で、キエティを研究者ではなく、どちらかと言えばエルフをより良い方向へ導くような仕事をして欲しかったようだ。

 また、キエティの父は人望が厚く、次の代表を誰にするかという話になった時に自分の娘を推薦したらしい。

 

 当然、これには反対意見が多かった。父が優秀で人望があっても、娘に適性があるかは別問題だからだ。そんなことは誰でも分かる。エルフたちは反対したようだ。


 ただ、最終的にキエティはこの代表に就くことになる。理由はよく分からない。

 この手の話は週刊誌で報道されていて、皆知っている話であるが、事実かどうか分からない面もある。


 今、自分がもし、キエティ様の立場にいたらあの魔族と結婚しようとする判断をするかもしれない。

 理由は単純で、あの魔族と婚姻関係を結んでしまえば人族を守れる可能性があるからだ。もしかするとあの魔族は強いのかもしれない。キエティ様は合理的な思考をするはずで、その可能性が高いと思う。

 ただ、多分、あの魔族の事は好きじゃないと思う。


 そんなことを考えていると、ギルマスがすごい勢いで扉を開けてギルドに入ってきた。

 従業員やその場にいた冒険者たちが驚いたような顔をする。


「全員、よく聞いてくれ!! 非常事態だ! ここで待機してくれ!!」


 そう言ってからギルマスはキリの方を見た。


「キリ!!今すぐこの街に非常警報を出す! そのための通信板の準備と、中央へ連絡できるようにしろ。理由は聞くな。時間が惜しい。早くしろ!!」


 怒鳴り声だった。

 ギルマスがこれほど大きい声で怒鳴ることは滅多になかった。

 キリはすぐに立ち上がって走りながら、従業員の方を見て近辺の冒険者に連絡を取るように指示した。


 また、急いで上の階にある中央へ連絡できる通信板を取りに行く。

 ギルマスがキリの後を付いてくる。

 そして二人で中央への通信板を見つけ、別に置いてあるもう1つの大きい通信板を取り出す。

 この大きい通信板を使う時は、街中に非常時の連絡をするためだ。

 大型の拡声器と言ってもいい。


 通信板二つを一階へ下ろすのに、五分ほど時間が過ぎていた。


 ギルマスとキリが一階に入口まで戻ると、冒険者たちが集まっていた。

 ギルマスは彼ら冒険者にも従業員にも何も言わずに、中央への通信を確保して、それから拡声器用の大きい通信板に魔力を通し、通信板に向かって大声で話し始めた。


「この街の皆、ギルドマスターのカルベルトだ。非常事態だから通信板を使って、この街全体に今話しかけている。これからしばらくして、この街にグリフォンが相当数近づいてくる。

 いいか? 絶対に逃げたりするな。家に閉じこもっていろ。奴らは獣だ。逃げまどう人を見れば反射的に襲うことがある。

 俺の考えだと、野生動物が魔素の影響を受けて、知能を持ったものが奴らの祖先だと思っている。奴らには獣の習性がある。絶対に動くな。悲鳴も上げるな。攻撃されても黙って我慢しろ。いいな!!」

 そう言って、通信板を切った。


 そして、冒険者と従業員に向かって話し始めた。


「時間がない。もしグリフォンがこの街を襲うなら、もう住民は逃がせない。もう間に合わない。

 俺達のすべきことを話す。もし、グリフォンがこの街を攻撃してきたら、諦めてその場で様子を見ろ。周りの人間がどれだけ死んでも動くな。頭を伏せて、物陰に隠れて時間をやりすごせ。そして、グリフォンがいなく無くなって、もし自分が生き残っていれば、生存者を探して救助してやれ。

 ここにいる全員は、俺の話が終わったら、すぐにこのギルドから出て、この街の各所に向かえ。そこで待機しろ。グリフォンが攻撃してきたら、うまく死なないように、あるいは死んだふりをして様子を見ろ。以上だ」


 冒険者の一人が聞く。


「グリフォンが来ているんですか?」


「間違いない。俺は見た。しかも数十体だ。何故か分からないが、ゆっくり飛行している。もうすぐ、ここへ来るだろう。あれは間違いなく人族の国へ来る。こっちの方角にグリフォン国と戦争するような国はない。質問はこれで終わりだ。現場へ向かえ!!」


 最後に怒鳴った。

 冒険者達も真剣な表情になって、一気にギルドから出て行った。


 冒険者達がギルドを出て行ってから、キリはギルドマスターに話しかけた。


「どういうことですか?」


「あの魔族とエルフの結婚にグリフォンが気づいたからじゃないのか? 〝人の国は反乱を起こした〟と判断したのだろう。いずれにせよ、グリフォンが数十体来ているのは間違いない。魔石を取りに出かけている連中は皮肉だが助かるかもしれない。この街は多分かなりまずい」


 そう言った瞬間だった。中央からの通信を受ける通信板が反応する。

 急いでキリが受信し、通信板に向かって喋りかける。


「こちらはキウェーン街のギルドになります。こちらにグリフォンが数十体向かってきているようです。現在、当街ギルドマスターの指示で、街に非常事態宣言を発しています。中央から何か指示はあるでしょうか?」


 中央からの通信板から、若い男の声が聞こえてくる。


「現在人族の3人の代表には連絡がすぐに取れません。私が代理で話を伺います。話の一部は聞こえていました。グリフォンが数十体その街に向かっているということでいいですね?」


「はい。その通りです。ギルドマスターに代わります」


 そう言って、通信板をギルマスに渡した。


「ギルドマスターのカルベルトだ。この街はもうダメかもしれない。ただ、グリフォンがもしかすると何かしら宣言してから、この街を攻撃してくるかもしれない。情報をそちらへ流したいから、この通信板については通信状態を保ってくれ。ただ、グリフォン達が数十体で、連携型の大型魔法を使えば、一瞬でこの街も首都も飛ぶ。この街だけで済むかどうかは分からない。そちらも覚悟していて欲しい」


「分かりました。グリフォン到着まで、あとどれくらいですか?」


 ギルマスが窓を見て答える。


「まだ……いや、もう視界に入ってきた。おそらくあと2分を切っている。そちらの避難状況等はそちらで判断してくれ。こちらの様子に関してはここの通信板を常時接続しておくから、音は拾える。俺はもう死ぬかもしれないが、せめてそちらで何か使える情報があれば、死ぬ間際でもそちらに情報を伝えようとは思う」


「分かりました。健闘を祈ります」


 ギルマスがキリを見る。


「キリ、話した通りだ。お前は頭がいいから、今後何をしたらいいかはお前の判断で行え、俺はグリフォンが来たらその相手をする。というか、単に話をするだけだが」


「私が行った方がいいのではないでしょうか?」


「いや、誰が行っても同じだろう。あれほどのグリフォンが来るということは、奴らは目的を決めて来ている。話し合いに応じはしないだろう。おそらく相手が何か宣言して、そのあと攻撃してくるだけと思う。俺はこの街の代表者として、おそらく最初に見せしめに殺される。お前が行く必要は無い」


 そう言うと、キリの返答を待たず、ギルマスは走り出して行ってしまった。


 カルベルトは走っていた。急いで街の入口を出て、グリフォンのところへ行かなければいけない。そう思って足に魔力を込めて急いで走り、街の入口から外の荒野へ出た。

 グリフォンが目の前に近づいてきている。キリへの通信板を接続する。俺とグリフォンの会話の様子が、これで中央へ流れるはずだ。


 グリフォンが目の前に到着する。


「この街の代表者か?」


 五十体ほどのグリフォンがいるが、その中でも、一際大きいグリフォンが話しかけてきた。


「そうです。ギルドマスターになります」


 名前は言わなかった。名前から妻のアリサに危険が及ぶ可能性があるからだ。


「我がグリフォン軍兵士を殺害した可能性のある者と人族の一人が婚姻関係を結んだのは間違いないな?」


 〝事実ではない〟と返答しようかと一瞬考えたが、下手に欺こうとして失敗したら最悪だと思い、正直に答えることにする。グリフォンは国内に密偵を放っているはずだ。嘘は通じないだろう。


「はい。現在そのように報道されています。ただ、現在、メディアがそう騒いでいるだけで、当人たちからは正式な発表があったわけではありません。本当に結婚しているのかどうか私では判断できません」


 グリフォンは少し考え事をしているようだ。いや、本国へ通信しているのかもしれない。


 獣特有の機能だ。


「その魔族と婚姻関係にある者の出頭を命じる。その内容についてはこの通信板に書かれている。確認されたし」


 そう言って、グリフォンは通信板を渡してきた。

 グリフォンから通信板を受け取ってカルベルトは内容を確認する。


〝人族はグリフォン兵殺害の容疑者である魔族、及びこの魔族と婚姻関係を結んだエルフをこの場にて、この通信板を受け取ってから丸一日後に、グリフォン軍へ引き渡すこと。容疑者両名についてはグリフォン国の裁判所にて、弁明の機会を与えるものとする。グリフォン軍は容疑者確保のためにグリフォン全軍の半分、約600の兵を派遣するが、もし、明日両名が出頭しないのであれば、その場で600の兵により人の国を亡ぼす〟


 それだけが書かれていた。


 カルベルトが通信板を読み終えたのを確認してから、グリフォンがもう一度言葉を投げかけてきた。


「何か質問はあるか?」


 キリならいい質問をすることができたかもしれないが、ただ、それよりもこの場ではグリフォン達は攻撃する気が無いことに驚く。


 何故、今人族をここで滅ぼさないのだろう?


 五十体ものグリフォンを連れてきた理由が分からない。

 不思議に思いながらもグリフォンに返答する。


「いえ、質問はありません。私はこの通信板の内容を中央へ知らせるように致します」


「それでは我らはここから立ち去ることにする」


 そう言って、目の前のグリフォンが言った直後だった。

 グリフォン軍の中でも一番大きいかもしれないグリフォンが上から喋り始めた。


「おい!! 人ども!! 偉大なるグリフォン軍の兵士を殺害した者を匿い、また、その者と婚姻関係を結ぶとはいい度胸だな!! この街一つ、今この場で吹き飛ばしてやろうか!?」


 物凄く大きい声だ。魔力で増幅しているのもあるが、大気が揺れている。


 カルベルトは〝まずい〟と思う。


 何かここで言うべきか、黙っていた方がいいのか……ただ、この通信板の内容からすると、まだ攻撃しないようには思えるが……。


「ガルマハザード副隊長、気持ちは分かるがまだ早い。ここは気持ちを抑えてくれないか?」

 カルベルトに通信板を渡したグリフォンがそう言った。


 次の瞬間、ガルマハザードと呼ばれたグリフォンが口を開けて咆哮した。


『グオオオオオオオオオ』


 薄気味悪い声が、辺り一面に広がっていく。

 しかし、その後ガルマハザードは何も言わなかった。


 そして、グリフォンたちが一体ずつ、空へ飛びあがっていく。

 来た時よりもはるかに高く上昇し、その後旋回して、グリフォンの本拠地カルサーンへ向かっていった。


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