第21話 グリフォン軍の作戦
翌日を待って、シェルドミルは首を回収した全部隊員を集めた。
そして、全員を前に話す。
「昨夜に放った信号獣からの情報によると、現在人の街は歓喜に沸いているようです。魔族が1体とエルフが1匹、それらが婚姻関係を結ぶということを、国を挙げて祝福しています。つまり、人族はグリフォンの支配を捨て、魔族と結託し、謀反を引き起こしたことになります。
これからあなた方には、もう一度人族の街へ向かってもらいます。今度は隠密作戦ではありません。魔力をあまり放出せずに通常飛行で、周囲に警戒することを優先しながら、人族の国へ向かってください。
そして、人族の街の中央ではなく、あえて首の置かれていた場所に近い街まで行き、隊長自ら、グリフォン国からの出頭命令の通信板をその街の代表者に渡してください。そして、この命令通信板を相手に渡した後に、人族の国を罵倒してください。
ただ、あまりきつくは無くていいです。敵が中から飛び出るほどに脅してはいけません。ここで、戦闘をしたら作戦が失敗になってしまいます。以上になります」
ガルマハザードが聞いてきた。
「もう少し詳しく説明しろ。何故、人の街を滅ぼさない? それに飛ぶときに魔力を放出してはいけない? お前の話を聞いていると、人族の街に挑発に行くだけではないか?」
「昨夜あなた方51体はあの町の入口に行きましたが、奇襲を受けませんでした。あの距離では人族ですら、内部からでも十分にグリフォンが来たか確認できたでしょう。しかし、犯人たちはあなた方を攻撃してきませんでした。つまり、犯人たちにとっては〝51体では意味が無かった〟ことになります」
ガルマハザードは、黙って聞いている。
「私は犯人たちの目的はグリフォンの都市であると考えています。しかし、敵の戦力ではグリフォンの都市を攻め落とすことができないと判断しているのでしょう。そのため、敵はグリフォン軍をどう分散するかに力を入れているのだと思われます。今回のこの魔族とエルフの結婚という話は完全な挑発行為です。
私たちが挑発に乗って、グリフォン軍の大半を人の国壊滅に向かわせると、最低でも半日はこの都市はどこからも増援が得られないことになります。敵はその隙を狙って本拠地を攻撃するつもりなのだと思います。だから、今、人の街へ攻め込んではいけないのです」
ガルマハザードにはシェルドミルの言いたいことはやはり分からない。
「……分からん、俺たちがもう1度あの町へ向かい、出頭命令を出すことに何の意味がある?」
「犯人はもっと大勢のグリフォンを人の街へ呼び込みたいはずです。そこで、まず出頭命令を出して、出頭するまでの日時を指定し、一旦あなた達は引き返す。その上で翌日の出頭日に、グリフォン全軍のうち半分を出撃させて、その魔族とエルフをこの街へ連行します」
「何故最初から半分の軍隊で魔族を捕まえに行かない? それにこの都市を守るには、軍は動かせないのではなかったのか?」
「最初から半分で仕掛けてしまえば敵が十分な準備を整えることが出来ないからですよ。いきなり、グリフォン軍半分が半日で人の街へ到着したら、そこにいる魔族1人は殺せても、残りの敵は捕まえられません。現在、敵達は人の街に隠れているのか、それともこの都市の周辺部に分かれて隠れているのかわかりません。
一方、私たちが、翌日グリフォン軍を半分に分けるという情報を与えればそれを前提に作戦を立ててくるはずです。犯人たちは、いくらなんでもグリフォン国が半分もの軍隊をたかが人の街に送るとは考えていないはずです。他種族から恨みを買っているグリフォン国が、都市の防衛機能の半分まで戦力を落とすとは考えていないはずです。また、グリフォンの誇りの高さから、たかが人族に半分もの戦力を当てるとは思っていないはずです。
この時を狙って警備の手薄になった都市を攻撃してくるでしょう」
ガルマハザードは慌てて質問する。
「それは万が一の場合は、王や市民を傷つけることに繋がるぞ? 貴様、意味が分かっているのか?」
「もちろん私が一番分かっています。しかし、私はこうまでしないと今回の敵には勝てないと考えています。魔力を全く使わずに、7体を瞬殺し、殺害の形跡を一切残さない。これは相当の戦力です。しかし、その後、グリフォン軍を51体送っても、その能力を使ってグリフォンを攻撃していない。〝餌〟の役割として首を置いてあるならば、犯人はその様子を監視していたはずです。
普通に考えれば、ここで51体を殺せるなら殺した方がいいはずなのに、それをしていない。戦力を減らすなら小個隊を潰すのは定石です。しかし、敵は51体を攻撃しなかった。
つまり、敵の瞬殺能力で、一度に殺せるグリフォンの数は7体以上、51体よりは小さい数ということになります。
また、ここで敵の立場に立って、この数字を最も活用する方法を考えます。
グリフォン軍の総兵士を半分にした600体を首都防衛に残すとします。
都市を守るのだから、当然円形に陣を組みます。
まぁ、仮に時計に記された12時間の12という数字で、兵士600体を割ってみると約50体になります。つまり、王宮を中心に360度を12で割った〝30度の角度〟に〝50体の兵士を配置〟することになります。
敵に対してグリフォン軍は全軍半分の600体しかいないという情報を与えれば、敵はその警備が甘くなったところを突いて、グリフォン国を攻めようとするはずです。
また、上記のようにグリフォン国の警備に円形で当たると敵が想定すれば、敵は王宮を中心とした30度の角度に複数人で突入し、瞬殺能力を使えば一瞬で7から51体近くのグリフォンを殺せるはずです。
この条件下での瞬殺能力なら敵でも〝王〟への攻撃が届く可能性があるのです。
私は王を〝おとり〟にして敵を捕まえるべきだと思うのです。
それに個人的に、敵の狙いが〝王〟にあるのではないか、これまでの他国からの暗殺状況から考えて、そう結論付けているのもあります。
しかし、敵の能力は一度使えば連続では使えないはずです。それは人の街であなた達が攻撃されていないことが証明しています。連続で使えるならあなた達は殺してしまえばいいのだから。そうすれば、グリフォン軍は人族へより大軍を向けるはずです。しかし、それをしなかった。敵の位置は現在、人の街に魔族が1体、残りの大半の個体達はどこかに隠れているはずです。
敵が瞬殺能力を放ち、それが王に当たらなければ、敵の作戦は失敗です。そして、ここで作戦に失敗した敵を捕獲すればそれで終わりのはずです」
ガルマハザードは驚きながら聞く。
「しかし、それでは王宮も都市もダメージを受けることになるぞ」
「ですから、現在、王と市民を地下シェルターへ移動させています」
ガルマハザードは、ここで激怒した。
「馬鹿か貴様!! 王を、偉大なるグリフォンの王を王宮から逃がしただと!? どれだけの屈辱が歴史に残ると思っている!!」
シェルドミルは真剣な顔でずっと話していた。
普段のシェルドミルは、他人を小馬鹿にしたような態度を取ることも多かった。慇懃無礼だった。
しかし、それをしても大勢から認められるほどの功績をグリフォン軍に残していた。
他国からの暗殺者を撃退してきたのはシェルドミルの頭脳だった。
シェルドミルはガルマハザードを見たまま、最後の話を始めた。
「この作戦内容について、私自ら王に話をしました。王はずっとこの話を聞いていました。
私は敵が強大である可能性を王に伝え、そして敵はグリフォンの特性を熟知している。つまり、その誇りの高さから〝王は王宮にいる〟と確信しているはずだ。そこでその考えの裏をかきたい、そう、王に申し上げました。
今回の――私のこの作戦内容は不敬罪で死罪に値することも理解した上で、王に進言しました。
王は私の話をずっと黙って聞いておりました。
そして、最後に立ち上がって〝お前に全てを一任する〟そう仰いました。
今回、私なりにこの作戦には自らの〝命〟を掛けました。
今日51名で飛行し、人の国へ挑発に行くためには、ゆっくりと通常飛行をしなければいけません。
私達が敵に気づいていないフリをしなければいけないからです。
昨日は隠密行動だったので、敵が私達に対処できなかった可能性もありますが、今日は人族の国へ行く途中でも敵から狙い撃ちに会う可能性があります。全員は帰って来られないかもしれません。しかし、帰って来られなかった人数が判明すれば、敵の能力の殺傷人数が正確に判明することにはなります。
――ですが、いずれにせよ、今回の作戦では今日か明日、確実に〝死者〟が出ます。
ガルマハザード、私はあなたにしても、そして、ここにいる者達にも命を掛けてもらいたい。
この3000年大戦はなく、グリフォン兵に多数の死者が出たことはありません。
しかし、今回の作戦では確実に死者が出る。
全員が命を掛ける覚悟がなければ勝てないかもしれません。
どうか、力を貸して頂きたい」
シェルドミルはそう言った。
シェルドミルの表現は〝お願い〟をしているようには見えるが、頭は下げない。
ガルマハザードはそんなシェルドミルを睨みつけている。
そして、その目つきのままで喋った。
「王のために全力を尽くして差し上げたい」
ガルマハザードのその発言を聞いたその場にいたグリフォン兵達の士気は上がったのだった。




